夢を見ました。これは驚くべき体験です。
私は自身の死によって、死人への偏見や思い込みを知りました。

これまで死後のあれこれは、ほとんど考えた事がありませんでした。天国や地獄や、極楽浄土などというものも、思想のひとつとしてとらえていましたし、死、自体さえも、特別何か神秘をはらんだものではないと思っていました。
ただの終末だと。

あれから、3年経ちました。

いいえ。
私はまだここに居ます。
ただ眠る時間が増えました。このまま少しずつ眠る時間が増えて、やがて目覚めなくなるのが私にとっての終末なのかもしれません。
こういった憶測は数えきれないほどにしました。相変わらず私は私の状態に、意味を見出せずに居るのです。
また、割りきることもできていません。
物を手に取れない性質のために発展を続ける文化からひたすら取り残されて行きます。
そういえば、ずいぶん遅い発見ではありましたが、どうやら声を出す事ができないということもわかりました。実際に音に成るかは別として、発声している手応えが無いのです。もちろん震えるべき声帯が無いとはわかっています。
しかし歯が歯とあたり合う音や、舌が動く音、時々は骨が鳴る音だって、人体はなかなかにぎやかなはずです。それさえも一切が聞こえない。
自分の存在が、そういうものである事を感じる。
在らざるものである実感を、かみしめる毎日です。


3年経って何か状況に変化があったかと言えば、これだけ意味のない在り方である私にそんなたいそうなものが訪れるわけもなく、ただもどかしい。消えたい思いはさらに強い。
たくさんの友人と巡り会ってきました。
彼らは私に気付かないまま日常をただ過ごし、その隣に急に降り立つ私。これも自分の意思とは無関係です。
ただ大概が私の事に関して話していたり、私の墓を参ったり、遺品についての某かを起こす、そういう場面に立ち会う現象でした。

私は路上で死にました。
私で無くても良い死でした。
誰でもよかった死なら、むしろ自分で良かったと思います。
今でも。

しかしそれが多くの友人にはどうにも許せず、いたたまれない出来事だったのだと知っても、それでも私以外の誰かが、あの日の死に遭わされるならば、私は私で良かったと思う。
こういった部分の考え方ならば、3年でかなり変化しました。
私は私の死について、嘆く人など居ないと信じて疑わなかったのです。
私が居ようが居まいが誰にとっても何の影響も無く、墓に詰めて終わりである。
私にとっての私は、今もそのままですし、嘆く価値は無いことは明白であるはずでした。
ところが変わった友人たちは泣いたり悼んだりしてくれるもので、少々混乱してしまいました。
自分のために流される涙など、永劫存在しないはずでしたので、自分が死んだということよりも驚いたくらいです。
でも思い直せば、他人についての行動原理を決めつけていたのだということに気付き、それはなんておこがましい事だったろうと気付いたのです。
そういう、変わった人が居るということ。
その途方もない優しさを、私に向けてくれるということ。
嬉しくて。

本当は、喜びに感じたのも最近なのです。

それまではただただ驚いて戸惑って、どうしていいかわからなくて、辛くて辛くて終わりでした。
やがてしばらく経ってから、じわりじわりと、目に見えぬくせ感覚は確かな皮膚から、染み込むように、突き刺すように、ああ、あれは優しさなのだと、わかったのです。それは大層不思議でした。

それは大好きな女友達に、例による一方的な再会を果たした時にも体験しました。

女の子の友達は少ない方です。
いえ、友達自体、多くは無い方でしょう。生前あまり社交的ではありませんでした。
そんなつもりは無いのに、私は無表情で、無感動な女に見えているようでした。誤解だと言うのは簡単ですが、その印象を与えているのが他ならぬ自分なのですから、それもひとつの事実です。
幼少から男の子が好む遊びにばかり興じてまいりましたので、いささか女の子との感性はずれていたことでしょう。女の子たちの目まぐるしい会話についていけた試しがございません。
それでもそんな私にも、好意を持って接してくれる女の子たちも居たもので、通っていた学校の姉妹校の生徒だった忍や、不思議な縁で親しくなった照美、部活の代表合宿で一緒になった風丸などは、面倒見が良くて優しくて、可憐で素敵な人たちでした。
誰も常に身近に接していた相手ではありませんが、私は彼女たちと友情を結べたことを心底感謝しています。
大好きでした。

女子としてあまりにふがいない私を、あきれながらもいろいろと指導し、励まして、女友達という財産を初めて教えてくれた忍。
部活ではライバル校の選手として立ちはだかりながら、その立場に気兼ねせず、気さくに付き合ってくれた照美。
風丸は、男の子よりも潔くたくましい性格だったけれど、とっても女の子らしい面もあり、自分の恋の秘密などを、こっそり教えてくれたりもしました。

今では、忍は毎月かかさず墓を見舞ってくれているようで、照美は私が死んだ路上に、月命日必ず花を手向けてくれます。
そして風丸は私の死に様によって、目指す未来を大きく変化させました。
彼女は警察官を目指しています。

私は殺されたのです。


冬の路上で、たった1人でした。
私で無くても良い死でした。

彼女は私を殺した者が許せず、最も私の死によって、影響を与えてしまった内の1人です。

申し訳なく思います。
憎しみで目指す何かに、何か意義があるのでしょうか。未来に価値があるでしょうか。私は誰も恨んでいません。
それをどうにか伝えようとしても、漂うだけの私にとって、その手立てはありません。
その関係は死者も同じ。
死者が生者に出来ることも、生者が死者に出来ることも、きっと何一つもないのでしょう。

それを真にわかっているのは、死者だけなのかもしれません。




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