※ 不動と佐久間♀
※ 最低男と馬鹿女
※ 暗い。年齢操作他注意。C



このままにするには後味が悪すぎる。
しかしどうやって佐久間を探したらいいものか手立てが無いのが現実だった。
3日目。仕方がないので同じ色のネクタイをしている女子生徒に声をかけてみた。大抵の生徒は佐久間を存在を知っていたが連絡先までは知らなかった。下校していくこの人数を見れば生徒数の多さがわかる。途方もないかもな。
「アンタだれ」
「ちょっとした知り合い。連絡つかないから気になって」
「普通そんだけで3日連続で何時間も待ち伏せする」
「…佐久間の事知ってるなら教えてくれ」
「ヤダ。アンタ見るからに怪しいもん」
もう何人目か、やけくそとダメ元で声をかけたど派手な頭髪の女子生徒が意外にも親し気な反応を見せた。
「あのコにに付きまとわないで。消えて。何の用があんのよ、うざい」
こんな悪態を聞いては彼女、佐久間が自分の存在及び関係性をこの女子生徒に話していたと思わざるをえない。不動は佐久間への信用が引き波のように失せていくのを感じた。
「俺を知ってんの」
「知らない。でもアンタら絶対良くない。来ないで。人呼ぶよ」
高い位置に結わえられたサイドテールは薄い金のようなぼやけたピンク。それが人混みを切って行く。
(絶対良くない…)
うつむく佐久間を思い出す。作り物みたいな美しい顔。
『何の用があんのよ』
それは不動にもわからなかった。
会いたいとか心配というよりは禁断症状のようなものだろう。破壊された携帯電話の件も気になる。強いてあげればこのくらいか。
ピンク頭を少しだけつけてみたが馬鹿馬鹿しくなってすぐにやめた。

佐久間はがらんどうだったが、決して極端に無知だとか冷徹だということも無い。小鳥を飼っているらしかったし、どうやら友達もいるのだから、まだまだ不動が知り得ない、彼女の魅力があるのだろう。
不動はとうとう最後の手段と思い、例の恋人に訊ねてみた。
「あいつの家、知ってるんだろ」
「あいつ?」
「前ファミレスで会った高校生。つかしらばっくれんなよ」
「知らないよぉ。誰のこと?」
話はとことん平行したが、不動は引き下がらなかった。淡々と続け、焦らず怒らずただ問い続けた。女は次第に苛立ちはじめる。
「わかんないってば。もう、しつこいよ!」
「だから、前にファミレスで会ったことあるだろ。髪がこれぐらいの長さで、変わった色してる」
「知らないよ!なんなの本当に。浮気してんの?その子と浮気してんの?」
女は突如怒り出した。やかましい限りであったが、不動は少しも動じなかった。
「浮気って」
「そうでしょ。なにが、痴漢よ。ふざけやがって、騙しやがって」
女はたった今墓穴を掘った事も自覚できないほど高ぶっていた。ひとまず言い分を聞くことにしたが、正確に聞き取れたかは自信薄である。
女の言うところはこうだ。
佐久間はあの日制服姿であったのが災いした。ただのお礼の食事であるという方便を、彼女は鋭く見抜いていた。見抜いていたというよりは信じなかったというほうが正しいだろう。不動が自分以外の異性と2人で会っていた事がただ許せなかったのかもしれない。とにかく佐久間は彼女に恨まれたのだ。納得したように見えたのは見事なまでの演技であった。
不動のまったく見えない場所で、女はあぶない付き合いがあった。
その筋とまではいかないものの、その分無秩序で過激な連中である。
つけて、と頼んだ。
連中は不動と同じように学校で張り込み、佐久間をつけた。
女はとうとう告白した。佐久間を仲間につけさせて、自宅を知り、その後にどうしたか。それだけはどうしても言わなかった。ここまで来ると不動もいよいよ冷静さを失った。
佐久間の自宅の場所を聞き、興奮したままの女を置いて部屋を出た。アパートの階段を降りきった後、絶叫と何かが割れた音が聞こえた。暴れているらしい。かまわなった。

(どうするっていうんだ)
不動は電車に揺られながら、佐久間の自宅の扉の前に立ち尽くす自分を想像した。もしかしたらそのまま帰るかもしれない。
不動は何故か、土産を渡した時の事を思い出した。
薄いピンク色と素朴な花の絵が佐久間を連想させて買ってきたものだ。つまり佐久間に買ってきたのだ。中身はアーモンドのチョコレート。パチンコでもらった板チョコを、佐久間はいつも断らない。しかしチョコが好きかは知らないのだ。
『ありがとうございます』
律儀に頭を下げる姿が思い出される。
痴漢が彼女の身体を撫でる。全身総毛立つような気分になった。
金を返せと言わない佐久間。貸せと言うのにも拒まない子供。
抱き締めておまえが好きだと言おう。
とりあえず目的をひとつ作った。
金を返す。その約束をしよう。これからも会う口実になる。
そして理由。
考える前に駅についてしまう。
佐久間の家は一軒家だった。マンションやアパートを想像していたので、表札の無いありきたりの家屋だというのに強烈に不動を圧倒する。更に悪いことに呼鈴は門についていない。玄関扉の真横にある。観念してレンガの小道を進む間、庭に干されている鳥かごを見つけた。

ピンポーン

「………………」
返事は無く、物音もしない。何度鳴らしても誰も出ない。
ドアノブに手をかけ、回す。
扉は奇妙な音を立てて開いた。内側から見ると扉には切られたチェーンがぶらさがり、鍵の構造がむき出しになっている。小柄な少女を連想させる清潔な感じのローファーが、あっちとこっちに離れていた。廊下には靴あとが無数にあり、突き当たりに倒れた観葉植物。
女が何を言い渋ったのか、不動はそれだけで想像ができた。





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