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「はぁ…」

「桂さん?溜め息なんて珍しいですね。どうかされましたか?」

「いや、なんでもないよ。それにしてもずいぶん暖かくなったものだね」

「そうですね。もうすぐ桜に蕾もふくらんでくるでしょうね」

なおも心配顔の藩士に大丈夫だからと微笑みをかえし、与えられた部屋に戻った。

会合のため、京の外れにある宿に泊まること数日。
何度も行き来するのは目に付くため、藩邸に戻る事も叶わない。

現状報告の文をしたためるために文机に向かい、気付けば夜も深くなっていた。

凝り固まった肩に手を当て、目を閉じ、左右に数回首を傾ける。
閉じられた瞼の裏に自然と浮かぶのは彼女の姿。
ある日突然、我が藩邸にやってきて、そのまま逗留することになった娘さん。




明日には藩邸に戻れるだろう。
何か帰りに買って帰ろうか。
彼女は甘味は好きだろうか。
藩邸で居心地の悪い思いはしていないだろうか。




そんなとりとめもない考えが去来する。

「いや、そんなこと心配する必要はないな。藩邸には晋作がいる」

そう口にするも、その言葉に胸がざわつく。

そのざわつきが意味するものを「正体のしれないものを晋作の傍に置いているせいだ」と結論付け、再び文机に向かった。


→アトガキ



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