※ ジャンル迷子。よくわからない
※ 年齢操作あり(不動→大学生/佐久間→高校生)



米粒がちらばる廊下。
この部屋には炊飯器が無い。
こいつどうやって米炊いてたんだろ。

夢から覚めて、すぐわかった。いやに現実味のある夢だったし、ものを考えている実感があった気がした。
しかし夢だった。
実際に遭遇した場面を繰り返しただけの夢に、何の役目も無く思えた。
少しだけ頭が痛い。
喉がかわいていたが、飲み物を探すのも面倒でならなかった。
白々とした光が冷たいフローリングに反射している。
テレビがつけられたままだった。
いつつけたのか記憶に無い。
しかも何故か、音がしない。
ちかちか、ちかちか、と忙しく転換する光は、逆に夢のことに思えた。
ワイドショーが伝える、奇妙な事件。
7階建てのマンションの一室で、17歳の少年の遺体見つかる。

案外、早かったな。

男はただ毛布にくるまり床に寝ていた。夢から覚めてすぐに起きたが、上半身をたるそうに支える腕がまたかくんと力を失う。
ばふ、と音を立て毛布は男を受け止めた。

『不動みてみて。あっち。花火あがってる』

昨日会った少年が、過去自分に向けた言葉を思い出す。
できるだけ思い出す。
それは明快な作業だった。
楽しくて、嬉しくなる。
何故なら彼を好きだった。

毛布の男はいずれも床に寝そべったまま時折ぐずぐずとうごめきながら、彼、少年のことを想った。別にゲイだったわけじゃない。
恋人もいつも女だった。
(特別なんだ…)
何故彼だけが男だったのか、それも単純な話だった。
たまたまだ。

目付きの悪い、細いからだのこどもだった。
生意気にタバコをくわえて、さして旨くもなさそうにふかしていた。
『アンタお金持ってる?』
声を掛けたのは少年が先だった。
不動は前からきっかけを作ろうと画策していたから好都合だった。
『持ってるように見えるか』
『フフ、ぜんぜん』
こどもの首にはチェーンが下がっていた。それが何だったのか、今では不動も知っている。
チャームの部分を服に隠すのだ。
しかし目の前で服を脱いだり着たりする仲になって、知らないでは無くなった。
少年の身体に興味が持てるとは思わなかった。女に対してもどこか欲求が浅い不動にとって男など全く用が無かった。
しかし少年は不動を虜にした。
名前は佐久間といって、淫魔と呼ぶにふさわしい、みだらな肉体を保持していた。
それでも不思議と清廉に見えた。
それが納得のいかないところで、できれば自分にも恋狂って欲しかったのだが、彼はいたって奔放だった。

『学校は?』
『人のこと言えんの』
『大学生は制服なんか無えよ。授業が午前だけだったんだ』
『あっ、やっぱり大学生なんだ』
『お前昼間っから私服ってことは、朝からサボってたんだろ』
『当たり』
佐久間はほとんど私服だった。
ジーンズにTシャツとかパーカとか、いたって飾らないスタイルだが、脱がした服のタグを見ればそれが絹だったりブランド物だったりする。特に価値がわかっているわけでは無さそうだが、金に頓着が無い。それで大金を動かせるらしくて、ちょっといいと思えば千円のシャツだろうが一万のシャツだろうが関係は無いらしかった。
即物的とも違うのだが。
入り用と思って買うらしいものの、値段に注意ははらわない。どこのボンボンだ、と思いながら、身の上を訊くのはなんとなく避けた。
嫌がる気もしないのだが、話してくれる気もしない。
もはや隠されたり秘密にされたりする場面に黙って立ち合えるほど、気持ちは容易いものでは無かった。


『愛してるよ』

一度だけそう言ったことがある。
過去の女にねだられてねだられて黙らせるために言ったことを思い出した。
自分から言わせただけのくせに、女は飛び上がるほどに喜んだ。自作で自演の三文芝居に嬉しいと叫んでキスをせがんだ。
ギョッとして女から離れて、どうしたの?の見返してくる相手に薄ら寒い不気味さを感じた。
それから女が苦手になったり二度と御免ということにはならなかったが、どの女にも何故か似たような面が見え隠れする。そういう女ばかりを選ぶのか、そういう女しか寄ってこないのか、女すべてがそうなのか、どうも女運が無いらしいなとか考えた。
『愛してるゥ?』
佐久間は胡散臭そうに笑った。
『聞き流せよ』
『あっは。アンタ可愛いとこあるんだね。ウケる』
『……』
佐久間はいかにも子供っぽかった。にやにやして、からかうような顔をしてみせる。
不動は何も思わなかった。
言葉を喜んでほしいとか、真剣にとってほしいとか、何も望まなかった。
けらけら笑う佐久間には、不動をけなす様子が見えない。ただ言ってしまっただけだった。
それで思い出す。
あの女もこれが欲しかったのだ。
ただこぼれるよう、真実そう思って呟かれるような本心を、不動にも求めたのだ。
かといってあの女の愛情がまことのものだとは思えない。
どう思い返しても、女は浅い言葉しか吐かず、自身もそれに気付いておらず、その上で他人に真実を求める、あきれかえるほどのバカであった。


佐久間は時々眠らなかった。
反面死んだように寝る時もある。
ぼーっとしてて、タバコを吸ったり、本を読んだり、ろうそくの火を見つめたりする。

タバコは嫌いだという。

『だって臭いじゃん。煙たいし』
なら吸うな、と言ったところで、佐久間はけたけた笑うだけ。
どこに向かってどう生きるのか、考え無しなのはいかにも危なかった。
真夜中に起きてまわりを見れば、窓辺によるべなく座っている佐久間を見つけた。
いつもそうだった。
太くぼろいろうそくの燭台は、どこか城や館の物のよう。古くすすけ、錆びていた。佐久間は夜中にそれを灯す。煙は見えないが、天井の一部が黒くなっている。
長いことそこから動かさなかったのか、その燭台の上だけが黒いのだ。
そう言ったらなんと喜んで、何故かフローリングに円を描いた。燭台を囲んでぐるりとチョークで。
敷金、とすぐに思う不動に対し、佐久間はやはり気にしない。
『何してる?いつもいつも』
『別に…だって、ただ寝れないから』
『でも布団に居りゃあ眠くなったりするだろう』
心配してそう言ったばかりでは無かったが、佐久間は照れくさそうだった。たびたびこうしてはにかんだり、急に可愛い仕草を見せる。
男に可愛いなんて我ながら気持ちは良くないが、佐久間だけはもうどうしようもない。
抗えない魅力がたぷたぷとあふれて来る。
それで不動はぎくっとする。

これが本物の恋ではないの。



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