※ 源田と佐久間と帝国
※ 時間軸は1期/視点は源田
※ 源田クンははしゃいでいる



おれの運を分けてあげる。
手術が終わって手が動いたら、返しに来て。

手術は俺の方が先に行われた。割れた骨を正確に接ぐための、たぶんそんなに簡単ではない治療だと思う。
佐久間の方が緊急性は高いけど、急くよりも慎重にする方が良いようだ。痛み止で時々朦朧とした佐久間と話すと、謝る事が多い。
俺の手を心配して、この上も無く辛そうにする。
そうして少しずつ、眠っていく。

俺にはそれが二度と目覚めないように見える。

佐久間が眠ると後悔する。

しなきゃよかったこと言わなきゃよかったこと、こうしていればと思うこと。
訊きたかったこと行きたかった場所傷付けたこと謝れなかったこと。
佐久間が死んだ時の後悔。
それを何度も繰り返した。
そうやって体に刻み付ける。死んでいたのかもしれないと戒める。
模擬の死体の隣に居れば、生死は実に曖昧になり、訓練も実際さながらひくひくと肺が痙攣する。

佐久間が目をさました時、いつも何かを言いたくなるのにふさわしい言葉が出てこない。思い付かないし喉がつまる。
こんなまんまで手術の日が来て佐久間は運を分けてくれた。
気負いは無かったけど佐久間が居れば昔から負ける気がまるでしなくなる。だから無謀もできてしまった。
そしてしっぺがえしがこれだ。



何もかもしろい空間に、日に焼けた手が差し出された。
昼間の部屋は更に白く、現実味が無いくらいに思えたが、その手だけは暖かかった。優しくて、たまらない。
現実なんだと実感させてくれる。
一方で現実であると思い知らせてくれる。

「泣くな」

俺は泣いてなどいなかったが、
なんとか、ああ、と答えた。

「泣くな」
「ああ」
「泣くな」
「………」
「…泣くな」
「……ああ」

傲り高ぶっていたつもりは無い。俺は本当に、ひたすら愚かだった。考えの足りない、ばかだった。
「佐久間」
「泣くなよ、源田…
大丈夫だから」
佐久間はもう歩けないかもしれない。
大丈夫だからと言ったのは、俺のことだ。手術はおそらく成功したのだ。
つまり佐久間が大丈夫だと言うのは俺だ。だから泣くなと言っているのだ。
こいつ一体何言ってるんだろう。俺は泣いてない。泣くことなんかない。好きだよ佐久間。心臓が破けそうだ。
「そうだ…返すよ佐久間。手を握ってくれ」
「お前が握れよ。手が動くなら」
「…なら3日待ってくれ。2日でもいい」
「いつまでも待つよ。それが無くてもおれは結構強運みたい」

ふふ、と笑う佐久間の声で、不思議な体験をすることになる。
ぼんやりと白かった部屋が急に光と色に満ち、外のざわめきや呼吸の音さえ透き通るように成ったのだ。

佐久間は車椅子だった。

手術はもう終わっていて、俺は数日も眠っていた。
手が動いたら借物を返してこいつを抱き締めささやこう。
ささやく愛のあいさつを、手が動くまでに決めなくては。


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