※ 豪炎寺と雷門(豪→佐久)
※ 一人称・氏名捏造他注意
※ 『20時間』シリーズ的な



本当に病気なんだな。
好きな人の話をする男を殴りたくなる。親友なのに。
殴って黙らせたい。

「…睨むなよ。
なにか用か?豪炎寺」
「べつに」
不機嫌を隠す気は無かった。多分隠せないだろうと知っていたから無理にそんなことはしなかった。
鬼道はしばらくこちらを見ていたが、頑なに鬼道を見ない豪炎寺に視線を反らす。この小さな攻防は日常茶飯事だ。きっかけは何にしろ、じっと見る鬼道と、絶対見ない豪炎寺。
仲が良いのだ。

「お前、佐久間が好きなのか?」

しかし今日は豪炎寺の絶対見ないが初めて崩れた。
「……なんだと?」
「…豪炎寺…え?佐久間って佐久間?マジ?」
2人の間に挟まれて、円堂は落ち着かない。キョロキョロと2人を交互に見ては、え?とかホント?とか言っている。
「佐久間の話してると睨むだろ。それで嫉妬してるんじゃないかと思ってな」
「………」
「え?え?豪炎寺ホント?好きなの?佐久間?」
鬼道はここで自分のミスを痛感した。豪炎寺に謝らなくては。
ここは昼休みの教室で、声のでかい円堂(しかも悪気が無い)が居る。あまりにも場所を選ばなかったなと後悔したが、そんな気持ちは豪炎寺の鋭い睨みで吹き飛んだ。
「…別に、好きじゃない」
「……そうか」
「え?どっち?鬼道の勘違い?」
教室は女子のざわめきで妙な空気になっている。豪炎寺は気にしていないようだが鬼道は内心はらはらめいていた。

「あんなガサツな奴」

後にして思うとこれは豪炎寺の照れというか照れ隠しというか、そういうものだったのだろう。しかし鬼道は腹が立った。大事な友人を馬鹿にするような、その言い方が許せなかった。
「悪く言うな。お前あいつの何を知ってるっていうんだ」
「知ってるさ。ガサツで男みたいだってことくらいは」
「触って、抱いてたくせに…」

結果、鬼道は豪炎寺に謝罪した。深々と謝った。

思い詰めた顔で、佐久間に触れた豪炎寺を見ていた。まさか寝ている女子の胸に触れるという不埒なことを仕出かすとはと咎めようと思ったが、豪炎寺が触れたのは、その膨らみの間にあるただの骨だった。
しかしまるで光輝く宝物に触れるかのような姿に心打たれ、本当に好きなのだな、と、感動すらしたのだ。
好きなんだろうに、それなのに照れ隠しのためだけに、惚れた女を侮辱するとは情けない。

「わかってるよ…でも」
「俺だってわかってる。俺が悪いんだ」
「わかってる、わかってる。わかってて言ってるのもわかってる。ああ紛らわしい!」
「ハァ…悪かったよ…」
鬼道はうなだれた。
豪炎寺も力無い様子だが部内はむしろ色めき立っている。昼休みの例の会話は放課後までに学校中を駆け巡り、他クラスの者にはもちろん後輩たちまで知っていた。
「しかし…佐久間か」
「…なんだよ」
部活が終わり、たらたらと部室に向かって歩く最中染岡が、からかうでも無い咎めるでもない実に自然に呟いた。
「オイ、睨むなよ。別に文句があるわけじゃねぇんだから」
「じゃあなんだよ」
「ただ、なぁ?」
「え?何?」
染岡は答えにくそうに円堂を見るが円堂はリフティングに夢中で聞いていない。そもそもこの手の話題にはおそらく疎いし。
「ハッキリ言えよ」
「そうとがんなって。ただモテるだろ?あいつ。大変じゃねぇかなって思っただけだよ」
「……モテる?」
「モテるだろ」
「………そうか?」
「それは質問か?」
逆隣に居た鬼道に向くと鬼道はいささか不機嫌そうに見えた。
癪だが佐久間のことならもちろん鬼道の方が知っているのだから是非とも教えて欲しい事柄だ。事実なら俺は焦らなくては。

「……モテるな。すごく」
「………」
「綺麗だろう?」
「まァ…」
「可愛いし」
「……そうだな」
「今さら照れるなよ。もう全校に知れたぞ。
俺のせいなわけだが」
「それはもういい気にしてない。でもなんだってこう皆、噂が好きなんだろうな」
部室に着いて先頭を歩いていた半田が戸を開けると、まっすぐいそいそとロッカーに向かい携帯電話を取り出した。
豪炎寺も鬼道もなんとなく半田の行動を目で追っていたがそのまま会話を続行した。
「お前だからこの広がりようだ」
「ん?どういう意味だ?」
「お前有名人なんだぞ?
お前こそモテてるって話だ。案外鈍いんだな」
2人の目線の先で半田はメールを打っている。画面は見えないが指の動きから察するに。何をニヤニヤしているんだと、部室中から見られていたが気付いていないようだった。
「…俺のことはどうでもいい。
それより鬼道。さっき何か、怒ってたか?」
「………」
「……なぁ」
「別に。ただ、面白くなくてな。俺は佐久間を可愛がっていた。変態染みたような奴に困らせられてるのも何度も見てきたから、モテてたなと思ったら虫酸が走っただけだ」
吐き捨てるように言うのでぎょっとしたが、それほど彼女の魅力に取り付かれ、入れ込んでおかしくなるような輩は多いのだろう。心配になる。
「まさかとは思うが、してくれるなよ」
「しない。そんな、困らせることなんか」
「ふふ、どうかな。お前には前科があるからな」
珍しく豪炎寺が赤くなってしまったので部員がわいわい覗き込んでくる。
鬼道が佐久間を可愛がっていたというのはきっと本当で、親友の豪炎寺といえど好かれるのは親心のようなものがうずくのだろう。しかし意地悪はこれでおしまいだった。
「でも豪炎寺、お前ならいい。
大事にしてくれるだろ」
「………、気が早い」
「ふむ、確かに」

ところで半田の打ったメールはこの頃帝国学園内に届いていた。
2校はサッカー部に限られるが交流が多いため、選手同士も仲が良く、連絡先も知っている。半田は豪炎寺に協力する気半分、おちょくる気持ちとただの興味が半分で、大体こんな内容を送った。
「…佐久間って誰とも付き合ってないよな?」
「どうした辺見。気持ち悪いぞいきなり」
「半田からメール。佐久間のこと訊いてきたんだけど」
「あ、オレにも来てる。一斉送信じゃん。…ウチのエースが佐久間のこと……マジ?」
「うっわ…返事しとこ」
「オレもオレも」



「ん、電話…いやメールか」
「豪炎寺、閉めるぞー!」
「ああ悪い。今行く」
部室から出てメールを見ると途端に豪炎寺の眉間の皺がひどくなった。それを目ざとく見つけて画面を覗き込む部員たち。
「お、辺見から?」
「おお!佐久間彼氏いないって。やったじゃん」
「…読めばわかる」
ばしばしと肩やら背中やらを叩かれる。
しかしなんだって今いきなりこんなメールが…
まさか今日昼間に雷門に広まったたかだかの噂が、放課後に帝国まで響いているわけがない。そこまでの話題性があってたまるか。たかだか、たかだかだ。

(!…半田か…)

隠す気も無いようで、ニヤッと笑って目配せしてくる。余計な真似を…とは思うが善意だろうから怒らないでおこう。礼も言わないが。

「でもさ、おれ思ったけど」
円堂が部室の施錠をしながらつぶやくように言った。
「風丸に聞けば、佐久間のことわかるよな」
「あぁ、そうじゃん。お前ら仲良いもんな」
「…うん、まぁ…」
どことなく居心地の悪そうな風丸。この話題に不自然な程触れてこなかったのでもしかして、…
(…なんにせよ協力的で無いのは確かだな…)
チラ、と見られて少しながら気分が波立つ。2人は仲が良いから、もしかして嫉妬されてるのかな。

「ばらすなよ」

それだけ小声で釘指すが、風丸の反応は意外だった。
呆れたようにため息をつくと、呆れたように横目に見られてこの返し。

「お前すでに佐久間になんかしでかしただろ」


ぎくり。

心当たりがありすぎて、どれのことやら。なんて言ったら殴ってきそうな目だ。





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