下着姿の女子が3人、脱衣場に突っ立ったままきゃいきゃい言い合ったりなんだりと。
小鳥遊の言うことは最もだった。

「…イジメ?」
「まぁ違うとは言えないかなぁ」
「しのぶ!照美退かして」
「やァよアタシそいつ嫌いなの。折角時間ずらしてきたのにまだ居るなんてどういうことよ…」
大きな舌打ちをするとさっさと荷物をロッカーに放り練習着を脱ぎ出した。
「モタモタしてると男子が入って来るわよ。アンタたち浴場使うんでしょ」
「えっ?うわっ!あと25分しかないじゃん!」
「風丸責任とって見張りしててよ。君がダッサイ下着着てるからこんなことに」
「さっさと入りなさいようっさいわね」
無駄な騒ぎで浪費した時間が今になってもったいない。照れの無い小鳥遊と照美の脱ぎっぷりに風丸はぎょっとしながらも尊敬する。


「殺風景な浴場だなぁ…」

浴場の扉を開けた照美の第一声である。
「普通だろ」
その横を風丸が通り過ぎる。風呂の内装など全くどうでもよかった。今は急いで入らなければ。
「この全体的に灰色な感じ…全然癒されないよ…」
「帝国はどこもこんな感じだぞ?だいたいグレーか黒かって感じ」
「あーあ折角のお風呂なのに…
浴場はこんなんで、時間も無いなんて…ハア…」
嘆く照美に誰も調子を合わせないので、少し不機嫌そうである。
「あれ、小鳥遊は来ないのかな」
「ああ…彼女はいつもシャワーだから」
「仲良いのか?」
「クラスは違うけど、部活には2人しか女子居ないし…」
「そうなんだ。でも2人だけでも他に女子がいて良いよな」
「うん。頼りにしてる」
(…よかった。
学校には女子の友達居ないのかと思ってた。)
やはり妹のように思ってしまう佐久間の事だから、風丸は内心小鳥遊に佐久間をよろしく頼むぞ、という
保護者染みた思いがわいたが、当然小鳥遊は知らないでいる。


喋りながらも2人の速度は中々のものだった。
中学の時から、遡れば小学生の時から合宿といえば早風呂が基本。慣れたものだ。早い早い。
「ちょっと、君たちちゃんと洗ったの?」
「ああ。あと湯船につかって上がるけど」
「嘘でしょ!早すぎないかい?」
「照美まだなのか?急げよ」
「えー!嘘ー!」

まず洗髪も全て済ませてから最後に湯船に入ろうという流れでいた2人に対し、照美は何故かとりあえず、時間も無いのにかなり長々湯船に浸かっていた。
急に置いていかないでよなどと可愛らしいことを言い出すが、
「さすがマイペースだな」
「間に合うといいな」
豪炎寺の言う通り、翻弄されつつ“照美のあしらい方”がわかっている2人の反応は、
無視だった。

結局途中からマネージャー達が入ってきたので照美は慌てる必要が無くなり事なきを得たが、
佐久間と風丸はさっさと上がると浴場から出てすぐの談話スペースでくつろいでいた。

「あ、たかな」
「オヤスミ」
「おやすみ忍」
「ええオヤスミ」
小鳥遊が出てきたので風丸は声を掛けようとしたのだが、こちらを見もせずにいってしまう。
「…私、嫌われてる?」
「ナイナイ。忍は誰にでもあんな感じだから」
「……変わった子だな」
「ちょっとね」

「お、今上がったのか?2人とも顔赤いな」

無愛想な小鳥遊の後にとびきり愛想のいい源田。
(帝国ってアンバランス…)
「風丸髪ほどいてると一瞬誰だかわかんないな」
「アハハ、それ合宿でよく言われるよ」
「源田は風呂入ったのか?」
「もうとっくに。
入り口のところの自販機、ポカリ売り切れててさ。こっちまで来たんだ」
「あ、いいなポカリ。ひとくち下さい」
「いいよ。待ってな」

…佐久間と源田って、
幼馴染みなんだっけ。
(…兄妹みたい)

源田は佐久間の頭を撫でてポケットから小銭を取り出す。でかい手だ。
ふと円堂の手を思い出す。
彼の手も大きい。骨っぽくてごつごつしてて、まめと擦り傷。たまに爪が割れたりはがれたりしてる。

…そういえば。

そういえばで思い出すような事じゃないんだけど。
円堂と私も、幼馴染みだ。
関係は似てるんだ。源田と佐久間は付き合ってないけど。

…じゃあ…こんな風に…

はたから見たら兄妹みたいに見えてたり…


「風丸もひとくち飲む?」
「おい、人のだと思って」
「え、ちょ、いいよそんな!」
佐久間、やっぱり雑!
間接キスとか意識しないの?それに一応彼氏いる相手に勧めるって…

2人を見ていて浮かんだ不安が2人によって壊された。
佐久間はそう?と軽い反応で、源田にペットボトルを返す。汗をかいたプラスチックが涼し気で、飲みたいといえば飲みたいけど。
財布を持ってくれば良かったな。
冷たく冷えているであろう飲料水をこれから飲む源田が少しうらやましい。談話スペースは空調が効いていたが汗はなかなか引かなかった。
「……!」
ふと、源田がこちらを見た。物欲しそうにしていた自覚があったので風丸は恥じて目を反らす。
しかし気付いた。

(今、源田……)

佐久間が何かをみつけて廊下の向こうを指差したが、風丸は反応しなかった。
(飲むのためらってた…)
源田を再び盗み見る。
まだこちらを見ていて驚いたが、気まずそうに、照れている。バレたと、わかったのだろう。誤魔化す気は無いようだ。
目が、どうか黙っていてくれと言っている。
風丸は小さく頷いて見せた。それを見て源田はすまなそうに笑って、ようやく飲み口に口を当てた。

「だーれだ!」
「円堂」
「でェっ?!なんでわかったんだ?!スゲエ風丸!」
気配で目をおおうこともわかっていた。佐久間が廊下の向こうに見つけたのは、円堂、鬼道、綱海。
後から豪炎寺も来たが、携帯電話で通話の最中。門を曲がったところで立ち止まったまま此方には来ない。
円堂は構わずベンチに腰掛け話し出す。
「明日チーム戦するじゃんか。ちょっと話し合おうって話になってさ」
「おまえたち丁度よかった。付き合えよ」
鬼道がニヤリと笑って手に持っていたボードを見せる。
「しかし…2日目でいきなりだからな。監督もなんというか…斬新というか突飛というか…」
風丸は鬼道の持っている小さなホワイトボードを除き込んだ。ビニールテープでコートが作られていて、その上に丸い磁石が20個。“円”や“豪”と書いてある。選手を模しているのだ。
「まずスターティングメンバーどうするよ」
自動販売機に小銭を入れながら綱海が言う。
「そうだな……まず円堂と源田、どっち先に出る?」
鬼道は設置してあるテーブルにホワイトボードを置くと、椅子に腰掛けて傍に寄るように手で示す。電話を終えて豪炎寺がこちらへきた。各々、風丸は円堂の隣に座り、佐久間が鬼道の隣に座るとその隣に豪炎寺が座る。
(やっぱりな…)
豪炎寺が佐久間を気に入っていることは中学の時から知っていた。しかしあまりにあからさまなので可笑しくなって顔がゆるむ。これでは椅子取りゲームじゃないか。
「ちょっと、すまん」
「ん」
するとなんと源田がその2人の間に割り込んで身を乗り出した。椅子を置くにはもうスペースが無いため自然な動作だが牽制にちがいないだろう。
(ああ…佐久間は気付いてないんだろうなあ…
可哀想豪炎寺…源田…)
当事者のはずの人間が当事者ではない妙な修羅場を気が遠くなる思いで見ていたが、隣の恋人がきつい気付けをぶちかます。

「風丸、なんかいいにおい。
風呂上がり?」



しまった。

今私、ノーブラじゃん。










***

おい何読んでんだ。もうやめろ読むんじゃない。脳に障害をきたすぞ。わかったな。やめるんだ。



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