※ よくある怪談
※ 年齢操作あり(大学生)


7階建てのビルは建設途中で投げ出されていた。
そこで起きた事故が、あまりに陰惨だったからだ。

7年前この丘で始まった工事は真下にある団地の不興を買った。
とにかくうるさかった。
夜中に大きな光源を下げて、ドリルや運搬車両の音。どんなに苦情をたてたって、不思議と全く響かない。自治体に大金積ませて黙らせたとか、施工主が誰か突き止められない父親たちが噂していた。
集会場にはいつも大人があつまって、いかにして工事を止めさせようか(せめて夜中だけでも)、あの頃よく話していた。

「だからいわくも無いし、何も出やしないよ」
「でもさ、雰囲気はばっちりだよ。何が出たって不思議じゃないね」
円堂は手にしたライトをそこら中ぎらりと回して嬉しそうに笑う。チラチラと揺れる光の輪っかは打ちっぱなしコンクリートの壁をなめらかに滑って奥の柱や部屋を照らした。
「何も無いって…円堂!」
聞く耳もたずの円堂は、いかにもわくわくした様子。それを見て鬼道はクククと笑う。
「不気味な声を出すなよな」
「失礼な」
「お前普通に笑えないのか」
「お前には言われたく無い。
そら、バカが行くぞ」
鬼道はペンライトで“バカ”の背中を照らす。
豪炎寺はため息をついた。
ここには来たくない。

廃屋となった7階建てビル。元は何を建てるつもりだったのか最早わからない。ただのビルだ。壁と床しか出来ていないから想像もできない。
当時の噂としてはただのオフィスビルだったが、団地の隣に併設されるオフィスビルなんて不似合いだ。せめて道路を隔てるとか、区画を区切るとかしなければ落ち着かないではないか。

『7号棟の    ちゃん、工事現場から落ちて死んじゃったんですってよ!』

学校帰りに聞いた。
団地が囲う小さな空間。その中央にある小さな公園。
毎日その前を通って登下校する。
死んだ子はとなりまちの学校に通う同じ学年の女の子だった。
建設途中のビルから落ちて、即死だったという。


「俺は13号棟」
「ここから見える?」
「いや、どうかな」
「わからないか?」
「もう5年経つし…自信無いな」
光の無い丘から見ると団地の灯りは明るく見えた。
ここで死人が出たことを、2人には黙っていたし言うつもりもない。騒音のひどさに団地住民が建設中止を訴えたからここは未完成。当時の事件を知らないならばそれで通用するし広く使われた嘘だ。
ただ管理もされていないしいい具合に古く錆びている。
肝試しをするには格好の場だし、団地の真横にあるものだから危険の無いスリルを味わいたいくらいなら丁度良い。そんなわけでここらの地域の子供や暇な学生が、探検気分でよく来るのだ。
事実を知るものには悪趣味でしかない。


『サッカー部なんだ…』

線の細いというか、実際に身体も細かったが、蜃気楼のような、たゆたうような空気を纏っていた感じがあった。いつも薄く笑って…
(ちゃんと笑うのを見てないかもしれない)
落下事故で死んだ女の子のことを考えていると、急に自分がひどく薄情で不謹慎な、酷い人間に思えた。
今こうしている以上実際そうなのだが、何も知らない友人らに強いられてしぶしぶ、しかも事実を知らせずになんとなく付き合ってやってる状況だから、豪炎寺はそれに気付かなかった。
だから気付かなかった、という事に気付けば、更に非道な馬鹿に思えた。
「…な、もう帰るか」
「なんだよ、まだ2階だろ」
「危ないだろ。いつ崩れるか…大体、外から見るだけって言ってて…」
その割に豪炎寺は懐中電灯を持参していた。
「まぁ、危ないのは事実か。7年ほっとかれたんじゃ崩れても」
さっとその辺を照らした鬼道がぴたりと言葉を止める。
「ん?」
それに円堂が鬼道を照らす。鬼道は窓枠らしき穴の方を見ていた。
「雨」
「うわマジだ。うえー傘ねぇよ」
「………」
結局廃ビルから出られない。
「じゃあ3階まで行こ。そんで戻ってきたら雨も止むかもしんないし」
「仕方ないな。ただ待つのも暇だし」
「おいおい…」
雨が降ったら余計に崩れやすいのではという豪炎寺の意見は無視される。

3階に登って、また流されるように4階へ。
窓枠からいくらでも見える団地の灯りが肝試しらしさを損ねている。おまけに豪炎寺は昔懐かしき我がふるさとだ。何にも恐怖は感じなかった。

5階に来るまでは。



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