※ 高校生ヒロトと玲名(別校)



この施設の創設者が投獄されて3年経つ。ヒロトが毎月面会に出向き、毎回手紙を受け取ってくる。獄中はよっぽど暇なのか1人に一通。ヒロトはそれを毎月必ず第2土曜日に施設に届ける。


case 04:パズル



「…もうもらった」
ヒロトが広間のテーブルに“父さん”からの手紙を置くと皆自分宛の物を探し出す。玲名はいち早く見つけ出すと広間の柱に寄りかかって早速封を切ろうとしていた。
「ううん。これはおれから」
「…お前から?誰に」
「やだな、君にだよ」
「は…?」
「はい、どうぞ」
「………」
目の前に差し出された封筒と差し出している相手の顔を交互に眺めて玲名はゆっくり呟いた。
「……不気味だ」
「あはは」
向こうはいたって軽い態度。そういえば来月玲名は誕生日を控えている。第2土曜日は過ぎるから、ははぁ、これはバースデーカードか。
「もらっとく」
手から封筒を取ると広間を出ようと廊下に向かう。
「珍しく素直」
「一言多い」
去り際背後でまた軽く笑う声が聞こえた。

翌日、再びヒロトがやって来た。
玲名が学校から帰ると昨日ヒロトがはいていたスニーカーが施設の玄関に鎮座していた。何か忘れ物でもしたのだろうかと思ったが、食堂前の廊下でヒロトと鉢合わせになるとヒロトはぱっと顔を明るくして言う。
「よかった!会えた」
「、なんだ」
「これ渡したくて。ごめんちょっともう行かなくちゃ」
ヒロトは昨日渡してきた封筒と同じ物を玲名の制服の胸ポケットに滑り込ませると走り去る。そのとっさの出来事よりもすれ違うようにして去ったヒロトの背が自分よりずっと高いことに驚いた。
走り去る背中が外に消えるとそのまま食堂にふらふらと入る。食堂では同い年の晴矢と風介が携帯型ゲームに興じていた。先ほどまではヒロトと話していたのだろう。
あいつ背が急に伸びたと言うと2人はきょとんとしてから顔を見合せる。続いていつの間にか越されたと言うと、えらく不思議そうな顔をされた。
「今更何言ってんだ?」
「な、今更?」
「…去年…くらいからだと思う、けど…」
晴矢のお前頭おかしいのか?とでもいうようなニュアンスには腹が立つがいつもの事だ。
…去年…
「風、今ヒロトの身長いくつだかわかるか」
「うぅん……」
晴矢と風介はヒロトと同じ学校に通っているし、月に一回会うか会わないかの自分よりかはきっと彼に詳しいだろう。
「…晴矢より大きい」
「晴矢は私より小さいだろう」
「小さかねぇよ!お前どうなってんの?目ぇ大丈夫?頭?頭大丈夫?」
…なんてガラの悪さだ…。血の繋がりは無いが家族に等しい。遠慮が無いのはいいのだがこれはあまりに馬鹿っぽい。絶句していると風介が呟く。
「晴矢…今のは…優しくないよ。謝った方がいいと思う」
「え、…あや…冗談だし、なぁ?」
「ああ、別にいい。
それより晴矢、身長は」
「あ、えと、175、かな」
晴矢は風介に弱い。飄々としている風介の顔色など伺いにくいといったらないが晴矢はちらちら気にしている。
「…そうか…」
ヒロトが175cmの晴矢よりも背が高いとなれば玲名とは10cm近い差があるということだ。意識していなかった。いつからだろう…

部屋に戻ると昨日ヒロトがくれた封筒を開けてみた。実は誕生日まで開けずにおくつもりだったが連日くれるなんておかしい。何か意味があるのかもしれない。
封筒には予想していたようなバースデーカードは入っていなかった。
玲名へ
これから毎日届けるよ
ヒロト

そう書かれたメモとパズルのピースらしきものがころんと出てくる。絵柄が無い真っ白なもので、メモを裏返しても封筒の内側まで見てもそれについての説明は無い。では“毎日届ける”というのは、このパズルピースのことだろうか。
今日貰った封筒を開けるとやはりこちらにも入っていた。同じく白く、昨日の物とは繋がらない箇所の物だ。全て受け取ってから組み立てろというのだろうか…


封筒は、本当に毎日届けられた。

ヒロトが直接来るとばかり思っていたが多くは風介を経由した。またヒロトが来たらしい日はことごとくすれ違いになりパズルの真意を聞き出せない。
届けられるピースは全て白い。一体何を考えているのだろう。
言い渋るなら問い詰めるようなつもりは無いが意味がわからない。せめてこれをどうすればいいのか教えて欲しい。揃えて保管しておけばいいのか封筒に入れたままがいいのか少しずつ組み立てておけばいいのか。

そのまま翌月に入り、一度だけヒロトに会えたのだが2通目の時と同様に何やら急いで行ってしまった。聞いたところによるとアルバイトで忙しくしているとか。

「玲名おめでとう」
「…あ…ありがとう…」
「これは父さんから。こっちは私からね」
誕生日の当日。
目覚め一番に会ったのは、創設者の娘の瞳子だった。
父の会社の引き継ぎと運営に加え施設の方にも気配りを忘れない彼女は毎年必ず全ての子供に誕生日プレゼントを用意してくれる。
「わぁ…きれい」
「つけてごらん。きっと似合うわよ」
“父さん”からのプレゼントは腕時計。瞳子からのプレゼントはシンプルなデザインのネックレスだった。
「どう…」
「あら、可愛い。やっぱり似合うと思った」
「か、可愛いって…」
言われ慣れなくて照れていると、瞳子に頭を撫でられる。
「可愛いわよ、玲名」
晴矢をはじめ多くの男子はくれないが、女子からは嬉しい贈り物ばかり。しかし受けとる都度に必ずといっていい程首につけたネックレスについてヒロトからかと訊ねられて煩わしい。
「ねぇ、そのネックレスってさ、もしやヒロトに…」
「違う!これは姉さんからであいつからは何も貰ってな」
「あげるとも」
「!…驚かすな!」
非難の声を上げると同時に体がぐんと前に倒れかけ、ヒロトに手を捕まれて引かれているとわかった時には玲名の自室の前に居た。振り返ると広間から皆顔を出して口笛を吹いたり冷やかしの言葉を投げたりしている。
お構い無しの手に引かれるまま部屋に入ると机の上に中央のピースひとつだけ空いた白いパズルが置かれているのが見つかってしまい、恥ずかしい。しかしヒロトは嬉しそうだ。
「ちゃんと組み立ててくれてたんだ」
言いながらポケットからパズルピースを取り出して玲名の手のひらに丁寧に置く。
「じゃあはい、最後の1コ」
「…これも白いのか」
「まぁまぁ。完成するよ」
最後のピースがぴったりはまり、ようやくパズルが完成したが相変わらずただ白いパズルに意味がわからない。
「じゃあこれ専用のケースに入れよう」
「あ、うん…」
ヒロトはパズルを台紙額に移すと透明なケースに丁寧に入れた。
「はい、どうぞ」
「……ありがとう?」
「見てみて」
表に返すと真っ白だったはずのパズルに可愛らしいイラストと文字が浮かんでいる。仕掛けパズルだったのだ。
「すごい…」
「可愛いでしょ」
「可愛い……あれっ?、…えっ」

Happy Birthday レイナ

I LOVE YOU !!

「なっ…」
「これ、受け取って玲名」
きてれつなバースデーカードと驚愕のメッセージに目を疑っていると、目の前に小さな箱が差し出された。顔を上げるといつもすまし顔のヒロトにあるまじき凄まじい赤面。震えて見える指にて箱が開けられると中には指輪が輝いていた。
「…なに……」
「一応この指輪、給料3ヶ月分だよ」
「えっ」
「背を越したら言おうってずっと決めてたんだ。
おれ、ずっと…君のことが」





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -