青花
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陽が落ちる頃にポツリポツリと降りだした雨はいつの間にか本降りとなり、京の町を包んでいた。
厚い雨雲に覆われた月のない夜空
客の大半は寝静まり、静寂を保つ寺田屋の一角に緊張が走った。
「蘇芳、蘇芳!起きるんじゃ」
既に眠りについていた私は急に揺さぶられ、寝惚け眼のまま、布団から起き上がった。
「…ん…りょまさん?」
くっつこうとする瞼を擦り、よく部屋を見渡してみると、部屋の中には寺田屋のみんながいた。
布団の傍らには龍馬さんがいてぼんやりとする私を更に目を覚まさせるように肩を揺さぶった。
「しゃんと起きたか?急なことですまんが、一度寺田屋を離れねばならなくなった。」
「…へ?」
改めてみんなを良く見てみるといつもの着物姿だけど動きやすい格好、というか旅支度だ。
真剣な瞳で見つめてくるみんなの顔をみているとこれはただ事ではないというのはすぐ分かったが頭がついてこない。
混乱するままみんなの説明を聞いてとりあえず頷いた。
「わかりました。私はどうしたらいいですか?」
すると、既に立ち上がり部屋を出ようとしている龍馬さんや慎ちゃんとは別の方向からすばやく声が飛んだ。
「君のことは大久保さんと高杉さんに連絡してお願いしてある。
薩摩、長州どちらでもいい。先に迎えに来た方に行きなさい。わかったなっ!」
「え、私は一緒にはいけないんですか?」
「今は急いでいるから無理だ!先生、早く裏口へ」
「すまないが…」
「武市!ぐずぐずしてる暇はない!いくぞ!」
龍馬さんの声が鋭く響くと一斉に裏口方向に走っていくみんなを私も必死で追いかけた。
「女将、迷惑をかけてすまないが、よろしく頼む」
「へえ、確かにお預かりします。皆さんもお気をつけて」
会釈をする女将さんの表情も固く強張っていた。
「よし、大丈夫っス!行きます!」
裏の扉の戸に手をかけ、外の様子を確認していた慎ちゃんが鋭く指示を出すと、4人が走り出した。
「龍馬さん、慎ちゃん、以蔵!……半平太さんっ!!!」
「蘇芳ちゃん、大きな声出したらあかん!!!」
小さく鋭く響く女将さんの声にビクリと身を縮め、私は声を潜めた。
「っ!半平太さん!半平太さん!!!」
私が小さく呟く声が響く中、みんなの背中は暗い夜の闇に溶けていった。
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