「リカみつけた!」
「あ、塔子や」
更衣室で採寸を受けていると外がにわかに騒がしくなる。
「待ち合わせ場所に居ないから探したんだぞ!」
「え、ああ、あー!忘れとった待ち合わせ!」
「自分で言い出しておいて忘れるなよ!」
「ごめん〜。知り合い見つけてつい追っかけてもうたんよ」
「知り合い?」
「今こん中やで」

服越しとはいえ計られるのは恥ずかしかった。やはりサイズは間違っていて、佐久間はほらなと笑ったが、風丸には疑問が残った。
「でもおかしいって」
「ん、なにが?ちゃんと計ってもらったじゃないか」
「だって、じゃあ、佐久間と同じじゃないか」

「もしかして、風丸と佐久間?」

呼ばれて一時会話が止まる。佐久間が戸を薄く開けるとそこには塔子が立っていた。
「塔子!久しぶりだな」
「やっぱり風丸!佐久間も!」
「財前さん。御無沙汰してます」
「なんだよ相変わらず硬いなぁ佐久間は」
塔子は佐久間の畏まった挨拶に、からから笑って腕をたたく。痛そうな音に風丸とリカは顔を歪めたが佐久間は特に気にした風でも無い。

「しかし2人をこんな可愛い店で見るとはなぁ。意外」

にやにやと眺められ、風丸は赤くなる。
塔子は潔く実にさっぱりとした性格で、話し言葉は男のようたが反面とても女らしい。意識せずとも“女子”を地でいける天性のものを持っている。
それだけに、色気がない可愛げが無いとさんざんやいやい照美に言われてすっかりその気になっている2人には少なからず羨ましい存在でもある。
「あ、これ可愛ない?」
「ああ、いいな。私はピンクがいい」
「えー?青がええわ」
「リカは青が似合うよ」
「あ、せやろ?ウチも思うんよウチには青が一番似合うなぁて」
この騒がしいリカでさえ、常に可愛くあろうという意識には尊敬に値するものがある。
化粧もしなければ爪を磨いたり肌を気遣うこともない風丸と佐久間には、2人は眩しくさえ思えた。


「なんか…可愛いよな、2人」

再び商品を見て回っていたら、佐久間がすっと横に来て言った。
ぽつんと、拗ねたように淋しそうに呟く素振りは実に可愛らしいものだったが、本人には意識も自覚もまるでない。
「うん…可愛いな…」
「女の子って感じ、する」
佐久間はすっかりしょぼくれていて急にそわそわと落ち着かない。
「どうした?」
「……ううん」
「………」
「………」
「あ、これ、割と好きかも」
採寸をしてもらってわかった正しいサイズのものを手にとる。
風丸には佐久間の様子がおかしい理由がわかっていた。
いかにも女の子らしい2人を見ていたら、こんな可愛らしい店に居る自分が場違いに思えてきたのだろう。佐久間にはそういうところがある。いつも自分を低く見すぎるのだ。
「あ…うん。カワイイ。試着してみたら?風丸」
「うーん…どうしよっかな。ちょっと、可愛すぎないか」
「似合うよ」
「そうかなぁ」
「うん。もっと可愛いの着ればいいのに。風丸すごく可愛いよ。もったいない」
これを言ったのが佐久間じゃなくて、さらにおべっかならぶっ飛ばしたいセリフだが、言ったのは紛れもなく佐久間で、間違いなく本音である。
「…ありがと。
そのままそっくり、返すけどな」
試着室を後ろ手に閉めるその隙間に、鏡に写った佐久間の顔は何を言われたのかわからないような、いつもの呆けたとぼけ顔だった。

「お、きつくない」
「今度は大丈夫か?」
「うんぴったり」
やはり正しいサイズを着けるとしっくり来る。太ったのではという心配が拭えなかったがこれでなんとなく安心した。
「見せろよ風丸ぅ」
「下着で出て行けるわけないだろ!」
「あはは!そらそやわ」
塔子とリカのにぎやかな声と扉を挟んで会話する。偶然に偶然の再会が、今更妙に嬉しく思えた。
「あ、せやったら覗いてええ?」
「え?ま、まぁ…」
「わぁ見る見る」
「ちょ、塔子ウチが先やで!」
かちゃり、と軽い音がして、5センチ程の隙間が出来上がる。リカの目がそこから現れぱちりぱちりとまばたきをする。
「お、さすが可愛えなぁ!」
「え、あ、ほ、ほんと…?」
「ウンええわ。似合うてる!」
「リカぁ私にも見せて」
「あ!待ち!風丸あんた!」
「?!」
急に声が鋭くなったのでつい身構えると案の定、予期せぬ事態が展開する。
隙間からリカの腕が伸び、風丸の胸を突いたのだ。

「あかん!でかなってる!」

「え…?は…?」
触られることに抵抗はないが、そんな大きな声で言わなくても。
「え?何?でかなってる?何が?なんの話だリカ」
「風丸チチでかなってんねん!合宿ん時はこないなってへんかった!ウチより小さかってんもん!」
「う、浦部さん、声が…」
騒ぎ出すリカを止めようと焦っていたら、佐久間の声がそれをしてくれた。
気付いたリカは一応声を小さくはしたが、興奮はおさまらないようで威勢と激しさは変わらない。
「あかんん〜!ウチなんで成長せえへんのやろ〜!」
「なんだ、リカそんなこと悩んでたのか」
軽い笑い声が聞こえて次いで、それに噛みつくリカの声。
「そんなことって!死活問題や!ウチ2キロも太ったのに大事なとこが肥えてへんわ!」
「風丸、これ、は?」
それを尻目に試着室の上からぽいぽい入れられる数着の商品。背伸びをして投げ込む佐久間と、その後ろで言い合うリカと塔子が見えるようだ。
風丸は扉の向こうで起きている事を実に正確に読み取っていた。
佐久間から受け取った可愛らしい下着が自分の好みに沿っていたこと。塔子とリカのテンポのいい会話。
「…………」
「着たらおしえてね」
「私だって貧乳だけどなぁ…」
「はぁ?イヤミか塔子それイヤミなんか?」
「…………」
こんな場面で思うのも可笑しいが友達とはいいものだ。

風丸は緩む頬を手の平で2、3押して、投げ込まれた下着を拾う。






***

気付いたと思うけど、初・風丸しゃん視点。
なのにこれだ。MENGO…



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