バレンタイン

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(長州藩 桂小五郎)

会合後の酒の席から自分だけ一足先に戻って来たが、藩邸に着く頃にはすっかり陽が暮れていた。

蘇芳さんから預かった包みを皆に配り、先日聞いたばれんたいんでーを皆に説明をした。
この時代にはなかなか手に入らない甘味だったようで彼女の心遣いに皆喜んでいた。


私の分は帰ってから渡すと言っていたが、すっかり遅くなってしまったので彼女はもう休んでいるだろう。
ばれんたいんでーの当日に貰えなかったのは少し残念だが仕方ない。

(残念?いやいや一体何を考えているんだ。)
自嘲めいた笑みがこぼれた。


蘇芳さんの部屋の前を通り掛かるとまだ灯りが灯っていた。

起きているなら皆の反応を報告しておこうと廊下から声をかけた。

「蘇芳さんまだおきているのかい?」
「ん?んっ〜?………桂さん?」
「ああ、ちょっといいかい」
「はい」
どうぞと促され、襖を開けた。
遅い時間に女子の部屋に入るのは抵抗があったのでそのまま廊下から話を続けようとしたが、「廊下は寒いから」と手を引かれた。

引かれた手は少し温かく、転た寝をしていたのか目を擦りながら少し眠たそうにしていた。

「桂さんを待っていたんですけど、うとうとしちゃったみたいで」
「そうかい。ああ、皆に預かったものを渡したら大喜びだったよ」
「ほんとですか?よかった!ありがとうございました。
…これは桂さんの分です。いつもありがとうございます。」
「ありがとう」

渡された包みは日中皆に渡したものと同じものだった。
ふと彼女の後ろの文机にもう一つ別の包みを見つけてしまった。

誰かに渡すつもりだったのだろうか…妙に心がざわつく。

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