※ 雷門高校監督→久遠さん



夏休み直前。学期末試験が終わった解放感に浸る暇はあまりない。
「監督ゥーッ!」
「なんだ円堂…小学生みたいな奴だな…」
「おやつは なんえん まで ですか !」
「好きにしろ…解散」
「わはー!マジか!ヤッター制限無いってよ!風丸豪炎寺駄菓子屋行こうぜ!」

円堂のはしゃぎようはさながら遠足前日の小学生だが、控えているのは強化合宿で始まるのは来週末である。
「よくそれだけはしゃげるな…」
豪炎寺の視線は限りなく冷ややかだったが、呆れと諦めと共に無邪気な友人を見守る優しさが含まれていることを中学からの付き合いである風丸にはわかっていた。
「だって合宿楽しみだもん!」
「宿題もやるんだからな」
「うわっ……」
「当たり前だろ」
「……宿題とか…」
「おい、おばさんにも言われてるんだしっかり見てやってくれって!」
「また始まった」
豪炎寺がため息をつくと部員がどっと笑う。
部内で夫婦漫才とネタにされる2人のやりとりは雷門サッカー部の名物だった。
「帝国も強くなっただろうなぁ〜…楽しみだ!」
「だから、それもいいけど宿題もやらなきゃ」
「あああー!わあー!」
「お前はキャプテンなんだから、そういうところもしっかりしろよ!」
「風丸のいじめっこ!」
「なっ…何言って…
子供みたいなこと言うな!」

時々恋人同士というよりも保護者と子供のようになるのは地味に風丸にこたえていた。
笑い話に出来るのに、やはりこれでは恋人と言えないのではないかとたまに思う。
結局佐久間に励まされたことと、照美が突きつけた問題の狭間で揺れたままだった。



『あ、久しぶり。聞いたと思うけど世宇子も参加するから合宿』
「……照美?だよな」
『なんだと思ったのさ』
「いたずらかと。非通知でかけてくるのが悪いだろ」
『あ、そ。まぁいいよ。
それより聞いたね?参加するから合同合宿。よろしく』
「え…?冗談じゃないのか?」
『じゃあね』
「あっ、えっ、てっ」
切れている。
さすがである…

まさかこれで話が通ると思っているのだろうか。もちろん照美のことなので嘘やからかいも大いにありえる。
合宿を3日後に控えた今日でいきなり予定が変更できるのか。訝しく思いながら監督に確認してみると、
監督は連絡してなかったか、とのんきに言っただけだった。じゃあ皆に伝えておくように。それだけ。

「佐久間知ってたか?!」
『えっ、なに?急にどうしたんだ風丸…』
「世宇子が合宿参加するって!」
『へぇっ?世宇子…?
…知らない…けど…』
「参加するらしいぞ本気で」
『……ちょ、っと…待ってな?』
きどうー、と電話口から離れた呼び声がスピーカーに届く。
高校から帝国に戻った鬼道は、サッカーはやめるとか言ってたくせにちゃっかり続けていて、今でも部内一の実力は健在であるようだ。同じフィールドを走って練習した部活の日々が懐かしい。
『なんだ』
『電話、風丸なんだが、合宿に世宇子が参加するの知ってたかって』
『ああ、そうだ。是非にと話があって急遽な』
『ええー!知ってたなら教えてくれよ!』
『だってお前ら嫌がるだろ』
『お前ら?』
『風丸とふたりして、照美から散々迷惑被ってるらしいって聞いたからな』
『えっ誰から』
『誰からでも聞くが』
鬼道の言葉に思わず吹き出す。
照美は色々な意味で有名なので、真偽の怪しい噂も立つが、人の噂も案外ばかにできないようだ。
『かくいう俺も苦手だ』
『あはは!』
「…ぷっ、…く」
『ん、風丸笑ってる?』
「だって。なんか…照美…
流石だな…みたいな」
『…確かにな』

その後雑談して電話を切る。我ながら自分と照美との付き合い方が不思議に思えた。これも一応、友情といえるのだろうか。
友情…しかし塔子とリカを思えば自分たちの関係はもっと…微妙なものではないのか…
「どしたー」
「ぅわっ!円、え、えんど」
「電話して、切ったらなんだか悩んでる?みたいだったから」
「あ、いや…佐久間にかけたんだけど…世宇子の件で」
「……ふぅん…?」

…ん?なに?
なんかむくれてる…?円堂…

「……なんだよ」
「……鬼道にかけたんじゃ…ないのか」
「は?佐久間だよ。鬼道とも少し話したけど」
「…ホントに?」
「ホントに。履歴見るか?」
「…ん。見せて」
「ほら」
「……、ごめんな疑って」
「いや、別に。気にしてないけどなんで」
「なんでもない!」

子供のように言い放ち走り去った円堂に、あっけにとられて突っ立っていたらいつの間にか豪炎寺が隣にいた。
「ワッ!びっくりした」
「お前は鋭いのか鈍いのかよくわからない奴だな」
「…は?」
「あれは円堂の嫉妬だろ」
「……はぁ?」
「嫉妬」
「……どれが?」
「今の一連が。“誰に電話してたんだ?鬼道って聞こえたんだが”“本当に佐久間か?”“履歴も見せてくれ”」
「…うん」
「嫉妬だ」
「……うん?」
「バカ」

タオルを顔に押し当てると、盛大にため息をついて豪炎寺も去っていった。

…嫉妬?

風丸は先ほどの円堂とのやり取りを思い出す作業に移行したが、豪炎寺には大仕事が残っていた。
今から我らがキャプテンを探し出し、のろけと嫉妬と自己嫌悪に混乱しているだろう話を聞きに行かなければならないのだ。これはなかなかの重労働で、中学の間は鬼道が居たから分担もできたが今は鬼道が居ない。その上今回は、鬼道に対して嫉妬してしまったのだから自己嫌悪の比も結構だろう。
憂鬱な午後だ…


合宿まであと3日。





***

下着関係無いん回!(ギャグだよ)




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