背伸び

カナちゃんや彼氏がいる友達が1ヶ月、3ヶ月、半年、1年…といった感じで記念日にお祝いのデートをしたり、お揃いのアクセサリーやストラップをつけているのを正直羨ましいって思っていた。

そして、いつか彼氏ができたらそんな風にすごしてみたいなってずっと憧れていたんだけど…。



「ふぅ、今日も寒いな〜」

少し悴んだ指先に息を吹きかけた。

もうすぐ小五郎さんと恋仲になってあと数日で1年。

いつも包み込むように私を愛してくれる優しく穏やかな年上の恋人。

小五郎さんの周りには大人っぽい女性や色っぽい女性、知的な女性などなど到底私がかなうはずのないような人ばかり。

なぜ自分を選んでくれたのかは未だに理解しがたいが、彼の言葉を信じ、自分の気持ちを信じ、此処に残ると決めた。
それなのに…それでも元居た場所での思いが湧き上がる。


(でも…小五郎さんにそんな子どもっぽいこと言えないよ…)

ふぅと小さく吐いた溜め息は白く吐き出され、青空に溶けていった。


***

外での仕事を済ませ自室に戻ると部屋に人の気配を感じ、少し警戒をしながら静かに襖をひくと中にあったのは可愛い後姿。

「あぁ、部屋を片付けてくれたんだね。ありがとう」

「…。」

「蘇芳?」

傍に寄り、肩に手を乗せてみるとやっと気づいたようで棚を拭いていた手を止める。

「あ、小五郎さん!おかえりなさい」

弾んだ声とともに満面の笑みを浮かべ、帰りを迎えてくれたが、最近蘇芳の様子がおかしい。
何がおかしいのかと言われれば「これ」といったものはないのだけれど、なんだかぼうっと考え事をしているか、浮かない顔をしていることが多いのだ。

何か想うところがあるなら自分に言って欲しいという気持ちが沸々と浮かぶが彼女のことになると未だに上手く立ち振る舞えない。

「どうかした?」

私からの問いかけに黙ってしまった蘇芳に再び声をかけ顔を覗き込むと、大きな瞳にじわりと薄い膜が張る。

「可愛い瞳が露に濡れている様だけど?」

「…っ、なんでもないですよ!」

にっこりと笑みを浮かべる笑顔にはぎこちなさが残る。

蘇芳が無理に作った笑顔をみるとどうしてやればいいのかわからず、心が締め付けられるような気持ちになった。

***

1年以上京の長州藩邸や小五郎さんにくっついて長州の各地でお世話になっていると自然と顔見知りも増え、少ないながらも女の子の友達が何人か出来た。

流行の御洒落についてだとか評判の役者さんとか色々な噂話とか、空いている時間にガールズトーク出来る相手ができたことがすごく嬉しかった。

今日も高杉さんも小五郎さんも外出をしていて、お手伝いが終わった後、時間を持て余していたので女中さんたちが休憩している部屋に遊びにいっていた。

女の子は、話に花が咲くと話題がつきないのはどの時代でも一緒のようで、お菓子とお茶を囲んで取り留めのない話をしている最中、話題の矛先が自分に向いてきていた。

「蘇芳ちゃんには桂様がいるもんね〜!」

藩邸の中で私たちの仲をもう知らない人は居ないようで、たまに話の種にされていた。

「桂様と祝言の約束してるの?」
「一緒に寝てるの?」
「普段の桂様ってどんな感じ?」
「蘇芳ちゃんにしか見せない顔があるんだろうなぁ〜」

きゃあきゃあとどうとも答えにくい質問ばか
りでどう答えたらいいものか苦慮していると部屋の外からもう一人の噂の的の声がした。

***

蘇芳に用事があったのだが、心当たりには姿がなく、最後に女中の集まる賑やかな声のする部屋に行き、外から声をかけた。

「失礼。休んでいるところにすまないが、蘇芳はいるかい?」

「小五郎さん」
「か、桂様!!!!」

賑やかだった部屋が急に静かになる。

「ここにいたのか」

探したよと声をかけながら頭を撫でると真っ赤に頬を染めた蘇芳に話を続けた。

「せっかくのところをすまないが、晋作が用事があるといって呼んでいたので先に部屋に行っておいてくれないか?私もちょっと用をすましたらすぐ行くから」

「はい。わかりました。じゃ、皆さんまた。」

部屋の者に会釈をして部屋を出、パタパタと足音が遠ざかるのを聞くと女中たちに向き直った。

(なぜだかびくっとしている者もいるようだが、そんなに私は煙たい存在なのか…)

内心溜め息をつきながら、本題に入った。

「休んでいるところに邪魔して悪かったね。ところで、最近蘇芳がたまにぼうっと考え事をしているようだけど何か変わった様子はなかったかい?」

「?いつもどおりですよ?」

色々ときいてみても女中たちには心当たりがないようだった。

「そうか。手を止めてすまない」

「いえ。…あ!桂様、蘇芳ちゃんて里はどこなんですか?」

「ん?どうしてだい?」

(蘇芳の身元か…流石に未来から来たとはいえないしな…)

どう答えたものかと考えていると女中の一人が口を開いた。

「いや、変わった風習が色々とある里みたいなので少し気になって」

「変わった風習?」

「ええ、なんていうか長州や京の季節の折々のものとは違っているので変わっているなぁとおもって」

「ふむ…。確か京より東だったはずだよ。」

「蘇芳ちゃんの里ではお祝いごとが多くて大変ですね。恋仲との記念日に二人でお祝いをするらしいですよ。そんなこと初めて耳にしました。」

(そういえば、誕生日なる私の生まれた日についても色々と言っていたな。もしかしたらそのあたりにあの表情を説く鍵になるかもしれないな…)

「そうか。そうだ。奥の部屋に客人がみえたのでお茶を7つ頼むよ。」

用事を1つ申し付けて、廊下に出て、会合が行われる部屋に足を向けた。


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