Birthday eve
太陽はギラギラと容赦なく照りつけ、足を踏み出すのをためらうほど気温が上がっている室外では、その暑さに負けじとけたたましく蝉が鳴いていた。
こんな真夏なのに、俺は久々の熱に浮かされ、エアコンの効いた寝室でベッドの黒いシーツに埋まっていた。
うっすらと額に浮かぶ汗と張り付いた髪の毛、ふわふわとする頭、水分を求めて瞼を開けようとするも余りに重たく、夢か現実かわからないくらいの感覚の中、ガチャリと玄関の扉の鍵が開けられるような音を聞いた気がした。
ベッドの傍で人の気配を感じ、無理やりに瞼を開けると心配そうに覗き込む見慣れた姿が目に入った。
「大丈夫かい?晋作?」
「…………なんだ、小五郎か」
「……なんだとはご挨拶だね。」
「男の見舞いなんかありがたいどころか、気持ち悪いだろ」
「全く。どうせこの家には何もないだろうと思って見舞いに来てみればこの扱いだからね」
ほらと差し出されるプラスチックのそれは、今まさに欲しいと思っていた水分で。
苦笑いをしながら、さし出されたペットボトルの清涼飲料水のストローに口をつけた。
「一日寝ればケロッと治るお前が長引かせるなんて夏風邪はやっぱり怖いね」
「あ〜なんだか熱が下がらなくてな。大分マシにはなってきたんだが」
「ま、ゆっくり休めというお達しだよ。
今日明日と休め。店は大久保さんも岡田君も出てくれるから大丈夫。」
「…そうか、明日は出たかったんだけど…な。しかし、菌を店でばら撒くわけにはいかんからな」
「そうそう、早く治して下さいよ。オーナー」
ふっと笑みを浮かべた小五郎はそのまま静かに立ち上がり、キッチンの方へ姿を消した。
カチャカチャと聞こえる音に耳を澄ませるとなんだか店にいるような心地がしてきた。
***
数分後、旨そうな匂いとともに再度寝室に現れた小五郎は
「どうせ何にも食べてないんだろ?ほら。」
差し出されたトレイには温かそうなスープとスプーン、ウサギの形のりんごたちとフォーク、そして薬と水
「あと食べれそうなもの作ってきて冷蔵庫にいれておいたから、食欲がわいたら温めて食べろよ」
「おう…すまんな」
「病気の時は仕方ないだろ。しかし、お前この部屋…」
小五郎は部屋を一周見渡すとため息を吐いた。
「最近はほとんど寝るためだけだったからな〜この風邪で追い討ちだな」
俺が苦笑いを浮かべながら部屋の惨状を見渡すと、「仕方ないね」といいながら小五郎は寝室をあとにした。
一人、用意された食い物を平らげ、薬を飲むと猛烈な眠気が襲ってきた。
小五郎がリビングの方で何をしているか少し気になったが、だんだんと重くなってくる瞼には抗えずに、ついにはぴたりとくっついてしまった。
洗濯機が回る音、食器を洗う水音、掃除機の音、何かを拭いている音、そしてパタパタと動く人の気配
それらを感じつつ、夢の世界に落ちていった。
***
一通り作業を終え、寝室に戻ってみると晋作は寝息を立ててすやすやと寝ていた。
起こさない様に静かに寝室も手早く片付ける。
「明日、彼女が見舞いに来たいと言っていたんだ。
鍵は私が預かっている分を渡しとくよ。
お前は弱ってるところを見せたくないだろうが…ちゃんとお祝いと看病をしてもらうんだね。
ふふ、少し早いが誕生日おめでとう、晋作」
→アトガキ
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