※ 鬼道と佐久間(年齢操作)
※ 存外ファンタジック注意



宗束修行から戻り、1年。
「ばらしたな」
「ばらしたさ」
「面倒になった」
「俺だって妹にうるさく言われてまいってる」
鬼道が家に戻って、翌年の夏。鬼道が留守にしている間に同じ時期に修行にこもった同郷の友人、豪炎寺の愛妹が鬼道の嫁の元で働きはじめた。
元でといっても等位が同じ家同士の事なので、ちょっとした手伝いというか、社会勉強のようなものだろう。
快活で明るい豪炎寺の妹は、実はもしかすると鬼道の本妻になるもありえた。
鬼道の家と豪炎寺の家は付き合いが古く、友家と呼ばれる間柄になるが、意外に一度も婚姻のつながりは無い。だから今回とうとうどうだろうか、という雰囲気があったのだが、実はそんな話が囁かれるよりずっと前、以前約15年前、本山から例の結婚の申し入れがあったのだった。
末娘を、と言われても、本山の一族の子供たちは既婚の長女以外(既婚とはいえまだ12歳の少女)は皆男である。聞けば翌秋に生まれる娘をという話だった。当然生まれていない赤子の性別はわからない。本山の使者は“生まれてくる女児”と言い切ったが、そうと限らないと鬼道の本家は一旦話を保留にした。
そのため一族内でもこの仮の約束は一部の者しか知らなかったのだ。

やがて使者が言った“女児”が生誕の間近であろう頃にも、秋が過ぎ去り、冬になっても、使者は訪ねてこなかった。

ところで本山の一族は妊娠をすぐには外部に知らせない。
無事に子供が生まれ、母親が身体の調子を戻した頃、一番近い行事(この宗教による)にてはじめて公表する習わしだった。
それはもちろん鬼道の家も例外では無く、このおめでたを知らせられるのは実に不自然である。あらぬ事を勘ぐりたくもなるが婚姻の話となると、それはもう鬼道家が一族の一部とみなされているのだろうか。いやいや、まだ結婚を決めたわけではないのだからやはりおかしい。
こんな風にその年の冬が過ぎるまで、鬼道の宗家はなんとなく落ち着かない空気だった。

今現在こうなっているからには、女児が生まれ、婚姻の約束が成されたのだが、鬼道はそういえば7歳かそこらの頃に一度本山にお祝いに参じていた事を修行に入ってすぐの頃にふと思い出した。
この地域のお産のお祝いは通常赤子にではなく母親に対してするもの。本山の奥方といえば神の妻。姿を見た事は一度も無い。
いつも奥方の御簾の前に左右に分かれてずらりと並ぶ10人ほどの従者の巫女さえも頭から布を被っている始末。その様は確かに神々しい存在が背後に在るように見える。

10になったらお前の嫁だ。

そう言われて絹のすだれの奥に寝せられていた赤子の側に1人たたされた時、
鬼道は血の気が引いた。
本山の女は、生涯異性は夫しか御簾に入れない。
天外ですっかり覆われた寝台の中で、小さく呼吸する赤ん坊。
この時既に婚儀は済まされたと言っても過言ではない。

豪炎寺の妹が生まれたのはこの5年後だった。
幼い彼女が元気一杯に走り回る姿を見ると、時々あの天外の奥の赤ん坊を思い出した。
どんな子供に育っているのだろう。いずれ本山の女ならば、くだらないに違いなかった。鬼道の信仰心は浅い。
やがて鬼道家の当主だが、信仰のあつい祖父とは意見がよく対立する。父は祖父よりは柔軟だが、それでも本山に対する信仰の度合いは自分とは決定的に違った。

夏の盛り、公民館(ここでは、公務を行う建物)で久々に豪炎寺と顔を合わせた。
互いに挨拶する前に、横に控えていた豪炎寺の妹からいまぞとばかりに声が上がる。
「ねぇ、おくさまのところへは、あすは行く?」
「さあ…どうかな。明日は叔母上がいらっしゃるそうだから」
一等の家の娘だから、こんなに幼くとも外出するには顔を隠す。教徒の紋章が刺繍された紫色のベールを見て、鬼道は少し顔をしかめた。
「あら、おばさまとおくさまとどちらがたいせつなの」
「厳しいなぁ。そりゃあ、俺だって会いたいが、毎日忙しいんだ。大変なんだよ」
「ふぅん…」
納得しかねる、といった様子だ。
豪炎寺には、婚儀のあと一度も妻に会っていない事を口のうるさい乳母に告げ口されて難儀をしている恨みがある。しかし今わかった。
彼も言いたくて言ったわけではあるまい。

『妹にうるさく言われてまいってる』

「すまんな、豪炎寺」
「謝るなら、行ってくれ」
「そうよ、いって」
「ああ、そのうちにな」
それを聞くと豪炎寺はため息をつき、妹はとびあがって喜んだ。



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