お守り
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小五郎さんはたまに可愛らしく私に甘えてくる。
さっきみたいに。
常日頃の小五郎さんは自分を律していてとてもかっこいい(たまにお堅過ぎる時もある)のだけど。
そうやって自分を、自分だけを求めてくれているのは、恥ずかしいのだけど正直凄く嬉しい。
寝室に入った途端、後ろから痛いくらいに抱きすくめられる。
顎を肩に乗せるような形で「お疲れ様、蘇芳」と優しい小五郎さんの声が鼓膜を揺らす。
そのまま近くのソファに腰を下ろした。
「今日は早くふたりきりになりたかった」と耳元で囁かれると心臓が激しく打ち付ける。
今は妻という立場だけど、でも、きっとこの感じは何年経っても変わらない気がする。
「さっきの話だけど」
「さっき?」
「私が長い間不在にするけど、その間、本当に大丈夫だろうか」
「ああ!大丈夫ですよ!最近私しっかり『奥さん』をしてるっていわれるし!」
ぐっと拳を握り締めて小五郎さんにアピールしてみせるとくすっと笑われてしまった。
「私の心配はそこじゃないんだけど」
くすくすと笑いながら小五郎さんは話し始めた。
「本当はね、子どもでも居ればと思ったんだよ。悪い虫も寄って来ないと思ったし。
でも、それは独りよがりな考え方なのかもしれないと思ってね」
「どうして?私も子どもがいたら楽しいと思いますよ」
「確かにそうだね。でも、そうしたら君の負担は益々増えるだろう?
私の居ない間、女主人として一人でやっていかなければいけないのに子どもの世話もだなんて。」
「そうですね。でも大丈夫ですよ?」
「大丈夫だろうね。でも、私の我侭なんだよ。子どもの成長をちゃんと見てやりたいと思ってね。幼い頃の成長は早く貴重な時間だろう?」
「えぇ、そう聞きますね!」
「だから子どもは帰ってきてからにしよう。約束だよ」
「わかりました!」笑顔とともに告げると小五郎さんは頭をぽんぽんと撫でてくれた。
***
数日後、仕事から帰ってきた小五郎さんの腕には白い子犬が一匹抱かれていた。
「わぁ、かわいい!どうしたんですか?」
「ちょっと預かり物でね。私が居ない間になるんだが、面倒をみてもらえないかな?」
「はい、よろこんで!!かわいいですね!」
「そうだろう?紀州犬なんだ。ほら、庭を探検しておいで」
腕から元気よく飛び出して子犬は元気よく庭をかけまわっていった。
「旅立つ前にいろいろと躾なければいけないけど、それは私も一緒にするから」
「はい!」
二人でころころとした身体で庭をくるくると駆け回る小さな白い犬を眺めた。
***
「ぐるるるるっ、わんわん!!」
「うわぁぁぁ!なんだこの犬は!!」
「なんじゃぁ?」
「あ、だめだよ!シロ。お客さんだから!」
「くぅん」
「なんなんだ、蘇芳 この犬は!!!」
「最近飼い始めたんですよ。小五郎さんが連れてきてくれて!」
「全く・・・来客があるとこんな風にほえるのか?」
「そんなことないよ、以蔵。う〜ん、小五郎さん以外の男の人はあんまり好きじゃないみたい」
苦笑いを浮かべながら応えると、背後から小五郎さんが現れた。
「やぁ、出立前の挨拶かい?わざわざありがとう。よくきてくれたね」
いつもよりもご機嫌な美しい笑顔で。
→アトガキ
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