※豪炎寺と佐久間
※風丸さん(♀)・捏造氏名・一人称変化他注意
※時間軸とか超次元




4年ごとに開催されるプロチームの世界大会が始まって、部にはちょっとしたお祭り気分が充満している。

連日深夜のテレビ観戦で寝不足だったりあの選手のあのプレーがどうだと熱心に説いたりと、つまり浮わついているというか、まぁ、お祭り気分だ。
しかも我が国の代表チームはなかなかの進撃を見せており好成績が期待される。余計にこの空気に拍車をかけていた。

部活が終わって部室での事。
「風丸、今日暇?今日っつうか明日まで暇?」
スポーツ雑誌を広げていた風丸は円堂の質問に生返事である。
「なぁ、暇?暇じゃない?どっち?」
「うん…」
円堂はいっと顔をしかめて鬼道に向いた。鬼道はやれやれというようにため息をつくと風丸の前に立つ。
「風丸」
「うん…」
「今夜の準決勝、豪炎寺の家で観戦しないか。深夜だから泊まりになるが、一緒に観た方がお互い勉強になるだろうと「女子1人じゃあなあ…」

ぼそりと呟かれた台詞にはっとする。

失念しがちだが男子部に所属していても彼女はれっきとした女の子である。
「別にいいんだけど、円堂とは昔一緒に風呂に入った仲だし」
部内一男らしくても女子であることはまぎれもない事実だ。
「あ、す、まん。すまん。えーと…」
社交の作法を心得ているはずの鬼道は無粋な誘いをしたとあらぬショックを受けていたが風丸は気にとめてもいない。
「いや、こっちもそっちも気にしないのはわかってるよ。でも豪炎寺の家の人はどう思うかな、と思って。」
「それは、そうかもな…」
「みんなで観るのは賛成。でも、一応そういうとこに気を配った方がいいだろう。一応な。」

開いていた雑誌を閉じて座るベンチの隅に投げる。思い切り伸びをするとふと何か思い付いたような顔になった。丁度豪炎寺が部室に入ってくる。

「そうだ。佐久間を呼ぶよ。それでいいだろ」

「なんの話だ?」
それはいいな、と話がまとまりつつある3人の話に渦中の人物であるはずの豪炎寺が着いていけない。訝しげに尋ねると3人が同時に口を開いて話がこじれた。


一時間後、駅前で佐久間と落ち合う。
要領を得ない説明を遮り、もういいわかったと宣言したがわかってなどいなかった。
落ち着いて相手に伝わるようきちんと順序よく分かりやすく話す。
円堂はともかく普段それが常である鬼道と風丸がこのような幼稚な態度をとるのは部の仲間、ことにこの4人で居る時くらいの事だ。憎たらしいと思いつつ、信頼を感じるその振る舞いが豪炎寺は好きだった。

佐久間はなんだか俯きがちで、挨拶もそこそこに忙しく辺りを見回している。
「あ…、か、風丸、は」
こんな子供っぽい面があるとは意外だ。
「風丸は着替えとか、なんか、まあ、準備があるんだってよ」
「今、来る?」
「すぐだよ近いから。久しぶりだなぁ佐久間」
「うん。みんな、元気そうだな」

円堂と鬼道にとって豪炎寺宅への宿泊はもはや慣行であり、常に少々の私物と保護者の快諾がある。
衣類の貸し借りもするし大体男同士なのだから雑でいいのだ。

佐久間は風丸にどう聞いていたのだろう。やけに落ち着かない様子である。
本当に久しぶりだ。以前よりぐんと女らしくなった。

豪炎寺は落ち着かない佐久間をじっと見た。向こうがこちらを見ないからと随分無遠慮に見た。
いつも堂々とでも控え目な彼女の足は、意外にも可愛らしい形をしていて爪先が内を向いている。そこまで見て頭を上げると、丁度相手も目を上げた。
ぶつかって、つながる。
捕まえられると思ったのに、佐久間はするりと目を逃した。


風丸は私服に着替え、一泊分の小さな荷物を持って現れる。合流と共に出発。佐久間はぱっと彼女に駆け寄り、移動の間中腕を組んで歩いてる。
「人見知りするんだ」
豪炎寺が後ろを歩く2人を気にしていると鬼道が苦笑するように囁いた。
「初対面じゃない」
「馴染みって訳でもない」
何度も顔を合わせているのに人見知りされたのは心外に思えた。きっぱりと言い返したが同じようにきっぱり返されて反撃のしようも無い。

腑に落ちないような気分のまま、コンビニに寄って帰途につく。
かごにスナック菓子や飲料水を粗雑に突っ込む男子と違い、2、3個の何か小さいものを手に抱えてレジに出す姿を見たら風丸もよくよく女子であると思えた。
一方で慎ましやかなチョコレートをかごに滑り込ませる佐久間にもまた、女子らしさを感じる。

なんとも言えない複雑な発見であった。


「え、あの、食事は」
「え?ごちそうになるつもりだけど」
「おい聞いてないぞ円堂。何処かで食べるかと思ってた」
マンションの前まで来て女子がどよめく。行き届いていない無計画さもいつものことだ。
豪炎寺宅の玄関に入ると家政婦がいそいそとやって来てどうぞ、どうぞと一行を促し再び奥へ消えて行く。同時に豪炎寺の妹が走って出迎えに来てくれた。

「お兄ちゃん、おかえり!遅かったねえ」

身軽に兄に飛び付くと、嬉しそうににっこりと笑う。
「こんばんは、夕香ちゃん」
豪炎寺のすぐ後ろに立っていた風丸は抱き抱えられた夕香と間近で目が合った。
「壱重ちゃん!」
「やっほう夕香チャン」
「あっ、まもるくんと、ゆうとくんも!」
「こんばんは、夕香ちゃん」
夕香は3人に人懐っこい笑顔を返し、兄の腕からすとんと降りると今度は真っ直ぐ佐久間に向いた。

「はじめまして。夕香です」

可愛らしくぺこりとお辞儀すると兄とよく似た黒い瞳を素早く動かし上から下までじいっと眺める。
「あ、はじめまして…」
「ていこくがくえんの制服じゃない?すごーい!」
「あ、うん」
「ねえおなまえは?」
「あ、さ、佐久間…」
「ふうんさくらちゃんていうの。ねえお兄ちゃん、カノジョォ?」
さっさと靴を脱いで居間に向かっていた豪炎寺は奥から「ちがう」と短く否定する。「本当は彼女なんでしょ」と無邪気に笑いながら兄を追いかける夕香と、勝手知ったる様子で上がっていく円堂と鬼道。

玄関には幼女の迫力に圧され気味の佐久間とそのおかしなツーショットをにやにやと眺めていた風丸だけだった。
「元気な子だな…」
「あれ最初言われたよ。カノジョォ?って。可愛いよな」
「ふふ、可愛い。あんな妹欲しかった」

早く来いよと促されて玄関に上がると
すっと屈んで靴を揃える。そんな佐久間の当たり前のような所作に育ちのよさがうかがえた。

「お前、やっぱりお嬢様なんだなあ」
感心したように言う風丸がおかしくて佐久間は笑う。
「風丸って、可愛いよな」
「はぁ?よせよ。何言ってんだお前」
「なんで?カワイイ」
「変な奴」

豪炎寺は2人がクスクス笑い合うのを居間の戸口から眺めていた。
「上がれよ」
落ち着いた声に2人は同時に顔を上げる。
「あ、うん。今行く」
「お邪魔します」
「ああ」
すでに寛いでいる円堂の、のんきな声が廊下まで響いてくる。









***

フクて書くのもフクさんて書くのも変な感じ。
突然の豪炎寺と佐久間ブームに某も戸惑っておるでござるう。さらに続き物爆笑
もはや×佐久間病

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