「どこいくんだ?ペンギーゴ?」
翌日待ち合わせ場所に先に居たのは佐久間だった。風丸が到着するとベンチから立ち上がり、にこっと笑って無邪気に訊ねる。
風丸は、ああ…そういえばソックスに穴が空いたから新しいのが欲しいなあ…と、一瞬思って思い止まる。
違う。今日はそうじゃなくて、
「ランジェリーショップ」
「ぅえ?!なんで?!」
「いいから行くぞ!」
この意気込みが消沈する前に会計まで済ましてしまわなければ、あまり多くない月のおこずかいを、別段欲しいわけでもないし、買うのも持つのも恥ずかしい、高くて可愛い下着に費やすのが、惜しい気持ちに負けてしまう。
本当は部活のソックスが欲しい。サッカー雑誌も読みたいし、買い食いもしばらくはお預けだ。

「佐久間はいつもどこで買ってるんだ?」
「あー…物が良いのは家にメーカーの人が売りに来るからその時に買うけど」
うわ、金持ちの世界不思議発見。佐久間が言う“物が良いの”は一般家庭の高校生が買えるものでは無いだろう。
とはいえ佐久間の金銭感覚は思いっきり庶民的だ。198円より200円の方が安く感じるのは9とか8とか大きい数が入ってるせいかなとか言ってくる。あと祭の出店は高すぎるとも言ってたな。
「普段着けるようなのは、手頃なショップで買っちゃうけど」
「じゃあ、そこ。高くないなら案内してくれるか?」
「いちばん高いセットでも5000円行かないくらいだから大丈夫」
ほらな。庶民的。
放課後の駅前はそれなりに混んでいた。はぐれないように手をつないで、今日あった事だとか、昨日観たテレビだとか、他愛ない話をしながら目的地へ向かっていく。
「で、風丸どういうのが欲しいんだ?」
「あー……実は考えてない。可愛いようなのは持ってないし、興味も無かったからよくわかんない」
店で見て考えるつもりで、そんなことは全く、思い付きもしなかった。
「じゃあ青いのは?バランス良いんじゃないか?フリル系?レース系?それともチェックとかドットとか、柄物系?」
普段おっとりとした佐久間なのに心なしか勢いが良い。人のことは言えないがなかなかに女子としての心掛けが足りない佐久間だが、(何故照美がそんなことを知っているかは置いておいて)下着には気を遣うらしいのでもしかして、好きなのかな。
「佐久間、下着詳しいの?」
「…詳しい……と、いうか、…」
「ん?」
「……隠れ、る、から……その……、」
あ、なんとなくわかった。
人に見えないところだから、心置きなく可愛いものが身に付けられる。佐久間はこの容姿でありながら可愛らしいもの全てが自分に似合わないと、何故か思い込んでいる変わった子だ。お陰で制服のスカートさえも苦手なようで、可愛いものが好きなくせに、普段から頑なに遠慮する。
「詳しいなら願ったりだよ。アドバイスよろしくな」
「あ、う、うん…!」
赤くなってやがる。可愛い奴め。


「はぁ…こんなにいっぱい種類があるんだな」
ショップに着くと実に女の子らしい店内の空気に圧倒されて立ち尽くす風丸。佐久間は早速あれ可愛いとかこれはどうとか嬉しそうに商品を見ている。
「風丸サイズは?」
「サイズ?」
「バスト」
「ああ、胸囲?」
「バストだってば!サイズ!カップは?」
「えーと…B…だっけ?」
「嘘やろ!それはないわ!」
突然の声。もといツッコミが入り振り返ると遠い大阪に居るはずの友人が立っていた。
「浦部?」
「あん水臭い。リカでええて」
「リカ、どうしたんだ?どうしてここに?」
「ウチがサポーターやってるチームの試合がコッチであんねんそんで1日早く来て雷門に遊び行こ思てぇ駅から出たらアンタらの後ろ姿が見えて偶然やわぁぃや実は今日なぁお腹痛いわぁ言うて早退したった悪いなぁウチ悪い女やわぁなんて」
リカの勢いに普段の倍人見知りがひどい佐久間は完全に風丸の影からリカの様子をうかがっている。
「佐久間、こわくないぞ。噛みつかないから」
「えーっ?ひどないそれ?その反応傷つくわぁ…」
「あ、…はじめまして…」
「声ちっさ」
「はじめましてぇ?!アンタ帝国の佐久間やろ!初対面やないんやけど?!」
「あ、リカその辺で勘弁したげてね怯えてるから」
「せやからひどない?!なんでなん?!なんで怯えるん?!」
「リカ恐いから」
「恐ないわ!」

ともあれアドバイザーが1人増えた。佐久間は早口の方言に圧倒されつつなんとかリカと会話している。それを個室で聞きながら、とりあえず気に入ったものを試着する。
「ん…小さい?」
「着たか?」
「うん。着たけど…、なんか…苦しい…かな?」
「入っていい?」
「おー」
「アンタら仲良しやなぁ」
佐久間は戸を開け中に入るなり呆れたようにリカを呼んだ。
「浦部さん、店員さん呼んでいただけますか」
「リカでええて。どないしてん」
「風丸、お前、サイズやっぱり間違ってるよ」
「あっ、そう…そうなんだ…」
そっかぁなんてのんきに笑うが内心太ったのではとはらはらしていた。
「計ってもらお。きっともっと大きいサイズにしないとだめだ」





***

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