三人の貴方
昼下がり、藩邸の一室で高杉さんと小五郎さん(たち)は緊迫した様子で対峙していた。
「晋作、今日という今日は逃げられないよ」
「絶対にはずせない会合だからね」
「本来なら晋作のみで私が行く予定ではなかったけど、今日は人手があるからね」
「お、おう・・・わかっているっ!!!」
さすがの高杉さんも三人の小五郎さん相手には適わなかったようで、渋々一人(多分、朝餉を作っていた小五郎さんと稽古に出ていた小五郎さん以外)の小五郎さんと一緒に会合に出かけていった。
***
夜、会合を追え、無事に藩邸に戻ってきた小五郎さんと高杉さん
「いやぁ、今日は実にいい話ができてな」
といつも以上に上機嫌な高杉さん。そしてその横の小五郎さんもポーカーフェイスだけど機嫌がいいのがわかる。
「だがな、それ以外にも面白いことがあったんだ」
「小五郎はいつも切れるやつだが、今日の小五郎は一味違っていてな。いつも嫌味ったらしいやつがいるんだが、相手にぐうの音もださせなかったぞ」
「そうだったんですか。よかったですね!私もその様子見てみたかったなぁ〜」
上機嫌の高杉さんのせいでいつもより多めにお酒が進み、すっかり夜がふけてしまった。
***
三人いっぺんに部屋に戻ると誰かに見つかってしまう可能性があるため、ひとりずつ小五郎さんは部屋に帰ることになった。
先に部屋に帰った二人の足つきは普通どおりだったのに会合に参加した小五郎さんの足元はおぼつかない。
少し肩を貸すような形で部屋に向かった。
「足元大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ。おかしいな、こんなになるほど飲んでないと思うんだが」
「他の二人はけろっとしていたから、もしかしたらあの二人のせいかもしれないですね」
「あぁ、そうか。ほんと不便な一日だったよ」
「そうですね。お疲れ様でした」
じいっと見つめるとふぅっと小さくため息を吐かれてしまった。
「どうしたんです?」
「いや、本来なら蘇芳と一緒に居れる筈の時間も三人で分けることになったからね。早く元に戻りたいよ」
支えるために添えていた右手をきゅっと握られ、じぃっと至近距離から見つめられると目が離せなくなる。
「ふふっ。真っ赤。
このまま部屋にと思ったが、三人のままだと君と共寝ができないからね。今日のところはおとなしく部屋で休むとしようか。」
「え?そうなんですか?酔いがひどいみたいなので様子を見ようかと思ってたんですけど」
ゆっくりと小五郎さんの私室に歩を進め、部屋の戸を引く。
「じゃあ、三人分相手してくれるのかい?」
「え!?・・・・・・えぇ!?無理です!絶対に無理っ!!!」
絶叫に近い声で反論するとその声に反応したのか、その前から話を聞いていたのか部屋から顔をだした小五郎さん(たち)がくすくすと笑った。
「いま、一体何を考えたんだろうね」
「ぜひとも聞いてみたいものだね」
「そうだね。まぁ、でもそうか。残念だが仕方ないか」
「これ以上いじめるとご機嫌を損ねそうだ」
「そうだね」
「「「ゆっくりおやすみ」」」
「おやすみなさい」
(今日はほんとに大変な一日だったな。ドキドキも三倍だった気がするよ。)
戸を静かに閉めると空に浮かぶきれいな月を見上げた。
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