※最後だよ
※風丸さん(♀)・捏造氏名・一人称注意
※なんか急展開




「やっぱりでかかったな」

佐久間が座るとほぼ同時に、豪炎寺が呟くように言った。しかも相手に向かずに。
「わざわざすまないな。まぁちょっと大きいけどじゅうぶんだよ」
「そうか」
素っ気ない。
実は内心乱れきっていた。

風呂場での会話を聞いてしまった。たかだか子供の思い込みの勘違いの話。それなのにどうでもいいと思えなかった。
幼稚な発想だったとしても我が妹ながら恐れ入る。
佐久間は気になる異性ではあったが、具体的にどう好きでどこがいいということは無かった。気になるというよりは人として気に入っている、という方が正しいかもしれない。ただ好感が持てる程度なはずなのに、風呂場の会話がそれを歪めた。
「夕香ちゃん眠そう」
ふいに佐久間が顔を寄せてきてそっと囁く。
「いつもなら寝る時間だからな」
「大丈夫かな。観るって言い張ってるけど」
「さあな。寝たら布団に運ぶからいいさ」
それほど近くないが彼にとっては天地がひっくり返るほどのことに思えた。それなのによくぞと自賛する一方表情の乏しい自分が恨めしくもなる。ここで愛想よく微笑みを返せたら、相手に何か響くだろうに。
貴女との会話は嬉しく楽しい。それが少しも伝わるだろうに。

「可愛い、夕香ちゃん。慕われてるな豪炎寺」
「2人きりの兄妹だからな」
意外に会話が途切れない。
「彼女の条件聞いたか?お兄ちゃんの彼女なら優しくて可愛くて…だって。まだ他にもありそう。案外厳しい審査員だな」
そう言ってくすりと笑う。

この話をこうして自分にするってことは、彼女にとって他人事なんだろう。
楽しみにしていた試合が始まって大好きな仲間がいて、妹も楽しそうだ。

真剣に観ているふりが空しかった。


興奮も冷め遣らぬうちに試合の検証会が始まる。日付が変わって一時間が過ぎていたが皆熱心だった。
「スナックなんか買うなよな…太るじゃん」
「食わなきゃいいじゃん風丸ゥ」
「うるさいなあ、あったら食っちゃうだろ」
「だから食わなきゃいいじゃん」
「円堂お前え…」
じゃれあう風丸と円堂を見て豪炎寺はいつも思う。お互いを男女とわかっているんだろうか。性格が男らしくても風丸はかなり可愛いし…
「お前ら真面目に観ろ。豪炎寺、これスロー再生はどうするんだ」
じゃれあう2人をぼうっと見ていたら急に呼ばれてはっとする。
「お前真面目過ぎるんだよ鬼道」
「真面目結構。静かにしろ」
豪炎寺はずっと隣に座っていた佐久間を、試合中一度も見なかった。真横に居て見にくいということを差し引いても露骨に見なかった。しかもそれに気付かなかった。
無意識に視界から遮断していたのに、意識したら考える間もなく振り返ってしまった。

目が合った。

佐久間は、膝を枕に眠る夕香を守るように撫でていた。暗くしていた室内でテレビのあかりに浮かび上がる姿が非現実的なほどに美しく思えた。息が詰まる。
「寝ちゃった」
妹の柔らかい髪を撫でる手。横に崩した形のいい足。余る布にくるまれた、きっと綺麗な体。
「豪炎寺」
呼ばれてびくりと体が震える。たぶん、ばれた。
「夕香ちゃん風邪引いちゃうから…布団に」
「ああ、そうだな。わかった」
動揺が恥ずかしい。きっと顔には出ていない。それが余計に恥ずかしい。
佐久間の横に屈み、軽い体を抱き上げる。その過程で腿に触れた。髪の匂いがして、のぼせ上がりそうだ。倒れそうなほど動揺しているのに変に冷静だった。
「寝かせてくる」
「うん」
見下ろした顔はやはり暗がりに浮かんだ淡い光だった。


それからさらに2時間ほどの雑談と検証が続いた。
途中豪炎寺の父が帰ってきたが夜更かしも女子がいることも特に気にとめないようだった。むしろ熱心に意見を交わし合い、各々ノートに書き込む様を感心したように見て、満足そうに去っていった。
実際真面目だった。
脱線はほとんど無く、徐々に試合についての話が尽きてくると、少しずつ雑談が始まった。すると余り経たないうちに佐久間がころりと転がって寝息を立てだす。「子供だなあ」と笑っていた円堂も続いて脱落。その後3人で暫く話したが、風丸も円堂の真横に転がり寝てしまった。
「…こいつら、どうなんだ?」
鬼道がそれを見て眉間に皺を寄せる。
「どう……まあ、どうっていうことも無いんじゃないか」
そういう関係に見えたりもするが、そんなこと2人にはどうでもいいのか、それとももしかするととっくに気持ちを確認しあっていて、…というのは考えにくい。いつも一緒に居る2人にはわかる。
「微妙だな」
「いいんじゃないか。こいつらはこれで」
「何かあったらわかるだろうしな」
隙間なくくっついて寝ていてもまるで危うい空気が全くない2人は微笑ましく、鬼道と豪炎寺は顔を見合せて笑った。


席を立っている間に鬼道は再び先の試合を再生していた。一緒に観始めるがとうとう鬼道も床に寝そべるとテレビを観ている体勢のままどうやら眠ってしまったようだった。
今から全員を起こして客間に連れていき、布団を敷いて寝かせなければ。
でも面倒だ。

軽く伸びをして体をねじると真横に女が転がっている。ぎょっとするほど佐久間の体は女を感じさせた。

仰向けになって大きめのクッションに頭と胴を預けている。張られた胸と捻られた腰、重なる足。

気付いたら、触っていた。
ほとんど好奇心に近い衝動だった。
膨らみのない胸の中央、固い骨に手を押し付ける。乱暴だった。暖かくて、骨の内側の心臓が動いているのもわかる。そのまま手を滑らせて鎖骨、肩。佐久間が目を開けた。
「…ごう…」
しっかりと目を覚ましたのがわかった。それでも手を離さなかった。触っていたい。
「…佐久間」
佐久間は弾かれたように起き上がり、座ったまま後ずさって壁まで逃げた。背と壁がぶつかり鈍く鳴る。強かに打って小さく呻く。
「なに、な、なにを…」
息が細かく、荒い。
「いや、悪い。変なところは触ってないが…ん、違うか…触ったってことが…」
「……、どうしたんだ…」
小声だ。この状況でも円堂たちがそこに寝ているとわかっていた。
「悪い」
「…いや…驚いたけど、…」
佐久間は非難めいたことを言わなかった。ただ単に驚かされ、自分が飛び退いただけのような口振りだ。
鈍い。
男に体を触られてこれとは。それとも自分など全く問題にならないというのだろうか。
豪炎寺は大胆に距離を詰めた。その間も佐久間は警戒しない。折られた膝の間に入り、至近距離で見詰める。
「あの…」
これでもか。
約半日前の慣れない素振りが急に思い出される。今こそあの意識が欲しい。
躊躇なく佐久間の左肩に顔を埋める。柔い髪がふかふかする。首に鼻を擦るとびくりと体が揺れた。
「…、ご…」
驚愕がうかがえる息を飲むような声がした。構わず更に近付く。細く早い呼吸が繰り返される胸に体が密着する。怯えているのはよくわかっていた。
「ひっ、…」
そのまま体を押し付けると乳房が潰れ、胸板にあたる。く、と喉が鳴った。途端に罪悪感が沸き起こるがたまらず強く抱き締める。佐久間は最後まで拒絶しなかった。
恐ろしかったのだろう。
体は震え、心臓は早鐘のように打っていた。

抱擁は、心地よかった。

佐久間はやがて落ち着きを取り戻し、密着する体の間に手を挟む。
「…どうしたんだ、豪炎寺…」
柔らかい肉が手のひらに遮られる。できれば触れていたかった。
「…こわいか」
「…少し。
なあ、どうしたんだ…」
「わからない。
でも、さわりたくて」

ゆっくりと時間をかけて体を離すと、佐久間は心配気に豪炎寺の頭を撫でた。
まるで子供にするようなそれに情けなくも随分癒される。
「落ち着いたか」
こいつは、何だと思ってるんだろう。
男が自制の利かぬまま女を抱き締めるというのが、一体どういうことかわかっているのだろうか。
拒絶され、叩かれ非難されても不思議ないことをした男に、こんな…

息が詰まり、また抱き締める。今度は怯えず、逃げもしない。同じように体を預け、背中に優しく手を置いた。

「……次子…」

絞り出す声に何故か泣けた。
泣くほど好きだと、何故気付かなかったんだろう…

がきめ。









夜があけて、昼を過ぎ、
仲間と意中の女は帰っていった。

佐久間は特に態度を変えず、子供ながらに出来た人だとしみじみ思い、さらに惚れた。
俺は彼女を抱きしめながら、以前よりの事だったのか今突然芽生えた事だったのか、自分の恋を検証していた。
背後には抱き合うように眠りながら友人の域を出ない2人がいて、幼く互いを意識しながらもそれに気付けない子供だと思っていた。
しかしでは今の自分はなんだ。
細い声で呼ばれると肌が粟立つ程のものを感じる。もっと呼んでくれ、と思う。そんな理屈でないことを理解しようと頭がもがく。
壁に追い詰めて乱暴に抱き締めて、本当に好きなのかと自分でも思った。

だけど、
そうしなければどうしようもない思いが、
溢れてこぼれて仕方がなかったのだ。







4人が一斉に帰って急に寂しくなった居間で、呆けてソファーに座っていると夕香が隣にぴょんと乗る。
「お兄ちゃん、夕香、次子ちゃんならいいよ」
「…なんだって?」
「お兄ちゃんの彼女。可愛いし、綺麗だし、夕香大好き」
「…そうか」

幼い妹の無邪気な好意が、愛しい彼女をさらに美化する。

たった今別れたのに、もう会いたくて仕方がない。






2011.03.03








***

佐久間は鈍いよりコンプレックス半端ないから他人から好かれる可能性が無いという認識。あと隠れ巨乳。
豪炎寺は結構押せ押せタイプだと思ってる。恋にポジティブ。あんまりめげない。
豪佐久満足したからしばらく書かなくていいや…←



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