意を決して行ったのに、結局下着は買わなかった。
あれはこれはと着せ替えられて、迷いが生まれてしまったのだ。
「モデルがあかんねん」
「え、」
「何でも似合うんが悪い。はらたつわぁ…」
「それ褒めてるのか?けなしてる?」
「両方や」
店から出た後近況や昔話に花を咲かせ、賑やかなリカ、塔子のコンビと別れる。風丸と佐久間は家路についた。
「………」
「………」
「…落ち込んでる?風丸」
「えっなんで」
沈黙を破った図星に、風丸は大いにうろたえる。そんなにあからさまにしていたつもりはない。それとも自分はわかりやすいのだろうか。
「そんなにびっくりしなくても」
「してな、してないし」
「どもってるし…」
「う、……」
「買えなかったの、残念?
後悔してる?」
「…そういうわけじゃ、…ない、…けど……」

照美の気まぐれで横暴なアドバイスにまんまと乗せられたのは癪だったが、いざ店に行ってみたらどれも捨てがたくて迷う自分に驚いた。ほとんどやけくそのような状態で、挑むような気持ちでいたのに、ひらひらとふりふりと、ひたすら可愛らしい下着を目にして更に一度身に付けてみたら、
鏡に写った自分は見たことのない女の子だった。

「……こんな風になるんだ……って、思った」
「こんなふう?」
「……こんな、自分でも、…普通の女の子みたいな…」
「どれもすっごく可愛かったよ」
「……でも、…」
「…恥ずかしい?」

ややあって、風丸はうんと小さく頷いた。
しかしどちらかといえば照れや恥というよりも、苦悩や葛藤が理由だった。

興味が無いはずだった物に対して突然生まれた憧れに、戸惑っている。しぶしぶのはずだった購買理由が自分の物欲に代わってしまった。
また、おしゃれを楽しんでいる友人たちを見ていたら、自分が少し情けなくなった。いつまで泥にまみれているつもりなのか。
やはり照美に言われた通り、女子としてあまりに意識が低いのだと思い知る。
このままでは本当に、大好きな、大切な恋人に愛想をつかされてしまう。
今まで考えなかったことなのに、その想像がありありとできる。自分はこんなにも、あまりにも…

「塔子もリカも、中学の時からちゃんとしてた」
「うん」
「試合でどろどろのボロボロになっても、きちんとして、綺麗にして、気を遣ってた」
「うん」
「なのに、…自分は…」
「…………」
「………」
「………」

はぁ、と大きくため息をつくと、ばしんと背中を叩かれる。
「いたっ!」
「大丈夫だって」
「…なにが…?」
「円堂は風丸のそのままが好きなんだから」
「うわぁっ…!え、な、なん」
「だからそんなにびっくりしなくても…」
佐久間はけろりとした顔でいるが、風丸は心底動揺していた。
「、いま、口に出てた…?」
「?」
「えんどうのことなんか…しゃべっ、しゃべってな」
「あはは顔まっかカワイイ」
「うるさい!佐久間のばか!」
「えっ…やつあたり…」
「もう!わぁー!ああああ」
恥ずかしさに耐えられず、わぁわぁ喚いて歩いていたら、再びカワイイと言われてしまうが反応する余裕などない。
そんな風丸を見て何故か上機嫌な佐久間。いつも冷静な風丸の、恋に照れる様子が可愛らしくて嬉しかった。
「…恥ずかしい」
「カワイイ」
「やめろって!」
「あは、カワイイ」
「もぉ〜…!」
だめだ分が悪い。佐久間に関してはその手の弱味が無いから反撃もできない。
風丸にしてみれば自分を可愛いと言う佐久間が可愛いのだが、それを言ったところで冗談だと終われて笑われるのはわかっていた。

それはさておきどうしたものか。

下着をきっかけにこんなに悩まされる日が来るとは。
「……はぁ…」
「またためいき」
「だって……」
「円堂なら、愛想つかすなんてしないと思う」
「………」
「優しいし、思いやりもあるし、そんな小さい男じゃないって」
「………」
「だろ?」
「……ん…そうだな…」

恋人との絆は、そうだ。そんなに浅いものではない。
幼い頃から一緒に居て、この先もずっと一緒に居るのが当然だとお互い思っていた。
だから恋人になったのも、当然のことだった。
幼馴染み、同級生、チームメイトと関係はある。しかしお互いにお互いは、それ以前のものだ。自分は相手のもの、という感覚さえある。
「理解されないだろうな」
「そう?すてきじゃないか」
佐久間は幸せそうに笑った。自分の幸せを喜んでくれる友人に密かに心打たれ、話を続ける。
「円堂が前、訊かれたんだ。同級生の誰かに、風丸と幼馴染みなんだって?って。中学の時な」
「うんうん」
「そしたら円堂は、うんそう。おれの。って、答えて」
「うん」
「びっくりされたらしい」
「え?なんで?」
「…そしたらもう、そういう関係だったのかって話になって、噂になって」
「…うん」
「あーそっかー、これは世間じゃ恋人に分類される感じなのかーってなって」
「うん」
「じゃあそうするかってなった」
「………そうか」
「…うん…」
「……それで、なにを心配してるんだお前」
「えっ…」
「離れようもないじゃん」
「え……」
「照美の言ったことなんか気にしないでいいよ。絶対大丈夫」
佐久間はあきれたように言った。
「ぜーったい大丈夫。下着なんか気にする必要全然無い。風丸は自分で思うより女の子らしいし、よくやってると思う。照美とか浦部さんは、なんていうか、極めてるから比較対象にならないよ」
「それはそれで悲しいが…」
「いいの。風丸は円堂のいちばん可愛いだからいいの」
「……!」


苦悩は晴れたが照れが生じた。

今自分は真っ赤だろう。





***

気付いたと思うけど、予想外に真面目になっちゃって羽目はずしそびれたバランスの悪さ。



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