※中編だよ
※風丸さん(♀)
※捏造氏名・一人称他注意



夕飯には案外早くありついた。
まだかかると言われために男子3人は先に風呂に入ったが、出てくると湯気を立てた料理が並べられているところだった。
女子だけで何を話していたのか妙に仲良くなっている。3人が食卓につくとフクさんは帰り支度を始め、エプロンをたたみながらこれは風丸が手伝っただのこれは佐久間が作っただのと細かく説明を挟んでくる。
「夕香も手伝ったよ。このにんじんは、夕香が皮を剥いたの」
「そうか。偉い。凄いな夕香」
「でもねぇ作ったのはさくらちゃんだよ」
「へえ……
…夕香、さくらじゃなくて佐久間だよ」
「さくら?」

「じゃあなんだか慌ただしくて申し訳ないけれど、修也さん、これで失礼します」
フクさんが居間の戸のノブに手をかけて荷物を持つ。
「ああフクさん、今日は急で悪かったよ。ありがとう」
「いえいえ。手伝ってもらってかえって楽させてもらいました。3人共ありがとうね」
女子3人は玄関まで彼女を見送りに出る。2、3交わして戻ってくると男子に並んで食卓につく。
「さくらちゃん、こっち」
「夕香ちゃん?」
「お兄ちゃんの隣ね。夕香はさくらちゃんの隣。夕香の隣は壱重ちゃん。」
「夕香…」
すっかり舞い上がっている妹を注意しようとするが、「いいじゃないか。きっと賑やかで、嬉しいんだよ」
佐久間が素直に隣に座る。
思わず身を緊張させてしまったが相手はただ子供の可愛いわがままに付き合っただけだろう。

いつも妹と2人きりの食事が多い豪炎寺にとって、円堂や鬼道が泊まりに来る日は食卓が賑やかで楽しかった。
大事な妹も可愛がってくれる友人たち。同い年でおかしい気はするが2人ともをいつもいい子だとしみじみ思う。
たまに来る風丸を夕香は姉のように慕っている。2人の姿を見ていると、やはり変なようだが妹が2人になったような感覚になる。

「おいしい!さくらちゃん、料理上手」
「そう?嬉しい」
「ああ本当に旨いよ。驚いた。料理出来るなんて知らなかったぞ」
「だって…別にわざわざ言うことじゃ…」
「鬼道も知らなかったのかぁ。能ある爪がなんだっけ?」
「鷹だよ円堂…能ある鷹」
まぁまぁと言いつつ尚も頬張る円堂の顔を見て夕香が笑う。それにつられて回りも笑う。
ここに母がいたら、あの頃の父がいたら、どんなに…


食事が終わると夕香は佐久間の後ろをついていき、
運んでいた空の食器をシンクに下ろしたところでスカートの裾を引っ張った。
「わ、いたの。びっくりした」
「ねえお風呂」
「え?」
「壱重ちゃあんお風呂ぉ」
台所から声を張るとテーブルを拭いていた風丸が何だって、と訊き返す。
「お風呂入ろうよ。3人で」
「夕香、あんまり困らせるんじゃない」
空いた皿を片手に豪炎寺が入ってくる。
「えっ、こまる?ほんと?夕香こまらせた?」
「ううん、全然。でも、お風呂まで…私、終わったら帰るつもりだし…」
飛び上がるように驚いて佐久間に詰め寄った夕香と、佐久間の返事を聞いてさらに驚き早口になる豪炎寺。
「佐久間?変なこと言うなよ。何時に終わると思ってるんだ」
「え、だって」
「おい何のために呼んだと思ってるんだよ。帰らせないから安心しろ豪炎寺」
いつの間にか豪炎寺の背後に立っていた風丸も呆れたような声でいう。
「でも…」
「帰っちゃうの?帰っちゃだめ。ねぇ夕香と一緒に寝よ?宝物見せてあげる」
夕香の必死さが佐久間を引き留める。今日は意外なところばかり見た。案外子供が好きなようだし、こんな風に遠慮するタイプだと思わなかった。
料理ができるとはさらに考えつかなかったし、人見知りすることなんて全く予想もしなかった。


風呂に向かう女子の会話はなんだか複雑な気分にさせる。
「風丸、何か着替えある?私下着しか「声でかい。お前なぁ…」
「…聞こえてないよ。それより下着…違った着替え…」
「無いよ。ジャージとか持ってきてないのか」
台所で皿を洗う男子にもその会話はしっかり聞こえていた。微妙な視線と声無き会話が交される。
脱衣場の扉が閉じてから、めいめいため息をついて軽く笑い合う。
「佐久間も大概だな」
「慣れると酷いぞ。スカートはいててもあぐらかくからな」
「あはは!風丸といい勝負じゃんか」

"佐久間細いな、なんだこの腰!"
"くすぐったい!やめろよ風丸!"
"いいなあ夕香も早く大きくなりたいなあ"

筒抜けの会話に再びぎくりと沈黙する一同。
「先に入って良かったな」
「円堂?」
「いや、考えてみ?あの後って…なんか…」
「緊張するな…」
「だろ?!」
どっと笑って水が跳ねる。部屋着が派手に濡れてさらに笑いが込み上げる。
馬鹿みたいだ。それが笑えた。


「なんか風呂まで頂くって…」
「申し訳ない感じ」
「きをつかわないでよお。大丈夫大丈夫」
子供らしい話し方で大人のような台詞を使う夕香に風丸と佐久間はまたひとつほだされる。
「夕香ちゃん、いつもお兄ちゃんと2人で寂しいだろう」
風丸が気遣うように言う。
「んーん。お兄ちゃん大好きだもん。お父さんが居ればもっといいと思うけど、フクさん優しいし、たまにまもるくんとゆうとくんが来てくれるしぃ」
「そっかあ」
「壱重ちゃんも大好き。夕香お姉ちゃんも欲しいなってさいきん思うんだ。もっとたくさん来てくれるといいな」
「ふふ、2人、姉妹みたいだよ」
夕香はぱっと表情を明るくする。
「本当?壱重ちゃんみたいな美人なお姉ちゃんいたら自慢だなあ夕香」
「美人だって」
「なんだよ佐久間ァ文句あるのか」
「お兄ちゃんも自慢だけどぉ、あ、そっか。彼女でもいいなぁ」
「「彼女?」」
同じ調子の声が重なる。
「お兄ちゃんの彼女。やっぱりお兄ちゃんの彼女だったら可愛くてぇ優しくてぇ」
それを聞くと佐久間は自然と笑みがこぼれた。無邪気で可愛い。姉が欲しいと言う彼女の気持ちはよくわかる。こんな可愛くて明るい妹だったら自分も欲しかった。
「夕香ちゃん本当にお兄ちゃんが好きなんだね」
「うん!あ、そうだ!どっちかお姉ちゃんで、どっちか彼女」
「うん?」

「さくらちゃんと壱重ちゃんが、どっちか夕香のお姉ちゃんで、どっちかお兄ちゃんの彼女」

どう?という得意気な提案に思わず2人は吹き出してしまう。
「なってくれる?ねぇねぇ」
「ふふ、どうかなぁ」
「じゃあ呼んでもいい?お姉ちゃんって。壱重お姉ちゃんさくらお姉ちゃん。だめ?」
「もう、可愛いなあ。断れないよ」
「でも豪炎寺嫉妬するんじゃないか」
「あり得る。お兄ちゃん夕香ちゃんがかまってあげないといじけちゃうかもよ」
夕香はきゃっきゃと楽しそうに声を上げる。
「そういえばすっかりさくらちゃんになってるけどお前」
「いいじゃん可愛い。お前も呼んでいいぜ」
「さくらちゃんじゃないの?」
「次子。次子というんだ名前は。佐久間は姓で」
「そうなのぉ?お兄ちゃんが名前で呼んでるからきっと彼女か、好きな人なんだなって夕香思ってた。次子ちゃんならいいなって思ったのになあ」
「ごめんね。違うの」

「佐久間」

ざぱん。
唐突にまさに噂の影が立つ。磨りガラスの向こうに豪炎寺が立っているのがわかる。ぼやけた輪郭が浮かび上がっていた。
「着替え、でかいだろうけど一応置いとく。ちゃんと洗濯してあるから」
「お兄ちゃん!勝手に入ってきちゃだめだよ」
「悪かったな。ノックはしたぜ」
それだけ言うと輪郭は失せた。意外な行動に思えて風丸はしばし呆然と扉を見ていた。
突然の出来事に波立ったお湯がゆっくりと凪いでいく。
「もうお兄ちゃんたら!ごめんね?あとで夕香が怒っておく!」
「……」
「佐久間?」
佐久間は風丸以上に呆然自失で硬直し、
呼ばれた瞬間一気に耳まで赤くなる。
「わっ、なんだ逆上せたか?」
「ちが…、あ…、着替え…」
「着替え?さっきの?持ってきてくれたやつか?」
「……」
「次子ちゃん大丈夫?
あのドアこっち見えないの。それにお兄ちゃん覗いたりしないってえ平気平気」
夕香が心配そうに気を遣う。佐久間は慌てて夕香をなだめ、違う違うと否定した。
「なんだよ。なんなんだ?」
「あのさ…着替え…
…ってことは、さっきのさ…」
「……ああ、聞こえてたんだな」
「だよなぁ…」
2人はばつの悪そうに顔を見合わせたが、まあいいかと笑って済ませた。雑は時折長所になりうる。

女の子の入浴は長い。
3人が出てくる時にはすでに試合まで一時間をきっており、さらに打ち解け絆を深めたようであった。






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次子って個人的にヤバカワネームだと思ってる。イントネーションはアカギと一緒。場合によりカイジ。




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