※ 源佐♀幼馴染み/だれおま状態
※ 年齢操作(大学生と高校生)、捏造氏名・一人称変化他注意


case 01:ふせん


「カノジョ居るの」
このタイミングで時計が鳴る。
広間にかけられている古い時計はぜんまい式で、子供の頃、朝に一回夕に一回就寝前に一回と、この家の人がぜんまいを回すのを見るのがとても好きだった。
思い出も馴染みもある時計だが、この音だけは好きになれない。
「ねぇ、いるの」
「なんでそんなこと。今どうでもいいだろ」
「気になっただけだけど」
時計の音が鳴っている間は会話も大声でしなくてはいけない。広間は家の真ん中に位置し、建物内なら何処にいたとしても時計の音は聞こえてくる。
「教えてよ」
「さぁ、どうだろうな」
「あぁ…居るんだ」
「どうでもいいだろ」
「………」
膨れっ面をしているのがわかる。普通この年頃の男女が2人で部屋に居るならば、まず恋人と思われるだろう。しかし正解は一緒の部屋でくつろいでいるだけのただの仲の良い幼馴染みだった。
期末試験が迫っているはずの次子は身の入らない試験勉強をやる気無くたらたらと続けている。優秀故に面倒そうだ。
「……どんな人」
「なにが?」
「カノジョ」
「集中しろよ。落とすぞ」
源田は読書に入り込んでいて次子の話は聞いていない。という態度を貫いては居るが、実際は突然の話題に内心大層乱れていた。
実は今彼女と別れそうだ。
「答えてくれるまで訊くからね。どんな人?可愛い?」
「うるさい」
「きれい?ねぇ、」
「……」
「学校の人?優しい?」
「……」
「好き?」
「……」
次子はこちらが答えなくても矢のように質問を浴びさせた。
本当にどうでもいいような、どんな髪型をしてるとか、動物が好きかどうかとか、何がそんなに知りたいのか。源田には煩わしいだけだった。
「ねえ!」
「うるさいってば。何なんだよ、しつこいなぁ」
「答えてくれるまで訊くって、言った!」
「なに?お前…なんか怒ってない…?」
髪を撫でようとしたら手を払われた。やっぱり怒っているように見える。なぜか。
「なに怒ってるんだよ」
「答えないから」
「答える事なんか無い」
「じゃあやっぱり彼女いるんだ」
本を閉じて床に置いた。ため息をつくと次子はぷいと横を向く。教科書やら問題集やらが広げられたテーブルの方に向くと、頬杖を付いて無言で見る。
なにを拗ねてるんだ、お前。
「関係ないだろ」
「あるもん」
「ない」
「ある」
「なんだよ」
「関係ない」
「はぁ?何言ってんだ?」
頭は良いがあまり口が達者では無いこいつは口論で誰にも勝った事が無い。そもそも口論自体そう引き起こす事も無いが、少なくとも俺は負けた事が無い。
「おにいちゃんの彼女が私に関係あるって事は、おにいちゃんには関係ない!」
「意味がわからん」
「もういい」
「説明しろよ」
「関係ないもん」
眉間のしわがどんどん深くなっていく。怒っているのか拗ねているのか。なんだか複雑な顔をしてるな。
「…そういうわけのわからん事を言う子には」
「!やだ、」
「おしおきだな!」
すぐに逃げようとする足首を掴むと次子はベッドの上に倒れてしまう。素早く距離をつめて腰を抱えると脇腹をめちゃめちゃにくすぐってやる。次子はひどいくすぐったがりで、この“おしおき”は幼い頃からお馴染みの遊戯のひとつだった。

この時までは。

「、やッ!」
「えっ?」
ばたばたと抵抗を続ける次子が一瞬高く鳴いた。思わず手を緩めた隙に腕から逃げてベッドの端まで逃げてしまう。源田は何事が起きたかわからずに、黙って次子の様子を見ていた。
息が上がり、目には涙がたまっている。頬は赤く、制服が派手に乱れていた。
「、ボタンが飛んだ…」
「…あ…悪い…」
はだけたシャツの胸元を握って、落ち着かない呼吸を繰り返す。制服のスカートから細く形の良い脚が伸び、しなやかに曲がって柔らかい布団に沈んでいる。
戯れにくすぐっていい存在ではなくなっていたのだ。
この時初めて次子に異性を感じ、以来悩んだ。
いかに年頃と言えども年下の子供に、それ以前に妹のような存在に対してそんな意識は異常ではないか。
しかし気付けば次子は美しい。
抗いがたい魅力に溢れていて、ただ無邪気だった態度も失せた。
人間は出来るだけ遠く相性の良い遺伝子と結ばれるため、そういう相手の事を匂いで感知できるようになっているらしい。つまり良くない相手のにおいには好感は持てないシステムなのだ。
胴を抱えて触れたあの匂いを思うと目眩がする。酔いそうなくらい良い香りがした。
あれから1週間経って、次子の部屋に忘れていった本を次子が家に持ってきてくれた。意識が変わったせいなのか、なまめかしいくらいに見える姿に戸惑いを覚える。彼女とは別れた。

『好き?』

微妙。
次子のあの大量の質問が決め手になった。ひとつひとつに答えていけば、一体彼女のどこに魅力を感じていたのかよくわからなくなったからだ。
反面、次子は魅力だらけだと気付いた。
何もかもが自分の深い部分の琴線に触れる。でもだからってどうするっていうんだろう。小さい頃の次子とか次子の親とかじいさんとか、広間の時計とか4匹の犬とか。これが背徳感てやつか。過去を思うとよこしまな感情を持っているような気分になり、悩みはますます深くなる。

持ってきてくれた本は実は無いと困る物だ。授業では1週間不便をしていた。マーカーを引いて居て気付いたが、青一色だけの付箋の中にひとつだけピンクの物があった。
不思議に思って開いてみると、そのページには書き込みもマーカーも無い。間違って貼ったか誰かのいたずらだ。はがそう。

“好き

ピンク色の付箋に指をかけた瞬間目に飛び込んできた小さな告白とハートのマーク。ごちゃごちゃの葛藤がぶっ飛んだ。
だめだ。かわいい。たまらない。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -