※風丸と佐久間(源佐久?)
※3期世界編
※髪型についての会話(捏造)




日本人の毛質にしては珍しいくらい柔らかい。ふわふわして、一本一本は細いのに、全体的には豊かでさらさらしている。

「佐久間、ってハーフ?」
「は?え?いや全然」

混ざってないと思うよ、と面食らったような返事をする佐久間。その背後に座って風丸は彼の髪を結い上げていた。
部活動に当たって邪魔になるであろうというくらいには、2人とも髪が長い。
さらに佐久間に至っては結んでもいない。

櫛ですく度になんともいえない香りがする。

「…なんで?」
「ん?ハーフかって訊いたの?面白くて」
「はぁ?何が?」
「髪質」

この島の気候は日本に比べて湿気は無いが日照時間は長いし赤道に近い。つまり暑い。練習で汗をかくと鬱陶しそうに髪をかきあげたり耳にかけたりしているのを見ていたらついつい結ってやるよとお節介を突きつけてしまった。
あまり他者と馴れ合わず、どちらかといえば物静かなような彼はこのような申し出などはね除けるかと思われた。

しかし、そうか、頼むと軽く言われて
彼の意外性に気付いた。

こうしていても冷たかったり高飛車であるような印象は全く無い。
もしかしてかなり認識を誤っていたかもしれない。

初対面こそ随分前になるが大して馴れ合うようなきっかけも無かった。
練習試合、全国予選、吉良騒動…
学校ないしチーム単位での付き合いしか無かったのだから一方的な印象を払拭するような事件も無い。

「みつあみしていいか」
「なんだよ、遊んでるのか」

クスクスと控えめな笑い声がする。
なんだ、いい子じゃないか。
これがめっぽう今得た印象である。

子供らしからずしっかり者、キレ者。
強豪帝国の参謀とまで言われているに相応しく、頭の良さが伺えるようなあざといプレーが目立っていた。さらに冷静沈着、表情も変わらなくて熱くなることもない。
実際相手にするとやりにくい。
選手としてそれは長所だがお蔭で人柄についてはいまいち心配があった。

しかし帝国の選手は鬼道然り源田然り、印象を裏切る。さらに佐久間も同様のことであった。
「ツインテールにしてみようか」
「自分の髪でやれよ。疲れてきたぜ」
言葉とは裏腹に許可が出たような声色。手触りがいい髪で遊ぶというのは実に楽しい。
「俺は今はこの髪型に固定してるから」
「ふうん。こだわり?」
「飽きたら変える。飽き性で」
「そっか。切るより効率的だな」
髪型については異端の自覚があるが、これだけで理解されるとは正直思わなかった。
「今の、わかった?」
「何が?」
幼少から女の子ような顔立ちだったがコンプレックスに思ったことは無かった。
いくら女顔だからって中身は完全に男だし、堂々としていればなんということもない。
母や周囲が面白がって女物の服を着せたりするのを何とも思わないふしもあった程である。

ある時男子児童の典型的な髪型に急に飽きがきて、自ら散髪してみたが伸びるまでがすこぶる長く、飽きて切ったのにも関わらず余計に変化の無くなってしまった期間が彼をさらに辟易とさせた。

つまり変わった子供だったのだ。

そこで今度は伸ばし始めた。そうすれば分け目を変えたり縛り上げたりするだけで、いつでも違う髪型になれる。
幼い彼は画期的なひらめきに感動し、以来長髪を貫いている。

「おれも飽き性なところはあるけど毎日工夫して結ったりなんだりっていうのは、
正直まめではないし」
佐久間の言い方は完全に飽き性という言葉と髪型の因果関係を理解していた。
やっぱり、頭がいいんだ。察しがいいというか。
感心しているとふと手に慣れないざらつきが当たる。

場所にして、右のえらの後ろあたり、耳の後ろ、そのあたりの生え際…
髪を一本の束にして持ち上げるとそこには古い傷があった。
髪の生え際あたり、耳の後ろから中心までうなじをほぼ横断する、大きなものだ。
完治してから随分経っていることと、怪我が作られた時の惨状が伺える。

「佐久間、これは?」
「あ、傷?」
気にしてない様子だが触れるのには戸惑う。
「痛い?おれ触ったりしてなかったかな」
「大丈夫だよ古い傷だし、隠してるけど気にしてないし」
つい落ち着きを無くしてしまったが佐久間は本当に何でもない様子だ。
「これを、隠して…?」
「ん?」
「それで髪、長いのか」
「そうそう。そうでなきゃ、切ったっていいんだ」
さっぱりとした言い振りだったが隠していたのに気にしていないというのにひっかかりを感じる。
「気にしてないのになんで隠すんだ?」
「おれのためじゃないんだ。
いや、どうかな。やっぱりおれのためかな。」
「…あいまいだな?」
「はは。うん。えーと…」
「話したくないならいいんだけど」
「そんなことないよ」
本人はからっとしているが正直心臓に悪いくらいには驚いた。
たしかに目立ちはしないがでかいのだ。よくよく見てぎょっとする、というパターンはいつもおそろしい。

「源田わかるだろ。ウチのGK。あのでかい奴」
「ああ、うんもちろん」
「あいつのつけた傷なんだ」
「えっ…」
「10年も前な」
「10年…」
ということは2人は幼なじみなんだろう。俺にとっての円堂みたいなものか。
「おれは本当に気にしてない。こんな、自分では見えないところなんだし、
おれは男だし、あいつもわざとじゃ無かったんだし」
「うん」
「でもあいつは気にする」

佐久間が左手で傷をなでる。うなじの傷はその綺麗な指との対比でさらに大きく痛々しく見えた。

「その時も気の毒なくらいおれに必死で謝罪し続けてたし、治っても跡がでかいだろ?
もう見る度に泣きそうで可哀想になってさ」
「へえ…」

ため息のような声が出た。
傷をなぞる佐久間の指に触れないように、自分も触ってみる。嫌がるかなと一瞬思ったが、彼は身動ぎもせずに落ち着いていた。
「いたたまれなくなって、こうして、隠すようにしたんだ」
「……」
「もう10年だぜ」
呆れたような、悲しいような声だった。

「でも、この先10年だって、ずっと残るだろ」
「…かまわないよ」

こんなもの、と言うようだ。
確かに肉が裂けたであろうへこみと歪な榑が鋭い形を創っている。
細い指。少し、なんだか愛しそうに見える。

「一体何があって」
「事故」

言い切る言い方だった。

源田がつけた傷。
源田が悲しそうに見るから堪らなくて隠している。
そしてそれは、自分のため。



…佐久間は、


もしかしたら気付いていないかもしれない。








源田とは例の吉良・影山騒動後、手術を終えた直後に会った。鬼道に付き添って行った、たった10分程度の面会だったが
佐久間を責めないでくれ鬼道、お前に頼るまいと思ってたんだ、あいつは俺よりずっと耐えたんだ、頼むよ声をかけてやってくれ、
とても難しい手術になる…頼むよ…頼むよ…


麻酔が切れだして苦しいさなか、意識も切れ切れにそればかりだった。

連日の辛く苦しい治療と警察からの厳しい聴取でくたくたになった彼なのに、
意識の戻らない佐久間に身も裂ける思いでいるのだということはひしひしと伝わった。

彼は佐久間が大切なのだ。


「ここならあいつはいないから隠さなくていいよ。結んでくれ」
「じゃあ、お揃いにしようか佐久間」
「いいけど前髪は逆にしてくれないと何も見えなくなる」
「あはは!そうだな」



友情というのもある種の愛情である。
彼らの友情は特別なのではなく強く大きいのだろう。友人として相思相愛ということだ。

愛おしそうに傷を撫でる手つきに
深く強い絆で結ばれた友人を想う彼の優しさが滲んでいるように思えた。


少し羨ましいくらいの美しい友情に、
なんとなく、
胸がいっぱいになる。






2011.02.21






***

BLって微妙。BBL。微妙BL。BLB。BLかどうか微妙。
その実どうでもいい。





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