※ ガチゲイ豪炎寺と佐久間
※ オリキャラって程じゃないけどモブ的ななんかそんなん出る注意



懐かしい。最初そう思った。
でもすぐに、後ろめたいような、情けないような、いたたまれない気持ちがざわざわとあがってきて、見ないふりをしたくなった。
でも間が悪い事に彼がこちらを振り向いたので、あえなく、再会となる。

嬉しくないわけじゃなかった。


case 06:親展




女の子の気持ちがわかるわけじゃない。
女の子のように着飾ったり、可愛いと言われたいわけじゃない。そもそも果たして女の子がそう思っているのか、それもわからない。
自分は自分として、自分のままでこの性質で、不思議だけれどどうしようもなかった。
受けとめたのは、もう4年も前になる。

「しゃべる鳥なんか飼うもんじゃないぜ。うるさいったら。でも仲間と思っててやるらしいから憎めなくてさ」
「なんか、印象変わったな佐久間…
あ、いや、悪い意味じゃない」
「ふ、わざわざ言っちゃうんだ」
「あ…」
佐久間と最後に会ったのは、確か高校に入ってわりとすぐの頃。中学まで、何故か伸ばしていた髪をばっさり切っていた彼に驚いた。何かこだわりがあるのだと思っていた。

『別にこだわりなんか無いよ。飽きたから切っただけ』

中学生活の後半は、ばかみたいにいろんな事に悩んだ。人よりもしかしたら悩みやすい性格だったのかもしれないが、とにかく考える事が目白押しで、忙しかった気がする。
今でこそそのほとんどが実に些細に思えるが、それは未来の特権である。
現に苦しかった事を忘れてない。

佐久間と最後に会った時、そういったあらゆる葛藤にだいたい決着をつけたあとで、他人に向ける目など無かった頃に出会った相手だったせいか
彼の一挙一動のいちいちに意外性を感じていた気がする。
そしてそれも4年前。

ごちゃごちゃした駅の地下で、まさか目につくと思わなかった。
声をかけたい!と思いながら、なにか悪いことをしたまま逃げていて、見つかってはいけないような気持ちにもなった。
気付かないふりをして離れることが出来る距離だったのに、ふいに振り返った彼を見たら、話したくてたまらなくなった。
彼はやわらかく、優しい。

「豪炎寺、かわってないな。昔から大人びてるのに、子どもみたいなことするし言う」
「…そうかな。あ、でもさっきのはほんとに変な意味じゃないんだ」
「そう?」
「………」
「何飲む。紅茶でいい?」
「…興味無いんだな……」
佐久間は自分自身に対し、とりわけ関心が薄い。無いくらいだと言ったっていい。顔色が良くないよ、と心配されたって、その服似合っているね、とほめられたって、へぇ、ふうん、そう。
「興味?」
「自分に」
「…自分に興味?ああ…まあね。あまり無いのかもな」
その言い方さえ、裏付けている。
「それでどうしたの今日は」
自分の話になるとすぐに話題を切り替えるのも無意識の癖なのかもしれない。
「あ、うん。ええと…」

駅で偶然再会してからその場で少し話し込んだが、お互い時間の都合が悪くて急いで連絡先を交換すると、あわただしくまた近いうちに会おうと交わして別れたのだった。
発見の劇的なわり、味気ない再会だったが、また話したいと思って電話をかけたあたり彼に親しみを感じていたらしい。
「どうっていうか…ま、近況でも語り合おうじゃないか」
「そう思って来たの?」
「なんだよ。用事があるわけないだろうよ」
「ふうん。勘がはずれたな。
ま、いいや。とにかく元気そうで嬉しいよ」
湯気のたつカップがテーブルに置かれる。紅茶なんて好んで飲まない。しかし佐久間が出すなら気取った感じもしないようだった。

ふたりともおしゃべりな質では無いのに、不思議と話は弾んだ。
当時はただ少しおとなしい、主張の少ない子供だと思っていた佐久間への印象は過ごすほど変わっていく。
おとなしいというより、うるさくないという方が近い。そして主張が少ないのではなく思慮深い。
「やっぱり印象変わったな」
「そう?」
「あ、そうじゃなくて、お前が変わったんじゃなくて、俺が持ってたお前の印象が変わったって意味」
「ふうん」
また、ほら。興味無い。
「お前おれの事好きだっただろ」
「…は?」
「ふふ…自覚無いんだから」
何事も無いように紅茶を飲む佐久間に、目が釘付けになっていた。
今なにを言われたのか、理解するのに時間がかかる。
「ゲイなの?」
「はあ?」
「あ、ゴメン。隠してたんだ」
これが男女なら思い上がった誤解である。豪炎寺の恋愛は彼の少々複雑な資質を通過するため、即座の否定ができない。難しい。
笑えばよかったのだ。
なにを馬鹿な事を言っているんだと。
それで済んだはずなのに。

「なんでそう思う…」
「見てたから」
「…何を」
「おれを。いつもだった」
喉がびくりと痙攣する。
「でも、そうか。そういう質だったんだな。たまたまじゃなくて」
「誤解だ」
「もう…否定するのは手遅れだと思わないか」
また、ふふ、と笑う。
その笑みは嘲りを含まない。
佐久間は実に落ち着いた様子で紅茶をすすってふうと息をつく。
「………」
一方ぎしっとして黙ってしまった豪炎寺に気付くと、ちょっと意外そうにしただけでまたふふふと笑う。



…昨日、中学を卒業してすぐ後輩から届いた手紙を開けたんだ。
なんとなく開ける気がしなくって、ずっと長い事しまい込んでた。
でも何故だか昨日は今なら読んでもいい気になって、開けてみた。後悔したよ。
…封筒には赤い判子で親展とあった。
だからってわけでもないけど、慎重になってた。なんとなくだろうが、直感てやっぱりあるもんなんだ。



豪炎寺はそんな話をした。
佐久間は静かに聞いていた。
「親展か…
ラブレターだったの?」
「図星だよ、佐久間。
お前ってそんなに勘の良い奴だったんだな。
俺確かにそうだよ。ま、別に今じゃ悩んでない」
「それ、ラブレターだったの?」
「………」
佐久間は豪炎寺が指摘を認めた事よりも、後輩の手紙が気になるようだった。
手紙の相手とは別段親しかったといえる間柄では無かった。思えばどちらかと言えば引っ込み思案の、大人しい後輩だった。
その彼からの情熱がこもった手紙を、今の今までただただ引き出しに仕舞っていた事が申し訳なくなった。
「ただ、親展って気持ち、わかるんだ…」
豪炎寺はカップを手に持ったままうつむいてすっかり静かになってしまった。
佐久間は隣に腰をかけ、危なげなカップを手から取るとテーブルに乗せた。

チュッ

「恋心って傷付けてくることがあるんだよね。
なんでだかわかんないけど」
「今……」
「お前の目は心臓が焼けそうだった。こっちじゃないよ。お前のね」
「……」
突然受けた頬へのキスが衝撃的で何も言えない。2人の体は側面でぴったりとくっついている。
佐久間の体は細く、体温は低い。
何気ないようにしている佐久間は豪炎寺に恋愛や性的な意味で興味があるようには見えなかった。
「だから応えてやれない事が歯がゆくなってくるんだ。
危険だよな。その気も無いのにってやつで」
「お前……!からかうな」
「えっごめん。そんなつもり無かったんだけど」
あの頃の佐久間が手紙を読んだ自分と同じ気持ちなら、手紙を書いた後輩の気持ちも俺はわかるというのだろうか。
そもそも佐久間が言うように、自分はあの頃佐久間に恋をしていたのだろうか。
わからない。
でも確かに、
あの後輩が身を燃やすような切々とした何かを抱えて自分を見ていた事をおぼえている。

あの目でこいつを見ていたのだろうか。

混乱しそうな気持ちで、九官鳥に手を振る変な男をじっと見てみる。
「あ、また。それだよな」
「…うそだろ」
「自覚無いんだから」
さも可笑しそうにまた笑う。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -