chapter.02



調べると案外簡単に思えた。長らく会っていない相手など再会は偶然か人づての場合が圧倒的だ。
会っていない相手というのは会わなくても不便無い相手とも言える。だからつながるものが乏しく、せいぜい同窓会や結婚式、最悪葬式が関の山だ。

源田は人付き合いがあまり好きではないことを自覚していた。
自分以上に人と関わらず黙って座っているだけの生徒がいじめに遭うのが不思議だった。
少なからず喋れば角が立つし、気にくわない部分を見つけてしまう。そんなものじゃないのか。
そう思いながら源田はそれを相手に感じたことは無い。
ただ自分がそう感じられることがあったのではないかという予測である。
あいつ、むかつくよなぁ、なんて話している同級生らを種族のかけ離れた存在に思えた。

『そういったことにはお答えできかねます』
「あ、あの、同級生…なんですけども。彼の」
『申し訳ありません』
「名前を言えば…」
『申し訳ありません』
電話口の女は重ねるように謝罪を繰り返す。機械的ではあるが柔和な声に不快には感じなかった。
「…わかりました。無理を言いましてすみません」
『いえ、とんでもございません。どうぞこれからもご贔屓に』
女はにこやかに言い、これ一切を遮断するようにお問い合わせありがとうございましたと実に早口で締めてブツリと切った。
まぁ、迷惑だったろうな。
一回でうまくいくとは思わないけど、電話に光明が見えないならば直接行くしか無いだろうか。
しかし直接会うならもしや危ないストーカーとか熱狂が過ぎたファンと勘違いされて通報されやしないだろうか。
源田はそこまで考えて、相手がパーツモデルだと思い出した。
(気負う必要無いか)
それから源田は宝石店に貼られていた物を頼み込んでもらってきたポスターを買ってきた額に入れ、部屋の壁に飾った。
身震いするほど嬉しかった。
本当はあの巨大なパネルが欲しいけれど、収めるところが無いから仕方ない。

機嫌がいいな、と言われる日々が続く。

綺麗な手を持つ同級生、同級生とは言ったが実際同級になったことは無い。一番近い所属で隣の組だった。
彼は、美しく、目立っていた。
目立っていることは自分でもわかっているようだったが、それが容姿や振る舞いによるものではなく、家柄や成績(試験では常に上位に入った)で“浮いて”いるせいだと考えていたようだった。
顔に感情が出にくいよね、と言われたことがある源田は、そんならそうなんだろうと思い、余計そうなった。
だから佐久間に話し掛ける時、便利だなと感じた。
向こうは源田を認識して居ただろうか。
自己紹介をする機会があった。
球技大会の時だ。
年に一回は委員会活動に参加しなければいけない決まりになっていた学校で、佐久間は球技大会の実行委員の1人だった。
年間を通す活動をする他のいくつかの委員会より年一回1ヶ月ほどの所属で済む方を選ぶのはらしいなと思った。源田は単に運動が好きだったから…という理由で立候補したわけだが実は佐久間のクラスが先に委員決めが済んでおり、“球技大会実行委員→佐久間”という黒板の文字を偶然発見したからだ。

当時の感情をあらわすなら、
“憧れ”というのが正しいかもしれない。

源田は3人兄弟の真ん中で、
上に姉、下に弟が居る。
実のところ姉の上に更に兄が居るが、その辺が微妙に複雑で、今はとりあえず3人兄弟ということになっている。
姉は何事もきちんきちんとした性格に見えるが、案外横着なところも多く、外面が良いので他人からの評判は良いが源田には完全に苦手な人種だった。外面だけは良いから嫁に行けたんやな、と、関西出身の伯父が式の最中ぼそりと言った。次いで、ばれたらアカン。いずれ出される(離縁される)んちゃう?と耳打ちされたので吹き出してしまった。
今のところ離縁の兆しは無さそうだが、弟もおおむね伯父と同じ見解で居る。
この弟の方は今現在高校生で少しは落ち着きもみられるが、とにかく我が儘できかない子供であった。
家族が皆お兄ちゃんみたいにしなさいおとなしくしなさいと叱るので、手本にされ続けた兄からそのうち遠ざかって行った。
自分自身が直接的な原因で無いのではた迷惑は話だが、こういった具合に兄弟とはあまり仲良くは無い。
もっとも近い位置に居た女性があの姉だったためか女がいかようにも飾れる生物な気がして気を許すのは嫌だった。
(だからおじゃんになるのかな)
恋人と長く続かない。
可愛いなと思って付き合っても何かの拍子に恐ろしい内面が露出してくるような気がしてなんとなく距離を保ちたい。それを鋭く感知して女は怒り、結果最も良くない形で本性に出会うことになる。
『それはお前が悪いよ』
『女の子、可哀想だよ』
幾人かの友人は別れたと聞くと喜んで何故を知りたがる。
そして聞いてからそう言うのだ。お前が悪い。相手が可哀想。そういうもんかな。
源田はこだわりなくそう思った。

佐久間が美しく君臨する間源田はあれが最高峰だと感じていた。

声をかけるなら緊張もしたし、噂を聞くだけで嬉しくなった。校内の掲示物に名前をみつけたり、遠く廊下の端ににでも姿を見ればそれだけでもう。
だからって男が好きになる質にはならなかったのは、弟の存在も大きかろう。
それに自分も男だから、佐久間が美しいのは佐久間だからであって、性別なんか関係無いのだとわかる。
そこに行き着くと不思議なもので苦手だと感じていた女も抱けたし、可愛いと思うこともあるものだから、佐久間には憧れを抱くだけで、それで完結できる感情なのだと、
当時は本当にそう思っていた。

そして卒業から半年経って、源田はようやく自分の想いが並々ならぬと気付くのだ。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -