嘘吐きな人

草履を履いて、小五郎さんの待つ中庭の方へ急ぐ。
小五郎さんの姿が見えた瞬間、嬉しくなって「小五郎さん」と声を掛けた瞬間、


ばったーーん


足元の庭石につまづいて転んでしまった…。

「ああ!!!大丈夫か蘇芳!」
駆け寄って来た小五郎さんに抱きかかえられる。

(こけるなんて…うぅ…はずかしすぎる…)

抱かれたまま、縁側の方に連れて行かれ、下ろされると下から覗きこむように痛い所はないか問われる。

「大丈夫です…」

「あぁ、こんなに泥まみれになって…頬にまで泥がついているよ」と頬に手をあて、丁寧に泥を払ってくれた。

「す、すいません…」

「せっかくの着物が汚れてしまったね。着替えた方がいい」

「…はい…」

「髪も乱れてしまって…」と小五郎さんの懐から出された櫛で髪を梳かれる。

「…すいません」

謝罪の言葉しか出てこない。

「…こんなになってしまっては散歩どころじゃないね。
泥まみれになっているから風呂に入った方がいい」

はいと返事をする前にすうっと身体を抱きかかえられ、風呂場の方へ足が向けられた。

為されるがままにされていた私の耳元で小五郎さんが、
「こけたばかりで足も傷むだろうからこのまま連れて行ってあげるよ。
そうだ、一緒にはいって洗ってあげようか。」
と囁いた。

「ええええええええええ!」
「お出掛けは?」
「時間ないんですよね?」
と慌てふためいていると

「…嘘だよ。今日はいいんだろう?嘘をついても」

小五郎さんは極上の笑顔で微笑んだ。

(仕返しなんだろうなぁ〜やっぱり勝てないや…)

二人の笑い声が藩邸に響いた。



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