chapter.01



写真やカメラに興味は無かった。撮られる事は苦手だったし、それが他人の手にある事は心地悪かった。

理由は明白。自分が嫌い。

ガキめと思うのだが、こればかりはもうどうやったって打開できる兆しも無い。
生きていくに不利だと思う。少しくらい自分に価値を感じている方が何事もうまく行く気がするからだ。自分をうまく利用できる。
嫌悪の対象である自分自身の姿が何にせよ残っているという事が、落ち着かない気分にさせる。ざわざわして、気持ちが悪くなる。証明写真なんか最低。
ここまでわかっていてもこういう自分への嫌悪感をなんともできないのだからまして嫌になる。

爪が緑色。

面白い事に自分の手は男の物にも女の物にも見えるようだ。撮り方にもよるが、不思議だ。
中性的ってこういうものか。
男にしては指が細く、柔らかそうに見えるのに、女にしては節が際立ち、筋張って見える。
これが他人には綺麗だと感じるようだった。
自分では全く気付かなかった。
確かに今までも指が長いねとか爪が綺麗だねとか言われる機会が多かった。バーテンのバイトをやっていたから、手が目についてそう言われるのだろうとか考えていたけど金になるとは。
バイト中にスカウトされて、今はパーツモデルのバイトをしている。
ちょっとした広告のカットとか、雑誌に載る程度で割かし稼げるから楽だった。それがテレビコマーシャルにまでかり出されるようになって、男女どちらもできるのが便利なのだろうが、片手だけマニキュアとかつけ爪とか、そういう事もよくあったり。
男なのだから縁の無い体験であったし、時には不快感もあった。そのうちいきなり呼び出されたり、一応学生なのだけど、授業休んで来てくれとか言われる回数が増えて来て、いよいよ辞めようかなと思い始めた頃。
都合良く、専属のスカウトが来たために、今はそちらに転がっている。

それでもまさかこんなでかでかと自分の手が街中に晒される日が来ようとは。

専属パーツモデルとして雇われているが、実は世界的に有名なジュエリーブランドだというのはこちらでの仕事をはじめてから知った。
興味の無い世界だったから、本社が何処にあって何年の歴史があってどっかの女王が結婚式でつけたとかそういう事も全く知らなかった。
マネージメントから営業まで色々な部所を仕切ってるらしい女性スカウトに目をつけられてここに居るわけだけど、このブランドはこんだけすごいのよ、という話を生返事で聞いていたら説教をくらった。
聞けばどうやら伝統のあるご立派なブランド様であった。

自分の指に宝石が似合うとは思わない。

いくら爪を磨かれようが綺麗な色に塗られようが、女の子の手の方が、馴染むし綺麗だ。収まりが良い。
「それじゃだめなの」
「マニキュアって嫌いだよ。爪が縮まるような感じ。窮屈だ」
「ありきたりじゃつまんないの。綺麗な女の子の手じゃ憧れにならない」
「知らねえよ…」
爪を緑色に塗るスタイリストは外人で、美人だ。手も綺麗だ。こういう人がやるべきじゃないのか。高給だから文句も意見も言わないが、どうも不思議で仕方ない。
「ジローさんは綺麗よ」
「変なの」
スタイリストの女の子は、にこっと笑って違和感だらけの手を撫でた。
「できたなら撮るよ。こっちにおいで」
「………」

今でもカメラや写真は嫌いだ。

「こう?」
「もうちょい、下げて」
「…この辺?」
「そいやこないだアンタに連絡取りたいって酔狂な電話あったらしいわよ」
カメラマンの指示の合間にマネージャーが笑いながら言った。
「へぇ」
「あの新宿のパネル見たんだって。アンタの知り合いだってさアハハ」
「何それコワ」
「ファンなんじゃない?」

笑いながら、とぼけながら、なんとなくその電話の主がわかっていた。
過去何度も褒められたこの手を、誰よりも多く讃えた人物だ。

『お前、手ェ綺麗だな』

確か源田。名前何だっけ。


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