※幼馴染み源佐久
※生徒会役員設定




付属図書館の蔵書整理中、人伝に知り合った下学年の女子と久々に顔を合わせた。
初対面からずっと短髪であったため伸びた髪が印象を変えていてすぐに彼女だと気付かなかった。

女の子はすごいと思う。

しばらく談笑して、
「髪型を変えたんだね。気付かなかった」と、
本当に何の気なしに話題にしたら

彼女は連れの女の子と顔を見合せクスリと笑うと、

「センパイ、それ」







セクハラ
【sexual harassment】









生徒会室に戻ると辺見と佐久間がパソコンを覗き込み終始声を上げて笑っている。
この2人はいつもこうだ。
男女ながらうまがあうらしく中等部から性別の垣根を越え固い友情で結ばれている。

「お、お疲れ源田」
「案外早く終わったな。お疲れ」
こちらに気付くと笑いすぎてのものだろう。涙を指で拭いながら労いの言葉をかけられる。

「佐久間…」

それに対する返事の前に俺には言うべきことがあった。

「あぐらをかくな。まず足を広げて座るんじゃい。辺見も注意したらどうなんだ。お前は見過ごすからいけない」
どんどんガサツになるだろう…とため息をついて荷物を下ろす。

佐久間は折角楽しく過ごしていた気分を害されただろうに、
一瞬固まったが笑みが張り付いていた頬をきゅっと緊張させると
素直にパイプ椅子の上で組んでいたあぐらを崩していそいそと足をそろえた。

スカートなのに、信じられない…

呆れるが、なかば諦めてもいる。


彼女とは幼少からの付き合いだがおよそ女性らしさというものが無い。
おしとやか、慎ましやか、そういったものが普段、まるっきり欠如している。

あぐらなんていつものことで男子に混ざって取っ組み合ったり泥にまみれて遊んだり、
挙げ句は男子サッカー部に入部。選手としてチームの糧となってきた。
無論公式の試合には出場できないが彼女の才気と強さと努力の姿勢がどれだけチームの力を引き上げたか知れない。

そんな佐久間への部員の支持は厚かった。

しかしおくびにも出さぬというのがまさしくそれで、
ちへどを吐くような鍛練の日々を物ともしなかった彼女に俺も完全にまいっている。


幼馴染みと言えば強烈に羨まれるのが常であったが、
ませているどころかそういったものの目覚めが周囲より遅かったぼんやりした俺が
ようやく彼女の魅力に気付いた時には恋敵など学校単位で何割と数える方が効率的なほどであり
さらにこの恋が深く強くもう随分と昔からのことであるということにしみじみ気付いたと、
こういう有り様であった。

情けないのである…



彼女の家とは互いに何世紀も前からの付き合いがある旧家で、古くは婚姻の関係もあったし、
言ってみれば親戚のようなものである。

恋愛感情が芽生えようもないくらい一緒にいて、
いまだ飽くことなく恋し恋し目眩もするほどに惚れ込んでいる自分が謎だ。

かわいくて、可憐な佐久間。

彼女がたとえあぐらをかいて座っていても、
大口を開けて欠伸をしても、
言葉は粗雑で男勝りで、
泥だらけでボールを追いかけ派手に転んで怪我を創ろうとも、

それでも彼女は上品で、
輝くように見えるのはきっと
惚れた欲目だけではないのだろう。





「佐久間」
「ハイッ」
一種世話係のような自分の立場を俺も彼女もわかっている。
彼女の御両親からは実子の佐久間と同じように可愛がられて来たのだ。
俺は彼女の友であり兄であり、活発で危なっかしい彼女のお目付け役である。

いい加減お互いに懲り懲りなのだが言わない限り悪化する女子らしからぬ態度を改めさせなくてはいけない。
「ん、お前、髪…」
ふと彼女の髪の分け目がいつもと違うことに気付いたが先程のことが言葉を詰まらせた。

セクハラ…?


ここに戻るまで悶々と考えていたがあれがセクハラなら俺は…

「…げんだ?」
説教に身構えていた佐久間は急に黙りこくってしまった源田の様子を怪訝そうに伺いながら、のんきに椅子を揺らす辺見とを交互に見ている。
「なんだよ黙るなよ…」

辺見は顔だけ向けていたがちょっと肩をすくめて見せると再びパソコンに向いた。


…髪型がかわった
それを言うのがセクハラなら、一体どこから線引きすればいいものか。
相当なものが制限されるし下手をすれば裁かれる。

それならまるっきり女気が無いとはいえ佐久間に対しての接し方は完全にセクハラに該当する。

あれも、これも、それも…

焦り危惧する気持ちは法へのものでは無く彼女の反応である。

恋心はあれどいやらしい気持ちで彼女に触れたことは一度もない。
愛しい友、愛する家族、慈しむべき兄妹への思いそれ以外には無いと断じて言える。
もちろん故意に尻や胸に触れたことは無い。
練習での激しい当たりやいわゆる事故や、
幼い日々犬猫のようにじゃれて遊んだことまでを考えることはないだろう。


「佐久間…」
「あい」
色気の無い返事だ…
「髪型が変わったな…」
なんだか煩わしくなって面倒そうな呆れ返ったような言い方になってしまったが

「あ、わかる?!
さっきさぁ成神がさぁ」

拍子抜けする返事だった。

佐久間…
何がセクハラだ…馬鹿馬鹿しい…

やはり、杞憂だ。
この子がそんなことを気にする訳もない。
それにしてもおかしな世の中になってきたな…などと年寄り染みた思考を巡らせながら話を聞いていると
からから笑う何の気もおけない彼女が急激に愛おしく思えてきた。

「それでさぁ色々結んだり編んだりなんだりして人の髪で遊ぶから身動き取れないし」
「うん」
「終わったらお前のこと迎えに行こうと思ってたけどもう終わる頃だと思って待ってたんだ」
「うん」
「だからかえろ」


さっそく帰り支度をしていたら櫛やらピンやらを持った成神がうきうきといった様子で現れる。

「あれっ?帰っちゃうんですか?まだ試したい髪型あったのに」
「また明日」
「ええー色々持ってきたのになぁ…」
「源田を待ってたんだよ。だからまた明日。ね」

優しく言われてしぶしぶ承諾し、絶対ですよぅと口を尖らせた成神が、
屈んで鞄を持ち上げた佐久間を見ていた刹那
目を見開きすっとんきょうな声で言った。

「先輩、絶対胸大きくなりましたよ」

これはセクハラだ。
確実に。
さすがに焦って佐久間を見ると、

「え、嘘。まじか、邪魔だな」



俺は思わず眉を寄せて、
くらりと回った目を閉じた。









2011.02.18.



***

佐久間♀は色気無し。
でも体つきがエロカワすぎて罪っていう…タノシイワーイ
辺見と佐久間超親友マジ馬鹿友。佐久間は辺見がツボ。超ウケル辺見超ウケル

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