※ 不動と佐久間♀
※ 最低男と馬鹿女
※ 暗い。年齢操作他注意。A


北海道に行った。
そう言ってくれたのは有名な店のチョコレートだった。紙で作られた小さな箱。
「みやげ」
「ありがとうございます…」
何故、なんのために行ったのだろう。誰と、いつ、なにで…
訊いていい程親しいような気はしない。この土産も気が向いたか余ったかくらいの物だろう。
湿っぽいアパートを出る時、もう一度頭を下げてお礼を言った。
お土産ありがとうございました。
「くそ律儀だなお前」
煙草の煙を吐き出しながら不動は笑い、扉を閉める。

むこうからから会いに来る事は無い子供を、不動は扱いに困っていた。
呼べば必ず参じるものの、むこうからの電話もメールも一度も無い。好意の有無を確かめ合うタイミングは完全に失っている。かなり綺麗な娘だが、がらんどうで血の巡りが無いようだ。
高価な物を買わせた事は無いが支払いを拒まないのも人間味を薄く見せる原因のひとつだろう。
便利だが、どうしたらいいのかよくわからない。大幅に離れているわけではない年の差が、それでも大きく世代を隔てるような気がした。“今時の子供”はみんなこうなんだろうか。俺もおかしいのか下の名前も知らないままだ。

初めて待ち合わせの時間に佐久間が遅れてやってきた日。
不動は過剰な貧乏揺すりと多数の吸殻をもって迎え、すみませんと佐久間が寄って来ると同時に立ち上がってその場を去った。振り返ってどんな顔をしているの見てやりたかったがひき止める声もない事が不動をいやに苛立たせた。
その日も連絡は無かった。
切れるなら切りたい関係らしい。丁度何かと世話をやきたがる女が1人居て、こいつと付き合ってやるかという気が起こる。何が丁度なのかというと、つまり当て付けのようなものだ。
長く連絡をとらなくても金を返せと言ってくる事もない。かといって電話がつながらなくなる事もなく、メールがエラーで戻る事もない。
まったく謎だ。

“丁度の女”と付き合いだしてひと月が経とうという時に、電車の中で佐久間を見かけた。同じ車両に乗っていながら向こうは全く気が付かない。姿勢の良い立ち姿を恋人の目を盗みながら観察していて気付いた。
体を触られている。
スカートに突っ込まれそうな下劣な手が太ももを撫で回しているのが見えた。真後ろに居る男だろう。
佐久間は動じて居なかった。そういえば出会った時、あの時もああして痴漢に遭っていた。あの時どんな顔をしていたのだろう。
今はとても冷静に見えた。
「あ、充電切れそう最悪」
「………」
音楽プレイヤーに夢中の女に気を遣う気が無くなって、不動は佐久間の観察を続けた。
そのうち彼女はようやく首を少し捻らせ、痴漢に何かを囁いた。痴漢の手は名残惜しそうに太ももから離れ不動は佐久間と目が合った。
人間味の無い娘があわや小さな驚きを浮かべ、何事も無かったように顔を背けた。
隣の女が急にでかい声でわめく。
「あきおく〜ん!おなかへったねぇ〜!」
きゃはははは!
充電が無くなったらしい音楽プレイヤーのイヤホンのコードが派手な鞄からだらしなくはみ出ている。
不動は1人で電車を降りた。
滑稽だ。



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