※虫系/風丸さんの話
※グロではない


子供の頃、うんと小さい頃。落花生の入ったチョコレートを食べないで大事にとっておいたことがある。楽しみにしていたのだ。
それからある日学校でほめられ、習い事でもほめられて、気分が良かった時に思い出した。そうだ。今こそあのチョコレートを食べよう。
確か、親戚の誰かが買ってきた、お土産か何かだったと思う。袋に入っていなかったから、箱に並んでいたのをひとつもらって寄せておいたのだろう。紙のカップに納められたチョコレートは表面がつるつるしていて落花生の粒が所々に出っ張っていた。

ぎゃ────────────!

叫んだのももちろん覚えている。
チョコレートはもらったその日のまま、ティッシュペーパーにくるまれて、キャラクターの柄がついた缶の入れ物の中でおとなしくしていた。
しかしティッシュを開いたらチョコには虫がわいていた。いわゆる蛆というやつだ。
叫んで手から落としたが、そのひょうしにゅるっと出てきた蛆が床をよたよた這うのを見たら等間隔の溝とか動きとかがなんとなく人の指を思わせて、ただでさえ気持ち悪いのによけい気分の悪いものに昇華させてくるとっさの想像力がにくい。
以来這う虫全般に嫌悪感を催すようになった。

都心に住んでいればわざわざ見に行くでもしない限り虫に会う事態はなかなか無い。
蚊や蛾や小さな羽虫なんかがその辺をうようよ漂う程度だ。
「ちょうちょは平気なんですか」
校庭を飛んでいるトンボを見つけて、後輩が顔を覗き込んでくる。
「お前、何。俺が虫嫌いだって知ってんの」
「前自分で話してたじゃないですかあ。部室の裏でミミズ出た時とか」
「ああ…」
ミミズなんか最低だ。
「なんでそんなに嫌いなんです。蜂みたいに刺すわけじゃないし、ただうねうねしてるだけの…」
「その擬音をやめろ」

“うねうね”

後輩は不思議そうな顔。
嫌いだ、という事よりもその度合いに首を傾げているようだ。
指に見える。というとんだ理由を誰がわかってくれるだろう。

(逆が無いだけ良い)

その発想がどう脳に影響するのか深く考えなかったのが悪い。
深層でそれは視覚と結び付き、翌日から俺は戦慄の日々にぶちこまれる。

“逆”が起きたのだ。

そして俺にはもう指は見えず、地を這う蛆も友人の指も、つまり、そう…
同じにしか見えない。



*****
後輩は宮坂くんです


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