安い買い物2

宿泊先に戻った頃にはすっかり夜も更けていた。

帰り道はずっと黙ったままの大久保さん

「大久保さん?」

「蘇芳、おまえは隙がありすぎる」

「初対面の男に手をひかれたり、口付けを許したり…」

「う、ごめんなさい…」

「…まぁいい…最後にグラバーはなんて言っていたんだ?」

(まぁいいって表情じゃないんだけど…)

「えと、ピアノをいつでも弾きにきていいって言ってました」

そう答えた瞬間、眉根が少し寄ったようにみえた。

「わかった。疲れただろう。もう寝ろ」と言い捨て、先に部屋に戻っていった。




結局、長崎滞在中はバタバタとしていてグラバーさんのところには行くことはできなかった。




長崎を立つ前夜、月を見上げて長崎での思い出と明日からの旅路を思っていた。

(うーん。もう1回くらいピアノ弾きたかったな…残念だけど仕方ないか)





数日かけて京の藩邸に戻ると大久保さんにとある部屋に呼ばれた。


そこには立派なピアノが1台部屋を占領していた。

「…これ…」

「ぴあのだ。」

「どうして?珍しいものなんじゃ?」

「まぁ珍しいだろうな。藩邸の者は初めてみたんじゃないか?つい先日届いた」

「え…前から来る予定だったですか?」

「……そうだな」

「弾いていいんですか?」

「好きにしろ」

ピアノの鍵をぶらんと目の前に差し出す大久保さんから鍵を受け取った。




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