※ 存外ファンタジック注意


妹の結婚式が保留されたままだ。
いいのか。
互いを選んで結ばれるはずの、盛大な祝福にあったはずの2人の幸せがねじれている。絆は相変わらずにしても、世の中そうはいかないのだ。
これでいいのか。こんなことでいいのか。
気の沈むことが増えてきて、鬼道も疲れを感じていた。

穏やかだった里が破裂しそうなくらいはりつめて、ひりひりした空気が漂っている。
元からの宗派を変わらず信仰する者と反発する者と、今ではまるでかたき同士のようである。息苦しく重い日々、どちらでもない鬼道にとって現状は頭が痛く、かつどうでもいい事象に過ぎない。
なんとなくあおられて自分はどちら側であると宣言してしまい、派閥に加わざるをえなくなる若者も多かった。厄介な事にそういう半端者こそあとあと加熱して過激な思想を持ち出すのだ。夜中にぼやを起こしたり、他人の家の戸口に落書きをしたりする。
一体、何の主張があるのか中身が見えない。そういうやからはただ暇を潰すのに快楽的に騒いだり奇抜ないたずらをして楽しんでいるだけなのだろう。
しかしそういった迷惑行為の防止がために、昼夜を問わず警団が見回ることになり、さらに人手が足りずに鬼道や豪炎寺もかりだされる羽目になった。
たまに会うと互いに疲れた顔を見て笑う。
「ひどい顔色だな。家には帰れているのか」
「お前こそくまがすごい。見ての通り帰れはしないが、今は親父が居るから」
「そうか。そうだな…」
「それより音無はどうしてる」
「あア…」

春奈は腹をくくっている。

この世間では本山に結婚のゆるしを届けに行くのは難しかろう。
結婚なんてしたきゃすればいい。そういう考えで今までの習わしに従うことなく勝手めおととする者も居る。
春奈なら、夫婦というかたちを取れなくても、夫と決めた立向居と共に生きると確と決めたのだ。
そして立向居は里に戻らぬ覚悟もしている。
彼の里は団結して、本山支持の体系である。どっちつかず拮抗したままのこちらの里から立向居を呼び戻そうとする働きもあったが、彼は拒否した。
妻と決めた人と生きるからと。

妹は妙な位置にたってしまった。

状況的に、はっきりとした“どちらでもない人間”なのだ。
結婚のゆるしを貰いに行く様子も無いが反対派というわけでもない。強烈に本山を支持する里の出身である男を夫とし、しかし結婚したとも言いがたい今。
どちらでもない。争いがなくなるならどちらでもいい。
お前はどちらなのだ、と訊かれれば春奈の答えはそうだろう。
その言葉に嘘はなくても各々の思想に必死でやっきになっている方々の者には危険に感じられるかもしれない。

妻はどうしているだろう。
妻の立場ならもっと危うい。心配はし続けているが彼女は気にしていない風で、そのくせ来るなとか言うものだから力になれないような気がしても心苦しいし支えてやりたい。
近頃は夕香や春奈が離殿に上がるのも渋るようで、案外心配性なところもある。反面なんだか不安に思う。
冷静な妻が世間の流れにおそれを抱いて居るということ。
自分から人を遠ざけるということは、いずれ何かしらの力によって自分が裁かれる日を予期しているということだ。
できるだけそばにいてやりたいのに。
春奈のように立向居のように、鬼道ももはや妻と生きるという心を決めている。
それで例えいつか本当に裁かれるような日が来ても、後悔する気は起きないだろう。

愛する妻が、それを許してくれるなら。


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