五割増し1
.
寺田屋に隊服が届いた日、服に合わせ、断髪式と称してみんなの髪を切ってあげた。
龍馬さんと以蔵は印象はあんまり変わらなかったけど、髪が長く綺麗な武市さんと慎ちゃんはもったいなくってハサミをいれるのに躊躇した。
首元が心許ないとか髪の洗い応えがないとか各々の主張はあり、いつもより大騒ぎしながらその夜は更けていった。
翌日、大切な会合もいよいよ大詰めらしく、全員で薩摩藩邸を訪ねると既に着いていた高杉さんと桂さんが迎えてくれた。
二人もいつもの着物姿ではなく、洋装、短髪だった。
「二人とも洋装良く似合ってますね。桂さんは髪が長かったからとても印象が変わったけどその髪型もステキです。」
「そうだろ、蘇芳。惚れ直したか?俺の後ろ姿も見てみろ」
「ありがとう。お誉め頂き光栄だよ」
満足げな高杉さんのいたずらっ子のような笑顔と桂さんの美しい微笑に私も笑顔で応え、他愛のない話をしながら穏やかに会合前の時間がすごしていた。
(土佐藩 中岡慎太郎)
「高杉君、そろそろ時間だ」
大久保さんの声が襖の向こうから聞こえ、高杉さんの返事とともに襖が開かれ、声の主が姿を現す。
目敏く見つけた姉さんに大久保さんは憎まれ口という名のちょっかいを出し始めた。
「小娘、お前も来ていたのか」
「…………お、大久保さんこんにちは」
一瞬の沈黙の後、姉さんは顔を紅潮させながら挨拶の言葉を発す。
「大久保さんも洋装ですけどみんなとは違う感じの洋装ですね」
「軍服など常に来ておれるか」
「目あったんですね」
「元々目はある。小娘は言葉が足りないな」
二人はいつものように言葉を交わしているようだが、姉さんの頬は真っ赤で、視線は大久保さんから外されたまま宙を泳いでいた。
姉さんの様子に勿論皆気付いていて、高杉さんが「おい!蘇芳どうした?」と声をかける。
明らかな動揺をみせつつも「っ…なんでもありません!お邪魔になるので用意してくださったあちらのお部屋にいきますね」と言い残し、脱兎の如く、部屋から出ていった。
[ 7/136 ][*prev] [next#]
[top]