嘘吐きな人

段々と春が近づいてきて、気持ちのよい日差しの日が増えてきたある日

今日は時間ができるからと蘇芳と出掛ける約束を前々からしていた。



「…すまない。急な仕事が入ってしまって、今日は出掛けられなくなったんだ」

「そうですか、仕方ないですね…。まだお時間は大丈夫なんですか?」

「出るのは1刻後なんだが、色々と書き物をしなければならないんだ」

分かりました…と俯く蘇芳

「そんな顔しないでくれ。」

残念そうな表情を隠すかのように、完全に下を向いてしまった蘇芳が急に胸の中に飛び込んで来て、きゅっと私の体を抱きしめた。

そのままの体勢で「小五郎さんの馬鹿…」と呟くその身体は小刻みに震えていた。

(泣いている?滅多に我侭を言わない蘇芳がこういう行動をとるなんて…)

いくら仕事の事とはいえ、このような態度をとられたことでそれまであった罪悪感が更に大きくなった。

「すまない蘇芳、こっちを向いてくれないか?」

いやいやと首を振る蘇芳の顔を無理矢理上にあげさせると自分が思っていた表情とは全く異なる蘇芳の顔があった。

私の表情を見ると満足そうに微笑み、
「今日、4月1日は、私がいたところでは嘘をついていい日なんです。」
といった。

「嘘をついていい日?」

「はい。凄く残念だったから意地悪したくなったんです。」

「さっきのは演技?」

「はい。悪戯が過ぎましたね。ごめんなさい」

「そうかい…君が泣き出したと思って…すっかり騙されてしまったよ」

ニコリと微笑むと、蘇芳は嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、
「でも、嘘っていうのは半分で残り半分は本当です。小五郎さんとなるべく一緒に過ごしたい気持ちは本当ですからね?」
と教えてくれた。

「そうか。可愛い嘘と演技だった。では藩邸の外ではなくて悪いが、少しだけ一緒に庭を散歩しないかい?」

「はい!!!」

嬉々として奥に去っていくを見送った。


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