※ 不動と佐久間♀
※ 最低男と馬鹿女
※ 暗い。年齢操作他注意。D



目が潰れたとわかって、思った事は見てくれに関する心配ではなかった。
このままもう一方の目も使い物にならなくなったら、一生を誰かに頼って生きていかねばならなくなるのだ。

「…普通さ…もっと別のこと気にするよな。気にするっていうか、思い付くっていうか」
「そうでしょうか」
「お前おかしいよ」
不動さんは何故か私の手を握ったままだった。

不動が佐久間の自宅に上がり込んだあと、はじめに交わした2人の会話は完全に常識はずれだった。
佐久間は右目を刃物で裂かれ、それを半日以上自己手当てにてほうっておいた。自力で出血を止めていたのだから、もしかすると不動が来なければ自分でどうにかしたのかもしれない。昼間でも居間にはカーテンが引かれ、荒れていた。血が散っていた。

『あ…不動さん……
…ごめんなさい……
いま、お金…ないんです……』

居間の扉が数センチだけ開いて、佐久間がささやく。不動はひれ伏して赦しを乞いたい衝動にかられた。
金なんか、金なんか。そういってやりたかったが、実際もう総額いくら借りたのやらまるっきりわからないのだ。それでそんなセリフなんて馬鹿も過ぎる。

『金なんかいらねぇよ。会いに来たんだ』

それなのに不動は言ってしまった。金なんかと。内心、どう思われただろう。佐久間は金に固執するようなところは無いが、概念が無いわけではないのだから、不動がなんと間抜けた事を口走ったのかわからないではないだろう。不動はしまったと思ったが、今は心底本心だった。
『あいに……』
『お前に会いに来たんだよ』
『………はぁ…』
いまいち理解できていない佐久間だったが、それも仕方の無い事だ。不動だってどう言ってももうなにもかもきてれつな狂言にしか聞こえないとわかっていた。

「待ち伏せたんだ」

不動は佐久間を抱え、救急外来に駆け込んだ。医者に引き渡した直後、たった今抱えていた佐久間の身体が日陰にあった岩のようにしんと冷えていたと気付き、ひとり焦った。ひとしきり狼狽えたあと、ままよと治療室に飛び込み、炭の塊ように凝固した血が銀のトレーに並べられているのを見てしまう。
「なんとかして連絡がとりたかったから、学校の前で」
「………」
「そしたらお前の友達に怪しまれたよ。あんた絶対良くないって言われた」
「はあ…」
失明。佐久間は落ち着いていた。右目の視力が戻らないと聞いても、はい、と返事をしたのみだった。
左目に影響は無いんですよね?自活に問題が無いなら、それで。
佐久間が医者に言いたい事はそれだけのようだった。それを聞いた医者は変な顔をしていたが、治療に意欲的ではないのが明らかである佐久間に怪我の経緯を詳しく訊くような事もなく、淡々と処方箋を出して追いやる。そこで不動は佐久間に触れた。
「不思議そうだな」
「…そうですか」
握った手は冷えていた。
この表情の無い奴がさらに片目になるのだから心配になる。これ以上どう接していいのかわけがわからなくなるのはしんどい。
「間違ってたんだ」
「………」
「おおむねを間違ってた」
「…そうですか」
何を、とは訊かないのが佐久間だった。遠くで反響する金属音と人の声。廊下には2人しか居ない。外の天気は良かったが、ここに直射光はない。
「お前は美人だし、気立ても悪くない。落ち着きすぎてるが。俺はもっとそういう事を、お前に言ってくるべきだった」
「はぁ、お世辞を?」
「違う、ばか」

ボタボタボタボタッ……

居間の床に血が散らばる。鳥が殺されたのだ。
唯一慕っていた肉親である祖母の家で生まれた鳥だ。暴れて羽が散らかり、血でべとべとになった鳥かごを洗う。
鳥を殺した連中は面識の無い男たちだった。目的は“不動に近付くな”と、佐久間に伝える事。それを伝えるためだけの手段にしては凶暴だ。
不動にはしばらく会っていなかったが数ヶ月前からそういった要求が様々な手段で届けられていた。携帯電話をなくして以来連絡をとる手段が無いのにそれを相手には伝えられない。嫌がらせめいたいたずらが自宅の外壁やポストにされたが佐久間はたいして気にかけなかった。
殺された鳥は庭にうめてやった。
男たちは昨夜再来し、通報するなだとか抵抗するなだとか言いながら、髪をつかみ体を蹴ると、何か刃物で目を刺し逃げた。
ここまでやればいいかげん懲りるだろう。不動って男には、もう関わるなよ。
不動との関わりに第三者から干渉があるというのは変な気分だ。決して望んだ今では無いからだ。
借金はどうでもいい。貸す方が悪いと思われる典型的な状態である。実際佐久間もそう思っていた。断れば二度と請求しそうにない。なんとなく不動にはそういうところがあった。
(あ、じゃあいいわ。じゃあな。あばよ)
それを避けようとしていたのだろうか。

通院に、何故か不動はつきそった。
毎回必ず迎えに来て、送り届け、帰る。調子は狂ったがそれに言及するのは思いやりのないことに思えた。

相変わらずの妙な距離感。
でもある時佐久間が笑むと、不動は心底喜んで、思い出したように言った。
金を返すと。




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