性別が理由で出来ない事って、今や多くは無いだろう。女は社会にでしゃばってるし、女の方が優れていることだってたくさんある。
だから、なにが、
『おんなだから』だ。
ふざけやがって。
ふざけやがって。

「1軍イエー」
「あんまりそう、おおっぴらにするなったら」
「なんだよ固ぇな」
不動は初回の昇軍試合で一軍入りが決まった。5月の大型連休直前の事、当然という態度が上級生の神経を逆撫でる。国の代表であった不動や鬼道がたがたが1年2年先輩であるからというだけの相手に劣ることはまずないのだ。二軍に属していた同学年3人は、生意気にも3人揃って一軍に。連休明けからはスターティングメンバーも目前の位置で練習が始まる。
(佐久間だって、ここに居たなら一軍だろう)
そう思わずにいられないのに、思えば思うだけ気が荒れた。
くそ、ちくしょう、ちくしょう。

4月の半ばをすぎる頃、不動には新しい恋人ができた。
中等部の頃からずっと好きだったと言われて、不動の方は認識もしていなかった生徒だったが、おとなしそうな顔のつくりと控えめな態度が気に入った。しかしいざ関係が始まると、いずれまたある時点からどうでもよくなるかもしれないと時々頭をよぎった。
人と関わる度、根底が暴かれる。
自分をあわれむ機会は今まで意外に少なかったが、不動は己の心根が貧相であると、それが本質であると信じていた。だから恋人をどこかで見る目のないばかだと見下していたし、なんとなく蔑む気持ちさえあった。

実は去年父親に会った。
ちょうど今時期、地区予選が始まる前あたりの頃だ。
新しい環境と極度の寝不足と部活のプレッシャーと学業面でのふがいなさ。それらから来る大いなるストレスと、そこに長らく音信不通だった父親。
不動が体調を崩すに至ったのはこういう背景があっての事だった。
不思議なことに恨みを感じない相手だったが、今さら会う事が子供にとってどれだけのものか計り知れない。面会は長い時間ではなかったが、ひたすらどうしていいものかわからない戸惑いが不動の腹でうごめいていた。
父親の印象は幼少の頃に得ていたものとはずれていた。
確かにこんな顔だったような気もするが、まるきり他人のようにも思える。微妙な時間だった。
不動は一度も笑ったり喜んだりしなかった。とにかくどうしたらいいのかわからないのだ。
会いたいと思っていたわけでもなければ、この先会う日が来るとも思っていなかった。
本当に予想だにしない唐突な出来事で、懐かしいという気も起きなかった。
父親の方はというと、そんな不動の様子を感じてか残念そうな寂しそうな、今一つ引き気味の態度のまま、中身の無いような話ばかりして帰っていった。
それだけなのに、不動はとどめを受けたかのように調子を崩し、吐き、寝込んだ。
父親と会った事は誰にも言ってない。母親にも、その時手紙をやりとりしていた当時の恋人にも、もちろん佐久間にも言っていない。
そして今の恋人にも、生い立ちやそれらを話す気などはさらさら無かった。


「お前なんでかもてるよな」
「なんでか?」
「不思議だ。謎だ。まったくもって不可解だ」
「ひがみ?」
「いや、興味だ」
鬼道とも源田ともクラスがわかれたので話す機会といったら部活の間だけだった。
別に、クラスや寮にも友人は居るし鬼道や源田と親しいわけでもない。ただ部活が同じというだけ。それなのに同じフィールドで戦うということは大きいようだ。
今、親しい人物を問われれば、不動は鬼道と源田をあげるだろう。
鬼道はいけすかないし源田は不動が大嫌いだが、縁というものを感じている。いつもつるむというだけが人の関わりに限らない。
「お前は性格も悪いし根性曲がりだし横柄だから、それが好かれるというのが不思議だ」
「同感だ」
「源田まで…え?そこまで言う?つうかお前人のこと言える?」
「同感だ」
「なんだよ源田、俺の味方をしてくれると思ったのに」
以前は鬼道が源田に嫌われながら源田を好いている意味がわからなかった。不動は嫌ってくる人間はこちらも嫌いだった。
「お前も不動も嫌いだ。虫が好かん」
そう言うのをすぐ近くに居て聞こえたらしい部員がぎょっとして源田を見た。
源田にはそれが見えていないので不動は可笑しくてにやにやと笑う。にやつく不動に源田はますます嫌な顔をする。
「むかつく奴だ」
「そんなに褒めるなよ」
「………」
こういうやりとりを鬼道も止めないものだから、源田が鬼道を嫌いだというのはよくわかる。もちろん要素はそれだけでは無いが、たった3人でこれだけ複雑なことになるのだから人間関係は果てしないと思える。
源田を好きだとか、代表のメンバーが好きだとか、そういうものに理由など説明できない気がした。
こういうところがとか、要所は言えても、でも、それが、どうして自分が好きなのかは説明できない。
大会中の佐久間の態度の変化が今さら理解できる気がした。
もし今不動が少なくとも大事に思える人たちを思うように、佐久間が不動を思ってくれていたのだとするならば…

『不動くんのことが前からずっと好きだったの』
『なんでかもてるよな』
『友達にはなれないのか、不動』
『許さねえからな』
『えらくなりなさい』

夜は今も不動を苦しめる。
聖母は去り、居ないならば居ないままだ。いっそあんな優しい夜は、知らない方が良かったかもしれない。
そして不動は佐久間の事を、考えるのも思い出すのもやめた。





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