winter song
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高杉が伊藤に命令を下してから数週間後
いいお天気の中、藩邸のお庭の掃除を小さく歌を歌いながら掃除をしていると、藩邸の奥から賑やかな足音が聞こえてきた。
「おい、蘇芳」
「あ、晋作さん」
「今歌っている歌の『ゆう』はオレのことか?」
「へ?」
「今の歌の意味わかって歌っているんだよな?」
「う、うん。大体は」
英語の授業の一環で好きな英語の歌を訳するってことがあって、その時に選んだ曲だから一通り意味は分かっている。
「その中に出てくる『ゆう』はオレのことかと聞いているんだ」
「いや、そんなことは。」
「じゃ、誰のことだ!」
晋作さんに肩をガシと掴まれ、鼻と鼻が触れ合いそうなくらいの距離まで詰め寄られる。
「いや、誰ということではなくて、ただの歌だよ。うーん。ま、強いて言うなら晋作さんのことかなぁ?」
あまりの顔の近さにしどろもどろに答えると満面の笑みで
「よし、じゃあ願いを叶えてやる!!!!」と高らかに宣言されてしまった。
こんなかわいいお願いをされているのに気付かなくて悪かったなと頭をぐちゃぐちゃと撫でる晋作さん。
お願いってなんの事だろうと首を傾げながら歌詞を思い出す。
「!」
気付いた様子の私の顔を見て、満足そうな晋作さんは
夜、ちゃんと部屋に来るんだぞ!と耳元に囁いてまた部屋に戻っていった。
真っ赤になりながらも完全に違うとは言い切れない自分の気持ちと歌詞に苦笑いしながら今度からは鼻歌にしようと心に決めるのだった。
『今夜あなたに側に居て欲しい
あなたの腕に包まれていたい』
→《アトガキへ》
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