ブロック別予選が終わってから暫く、ゆったりとした時間が流れていた。

合宿は忙しい。
公欠とはいえ勉強、宿題そして練習。
不動は宿題などどうでもよかったが、責任ある立場の大人が居ると強制的にやらされる。また不動は自分の過去を知りながら代表候補に上げてくれた響木に頭が上がらなかった。

3日ごとにメールと荷物で学校からの課題が届く。
一般公立中学からのものは処違えど似たり寄ったりの量と内容。
ところが天下の帝国は、やはり常識を越えていた。

「佐久間、これ全部か?」
「あ、悪いな風丸。うん、メールのリストと合ってる。」
届いた荷物を佐久間に渡した風丸だけでなく、食堂にいた殆どの者が信じられないという顔で見ていた。
「多いな」
「そうかな」
平然としているのは佐久間と同じく元帝国の鬼道のみ。窓際に座っていた鬼道が問いかける。
「多少なりとも免除はされてるのか?」
「いや、まさか」
「だろうな」
それに佐久間は笑って答えた。想像を絶する。
私立に通う者は今は佐久間1人だけ。この常軌を逸する課題の量から閉ざされた名門私立への興味がわいたのか、気負いなく佐久間に話し掛ける者が増えた。
取るに足らない会話だが、一見話し掛け難い雰囲気があるらしい佐久間と関わるにはいい話題になるようだ。
同学年以上の者には参加から余り経たずして既に抜けた人柄を遊ばれていたが、下学年の者からすればやはり近寄り難いものがあったらしい。

「それに、綺麗だから緊張しますよ」「なんかぁすっげぇ冷たそうだよな」「どうしても帝国とか潜水艦でのイメージが強いっす…」
以上1年の証言。馬鹿らしい。

様々な理由から佐久間との接触を極力避けていた不動だったが、基本は逃げる、避けるということを全く嫌う性格である。
そのため下らない理由から怖じ気付く者の気が知れなかった。

しかし佐久間はやはりつくづく不気味なのだ。

不気味だ不気味だ不気味だ!
罵ってやりたくなる程の気味の悪さを不動以外は感じていない。不動以外佐久間に対して後ろ暗い者はいないからだ。
実は只の会話さえままならない。
端からならば平常に平穏に見えるだろう。練習メニューを相談したり、事務的な連絡、他愛ないただの雑談。これが不動には負担だった。不気味だ。不気味で、いらいらする。

木陰でのあの時から、佐久間は本当に一度も、ほんの一瞬かする程度にも不動に触れなかった。

もう触らない、と言ってそれを実行して、こちらが油断した時に何か…
もちろん幼稚な疑いだとわっていた。普通に考えればありえない。しかし堪らない。皮膚の下を虫が這うような嫌な感覚が襲ってくる。
許せるはずがないのだから。絶対に憎んでいるはずなのだから。



毎日毎晩規則正しくやってくる暗闇は、相も変わらず体を包みにかかってくる。
いい加減飽きればいいのに、銀紙のようにぐしゃぐしゃに潰して身体中を焼き皮を破り、細く熱した針で刺す。
何の心配も無く眠れる他の人間が、奇跡のように見えてくる。
いがみも僻みも嫌いだ。惨めになる。
だけど今は辛い。生活や生命の危機など感じては来なかっただろう平和な子供に囲まれて、眠れない自分。

真っ当な人間ではないのはわかっている。育った環境が歪んでいるのも、承知している。非道も数えきれないほどやったが、
ここまでの仕打ちを受ける必要があるだろうか。

虐めぬかれて気が滅入り、弱気がそこまでやって来ている。
そしていよいよ、敗北が来る。



眠れない夜の疲労と佐久間の態度に、理性も利かなくなってきていた。





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