※ 見様によってはホラー



私は去年からここに居ます。ここには居ますが、現状「居る」という定義がよくよく覆されておりますので、「在る」という方が正しいかもしれません。自我がある存在に対して「在る」というのも変なのですが、仕方のない事のように思います。
私は去年死んだのです。

このような死は望んでいませんでした。「死」自体はさして問題ではありません。そのありさまをしゃくに思うのです。
死因はわかっておりますが、そこも問題ではありません。私が己が死をしゃくに思うのは、多くの人間に迷惑をかけた点です。
死んでいるのですから、謝罪もままなりません。
ふ、と、私が見られる時がありますが、そのような事態も私がその方の視野に入っているわけではないのです。大抵は漂う私の微かな気配を感じただけか、私を見越してどこか別を見ているだけに過ぎません。

私が何故此処に残されたのか、未だ意味はわかっておりません。
断言してもいいのですが、私には未練がありません。
家族との繋がりはごくごく希薄で、めしいる前は当主の祖父が可愛がって庇護にして下さいましたが、私は家でたくさんいる兄弟の中の、影に潜んでいるみそっかすでした。
死ぬ前から幽霊でした。

私がここに在る理由として、定まらぬ意識で思い付いたいくつかの事がありますが、どれもはっきりとはいたしませんし、突き止めたところで、さして意味も無いのかもしれません。
とにかく、理由になるとするならば、恋と約束です。
めしいた愛しき祖父も、心配には思うものの、私が居なくとも生活に支障などありはしないし、あの方を助ける人々は、きっと私が思うよりもいっぱいいて、私の考え及ばぬたくさんの力や言葉で、あの方を支えてくださるでしょう。きっぱりそう思えるので、情は候補よりはずれました。

私が留まれる場所は、学校と病室と、私を覚えていてくれる、いくらかの友人の側くらいです。
しかし友人たちは私が側に佇めば、なにか落ち着かぬ気分になって、そわそわしたりきょろきょろしたりするものですから、あんまり近くに寄ってあげるのは遠慮しています。不安な気分になるのでしょう。
私の姿は鏡にも映らないし、手を目の前にかざしてみようと体はなんにも見えません。
でもまばたきはするのですから、不思議です。たぶん透明なのでしょう。証拠に、私は私に触れます。

友人に、あいさつしてみます。
もちろん気付きません。誰も気付きません。
いつだったか、幽霊が見える、と秘密を教えてくれた部活の仲間にも、私は見えていませんでした。もしかしたら私は幽霊でさえないのです。
私が漂っているはずの世界で、私は全くの無意味でした。なにひとつ影響しない、葉っぱ一枚揺らすこともない、そういえば風も私に吹かないし、呼吸をしているのかもわからないのです。
私は私にとってさえ、不確かで不明瞭な存在でした。

この1年でいろいろと考えました。この頼りない意識では、そのうちゆらりと消えゆくだろう。それはどうやらはずれです。
潜在的に、何かここを去れない理由を持っているのだろうか。それを解消しなければならないのだろうか。
意識のみがむき出しになったような私の在り方で、どんな事がどこに潜在するだろう。それを思うと未練というのもあり得ないように思いました。
そもそも、私は自分の生き死にに、さして興味がありませんでした。死んだら死んだで良かったのです。そうだと思っていただけで、生き意地汚い根性でも、どこかにひそめていたのでしょうか。それも情けない話です。
私にはなんの義務があって、どうしようもないさまなのか。
どう念じたって何も起きなければ、自分で自分に念仏を唱えたりもしてみましたが、これといって私というものに変化をもたらしたものはありませんでした。
死んでからどうやって死のうか悩むなんていうのは、実に滑稽に思います。当事者でありながら少々笑ってしまいました。
こんな風に、いろいろと考え、考えた末、理由があるならば恋と約束、どちらか1つか両方かだろうと結論になって、困っています。
もしもこのうちのどちらか1つならば、ましてどうしていいのやらわかりません。
その両方共、私に叶える力は無いのです。
では意中の男性を呪い殺して黄泉に引きずり込むのが正しいでしょうか。私にはその意志はありませんし、私にそれを強いる存在が在るのなら、その死後の横暴に立ち向かう方を選ぶでしょう。

いずれ、観察を続けてみようと思います。
死はこのようにただ生前の意識をいっそう虚ろな物に変えるだけだと知っていたなら、私も死にたくないと願う時があったかもしれません。
今のところ私が発見した私のいちばんの未練というのは、その事でした。
なんとも間抜けな話ですね。



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