佐久間に対する不信感が決定的になった事件がある。

「誤解してたよ。悪かった」

あれだけ警戒していたくせにあまりにもあっさりとその警戒を解いた佐久間を不動は信じられなかった。

「ごめん」

わざわざ部屋に訪ねてきて、これだけ。
不動にとって佐久間は突飛を極めている。油断できない相手だ。言動を予測できない。

それから今度は不動が佐久間を警戒しだした。

もとより打ち解けるどころかろくろく話もしない2人だったが別段険悪という訳ではなかった。
最終的に佐久間の警戒は幼い子供が1人勝手に拗ねているぐらいのものになっていた。やはり変化したのか初めからそうだったかは判断しかねる。しかし兎に角それがこの上もなく不気味であった。

自分が相手の立場ならばよくもよくもと恨み続ける。絶対に許せない。果たして自分の器が狭くてそうなのかというとそんなこともない。
いわゆる普通の反応だ。
その証拠に例の事件に居合わせた者が「佐久間はよく許したな」「自分だったらあんな風にはできない」と噂しているのを聞いたことがある。
自分とてそう思うから腹も立たない。
同じ目に遭った源田は不動を許していない。目が恨んでいた。わかっている。別にいい。


大会中何の因果か事の発端である影山との再会と、彼のさらなる企みにはめられることとなった。
他人事ではない佐久間は当然首を突っ込んだが、不動は巻き込まれるに近かった。
出来れば関わりたくは無い。割りを食うのは見えていた。
無鉄砲な主将と俄然やる気の鬼道と佐久間。うんざりした。
しかし試合になれば全力を尽くす。この大会中ようやく知った悦びを裏切れはしない。不本意ながら真摯に立ち向かい、顛末は散々だったがいい経験になった。

だがひとつ、佐久間の言動にまたしても驚かされる。

やはり佐久間は奇想天外な変人だった。間抜けと認識を改めてからそうそう驚くこともなくなっていたが今回はそうもいかない。

まるで、これからは友達、とでも言うような…
そんなような素振り。
本物の阿呆だ。
不動は動揺していた。

サッカーに関心がある人間ならたとえ中学生で無くても帝国学園は知っている。
部員は数百人ともいわれ実力は勿論のこと、規律の厳しさや長い歴史、何をとってもトップである。
そのチームのレギュラー、さらにスターティングメンバーともなれば顔も名前も有名で当然。
田舎の弱小チームで惰性に球を蹴っていた不動でさえ、鬼道も佐久間も知っていた。

だが有名でも露出が無いため人柄などは知る由もない。

帝国学園の美しき佐久間次郎が、
実はどじで間抜けで変人で、どうしようもないお人好しだと
誰がどうして知っていようか。

そして例の謝罪に訪れる。
一体彼が何を警戒して自分を見張っていたのか謎だ。まだ影山と繋がりがあるとか、誰かに過酷を強いるとか、そう思っての監視だったとでも言うのか。
いやきっと、言うのだ。
おそらくたぶん、その通りで、それで誤解をしていただの、悪かっただのとほざくのだ。

気味の悪さに血の気が引いた。
返事もせずにドアを閉めた。
それでも佐久間は変わらない。

それどころか本当に、
まるで警戒をやめたのだ。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -