※ 源佐久(帝国)
※ 若干暴力表現入ります
※ キモいモブ生徒出ます



有名なことだ。そもそも暗黙というか、考えるまでもないことだ。
「綺麗な花には刺ってな」
「あいつの場合、刺はあいつ自身に無いけどね」
ごもっとも、とため息。

2人の前には2つのしかばね。もちろん比喩だがこの場合、死んでない方が不思議である。


事は一時間前に遡る。
(…下衆め)
左手には潰された封筒。握力に折られしわだらけの無惨なその封筒には、卑怯を連ねた脅迫文書が入っていた。
内容はただいつにここに来いという簡単なもの。ただし従わなければひどい目に遭う。貴女ではな無く貴女の大事なものや人が。
佐久間はこういった卑劣を特別嫌う質であった。
姑息は下品で許すまじ。
ただ屈したつもりは毛頭に無く、叱咤と返り討ちを目的に指示に従ったまでのこと。誰にも伝えることは無いと思っていた。
こんなことになるまでは。


指定された場所は特別教室が多い普段人気の無い棟だった。
気は引けたが仕方ない。佐久間は意気込んでいたし、やり方に怒りを感じていたし、多少落ち着きを欠いていた。

指示された時間の少し前に到着したが、誰も居ない。咄嗟に警戒を強め、同時に冷静を取り戻した。妙な静けさが不安を掻き立てる。直感がここを離れろと叫んだ。
「……、…」
後退りして、背中に当たる扉。飛び退いて振り返ると開けたままのはずだった扉が閉まっていた。ご丁寧に錠。ここは暗室。文字通り暗く、科学室の中にある小部屋。
ここでは、もし、叫んだとしても……
「来てくれたんだ」
「…!」
「やっぱりね。信じてたよ」
状況の分析に必死だったことは確かだが、2人もの男子に気付かなかったとは…
佐久間はさらに強く扉に背中を押し付けた。後退できないとわかっていても、頼む、開いてくれ。逃げたい。
真っ暗なので2人の顔は見えなかったが、2人だということ、男子生徒だということ、この状況を楽しんでいることが伺えた。

ぱっ、と突然白い光が向こうから射した。思わず顔を背けて目を閉じる。目を細めてゆっくり開くと再びバシリと閃光が走る。
(…フラッシュ…?)
おそらくカメラのフラッシュ。写真を撮られることが苦手な佐久間はシャッター音に敏感だった。やめろと怒鳴りたかったが、それよりも冷静であれと脳が指示する。
後でデータなりネガなりを消せばいいのだから…
そう思ってもあまり穏やかにはいられない。止めどないシャッター音はあまりに無遠慮で気分が悪い。むこうが調子に乗っているのがよくわかる。
「顔隠さないで」「こっち見て」
まぶしいのだから目も覆う。フラッシュだけではなく、いつの間にか強い照明が当てられている。強烈な光を遮るために左目の前に手を置いていた。
「ちょっと隠さないでってば」
「聞いてる?佐久間ちゃん」
「…………」
見えずともにやけているのがよくわかる。気持ちの悪い声だ。名前を呼ばれたことにもぞっとした。
「そんなに怖がらないで。僕ら君に憧れてたんだ」
真意が読めない。何が目的なのかわからない。
徐々に息の上がってくる2人は喋りながら撮りながら興奮を高めている。説教など意味の無い人種だともはや理解していたが、下手は出来ない。
脅迫文書にはサッカー部をめちゃめちゃにするとか部員を傷つけるとか、およそ許せるものではない事が書かれていた。
「…君たち目的はなんなんだ」
勝手に盛り上がって興奮していたらしい2人は、それを聞くと苛立ったようにため息をついた。相変わらず当てられる光がまぶしいが2人の輪郭はぼんやり捉えられる。おそらく今まで一度も接点の無かった生徒。見たところ体格はかなり良さそうだから、力勝負になったら勝てない。
状況を打開する策を必死でねっていると、ばしり、とまたフラッシュがたかれる。さすがに目がちかちかしてきた。
「…佐久間ちゃんさぁ、源田幸次郎と付き合ってるって本当なの…?」
はしゃいでいた声が急に暗く、低くなる。
佐久間は口をつぐんだ。もう中等部からのことなので今更なのに、まだ公言が恥ずかしい。こんな状況なのに赤面してしまったのがわかる。
「へぇー、本当なんだー」
「可哀想に…あんなのに捕まっちゃってるんだねぇ」
「助けてあげないとねぇ」
言いながらずんずんと近付いてくる気配がする。元よりあまり離れていなかったように思えるが、強い光で遠近感がはっきりとしなかった。
「…!ひっ…」
「うわぁ、やっぱり近くで見るとすごく可愛い」
腕を掴まれた。痛い。男はやはりかなり体格がいい。太っていて長身。分が悪いとか以前の問題だ。
「可愛いなあ…」

……気持ち悪い…

状態の恐怖よりもこの未知との接触が恐ろしかった。
「…離せ」
腕を掴む男子生徒は逆光の中にたりと笑んだ。
「言うこと、きいてね」
「……!」
スカートの端が掴まれた。




「説明できるか?佐久間」
「………、…」
「よしよし大丈夫大丈夫」
「咲山、あんまり佐久間に触ると殴られるぞ」
咲山の腕に包まれて、佐久間は震えていた。
あまりに恐ろしい目に遭った。
「で、問題の源田は何処に行ったんだ」
「鬼道んとこ」
「はぁ、何でまた。自首でもしに行ったか」
「逆。通報」
暗室は荒れ果てていた。
机も椅子も床に散らばり、薬品はことごとく容器が割れて床に散っている。ネガもカメラも、何もかもが見るも無惨。
その中でも一際ひどい有り様なのが佐久間を脅した2人の生徒。
「退学にするつもりみたい」
「まぁ…事情を知れば鬼道も黙ってないだろうけど…」

明らかにやり過ぎである。

辺見も咲山も、佐久間がこのクズの所業に恐怖したのか恋人の狂暴に怯えているのかはかりかねた。おそらくそのどちらでもあるのだろうが、後者の方がより大きいだろう。
源田は普段温和で優しい。こと佐久間に対しては過ぎて佐久間は照れる程だ。

その差に驚いたのはわかるが、それにしたって、危機を救ってくれた恋人をここまで怯えるというのは何事だろう。確かに暴れっぷりはかなりの物だったようだが佐久間はどんなに些細な事にも感謝を忘れない質である。
恋人が自分を助けるために、暴漢をやっつけた。
それをさて置きまずはと震えているのは何故だ。

「佐久間、そんなに怖かった?何もされてないんだろ?」
「オイオイ呑気に。立派な婦女暴行だろ」
「未遂じゃないか」
「…、……げんだが…」
か細い声で佐久間が呟く。やっと喋った言葉が“げんだ”。
なんだかんだで、と辺見と咲山は目を見合わせたが、佐久間の声は怯えていた。
「源田がどうした?」
「、ぁ…、……」
「あいつなら今鬼道さんとこに行ってるってよ」
すぐ戻るだろ、と言いつつ辺見も隣に膝をつく。佐久間は変わらず震えている。
「…佐久間、大丈夫か?」
「、ぁ…、…、」
「ん?」
顔面蒼白とはまさにことことだろう。佐久間の顔色は最悪だった。
ああ、可哀想に、と思うもつかの間、涙声が正体を語る。

「あいつ笑ってた……」

佐久間が怯えきっていたものはあらゆることだが特に大きく占めていたのが恋人のおそるべき狂気であった。
正直わかる。佐久間の気持ちも源田の気持ちもわかる。
源田は世界一大切な女の子に、姑息で近付き怯えさせ、まずはその目的も許せなかっただろうし、とにかく、とにかく恐らく キレた のだ。
怒りはおさまってなどいないだろう。

「わ、笑いながら、あ、あいつ…な…、ぐって…」
「ほう。笑ってたか。相当だな」
「笑い事じゃ…!」
佐久間は必死で訴えるが、辺見・咲山に言わせれば、悪いがこれはのろけに過ぎない。
「手に血がいっぱいついてた…」
「多分こいつらの血だから源田の手なら無事だと思うよ」
「源田が退学になるんじゃ……」
普段はあっさりというかドライな空気の2人だが、本当のバカップルとは、こういうものではないだろうか。佐久間は震えるほどに怯えているのに結局は源田が心配なようだ。
源田を良く知る者にとっては、佐久間に危害を加えようものならばこうなることは至極当然、自殺行為とわかるのだが、物腰柔らかい温厚な彼が、生徒(しかも上級生)を半殺しににして学外追放したと広まれば、この先佐久間に近付く男は著しく減少しよう。


「…佐久間、…大丈夫か」
「!」

警戒にピッと耳を立てる何か草食動物のように、物音なく戻ってきた源田を見る佐久間。この状態の佐久間を預けていくのだから、辺見と咲山は信頼に値するらしい。するらしいのに、佐久間を抱き抱えている咲山を容赦なく睨むので辺見はつい吹き出してしまう。
「怪我は」
「、だい、じょ、うぶ」
源田は素早く2人に近付き咲山から奪い取るように佐久間を抱き寄せた。口元は見えないがぱっと手を挙げた咲山がニヤニヤと笑っているのがよくわかる。
佐久間には2人の軽い態度が少々信じられなかった。目の当たりにしていないにしても、そこに転がる変死体を見よ。
「はは、これは派手にやったな源田。こいつらか」
後から鬼道が悠々歩いて入ってきた。やはり驚いた様子は無い。
「こいつらの部屋から佐久間を隠し撮りした写真や盗んだ私物が出てきた。言い逃れは不可能だよ」
間違いなく退学になろうなと、鬼道は物のように気絶した2人の頭を蹴る。
それにもぎょっとしていた佐久間だったが、どこか急いでいるような源田に抱えられて立たされる。
「じゃあ後、頼む。
佐久間帰ろう。怖かっただろう」
正直今は源田の方がおそろしいのだが、優しい態度が安心を誘う。血の着いた手が真実を物語るのに同一人物と思い難かった。

大丈夫か、無理するなよ、怖かっただろう、もう大丈夫だからな。
源田はことさら優しかった。


佐久間はずっと戸惑っていたが、眠る直前、源田は言った。

「怖かっただろう。…俺が……」
「………」
たくましい腕と胸に抱かれて、恐怖はほとんど薄れていた。眠りに落ちそうなふらついた意識の中、源田の言葉が一人言なのか自分へのものなのかわからない。
ひたすらに腕は優しかった。
「すまない。…ただ…」
「………」
源田の声は細く小さい。泣き出しそうな声だった。

「……俺も、こわくて……」

へいきだよ。
言いたくても眠かった。まぶたが重くて開かない。
だいじょうぶ、こわくないよ。
胸が接した状態で、こころの内が伝わらないのは不思議な事のような気がした。ぼやけた頭が夢うつつである。
「もし、お前に何かあったら…
怪我や、もしもの事…考えたくもないが、…俺は…」
「げんだ……」
「……ん」
長いまつげが上下する。眠い目をこじ開けて、
佐久間は源田を見て笑んだ。

「ありがと…」

お礼を言っていなかった。
そう思ったら目が開いて、もう恐くなどない。源田は優しい。

泣きそうな顔をしているので、頬にキスして
「おやすみなさい」
源田がやっと笑ったのを見たら、あとは全く覚えていない。


噂はよくよく広まって、ほぼ全校に知れることに成ったのは、
素早くも翌日のことだった。

「源田も意外に恐えなぁ」
寺門が苦笑いで佐久間に言うと、佐久間は笑っていいえと答えた。

「いちばん優しいと思うよ」

お前にだけだと呆れられて、真っ赤になるこの女の子を、護りたいのはよくわかる。



2011.05.08






***

小林@様からのリクエスト、佐久間を襲った変態を源田ボコる!(簡略すみません)でした。

なっっっがい…あと変態気持ち悪い。無駄が多い。てか無駄しかない。ひどい出来ですみません…沿えて無い感が半端ない。
リクエスト本当にありがとうございました!心からすみませんでした!すみませんでした!ありがとうございました!




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