※ FFI後不佐久(?)
※ 捏造氏名・一人称他注意
※ 不動が帝国編入生



もう少し。それが彼の口癖。
別れる時、目覚めるとき、離れる時、都度に。
「もう少し」
「あまえんぼ」
「うるせえ」
「はいはい」
頑なに自分にだけ こう な気がする。人との接触はどちらかといえば嫌いに見えるからだ。



シーラカンス
【 Coelacanth 】



不動とのことは誰にも話していない。やましいとか後ろめたいとかではなくて単に恥ずかしい。特別な関係と言えるかも疑問であるから、話す必要性も欠いている気もする。
そしてあの、ぐっと体を抱き締める不動の腕なんかを考えると、一体何を説明するのかとも思う。彼は誰にも話さない。一方的に推し測って誰に何を言おう。
さもいろいろと考えて、結局どうでもよくなった。
大したことではないのに何を悩んでいるのだろう。

友人…恋人

私たちの関係はその間に位置する名もないものだ。自分は満足なのだろう。この間柄に不満が無い。

「手、」
「……つなぐの?」
「ん」
「…………」

不動とは、出会いはもとい第一印象、第二印象までもが最悪。殴りたいと思ったことも、鍛えた足に金具を着けて、力一杯蹴り上げたいとも。
こんな風に優しくされたり露骨に接触を好まれたり、傍にいろよと命令されたりする日が来るとは、どうやって思えただろう。
「お前いいにおいする」
「…やめて。恥ずかしい」
「もう少し」
女の子が、好きなのだろう。
私のようにこいつに触られて、抱き締められる女の子。きっとたくさんいるのだろう。
寮に帰ると手招きされて、隣や腹の前に座る。すると体を抱き締める。強くて優しくやわい力で、捕まえて、閉じ込める。一年前は背も体型も似たり寄ったりで男女の事など考えなかった。しかし今不動はたくましく、佐久間は華奢な少女だった。
髪や首に顔を埋めて、こっちは居てもたってもいられなくて、はらはらとばくばくと、ひいひい思ってそこにいるのに、
不動はのんきにうとうとしたり、背中や腰を撫でて居る。

私たちの間には、協定という絆の他には何もない。

「不動はお前が好きなのか?」
ある時部活が終わってすぐに、そういえば、とでも言うように訊かれた。辺見は気兼ねのない相手ではあったがこの手の話題くらいは神妙に取り扱ってくれると思っていたのに。
「…ありえない」
ため息しつつも答えると、辺見は少し首を傾げ、再び何でも無いように吐いた。
「じゃあお前は不動を好きなのか?」
「……どうして」
別に過敏になっていたわけではない。不動とのことは不満はおろか疑問も無かった。佐久間の中で不動のこころは、全てが友情を越えなかった。
「まぁいいじゃん。で、どうなんだ。付き合ってるのか」
「だから、ありえない」
あくびが出るような話題に佐久間は興味も示さない。わらわらと部員が集まってきて、なんだどうしたと訊ねてくる。
「付き合ってないんだと。不動とこいつ」
「えっ本当ですか?なんか暗黙の了解的な感じに思ってた」
「なんでだよ…」
スポーツドリンクのボトルを開けて、氷を頬張り口を冷やす。
「だってあの人佐久間先輩追いかけて、ここに編入したんじゃないですか」
「は?」
バキバキと氷を噛んで飲み込む丁度、喉が冷えてきんとした時。

離れた場所から不動が見えた。

佐久間を囲む人の間からこちらを見ていた。
まっすぐと、しっかりと。
「…そんな噂あるのか」
「え、噂?噂なんですか?」
「いや、オレもそうだと思ってたけど」
「くだらない…」
後輩のセリフには驚いたが、呆れる方が占めていた。
あの何もかも強い男がいくらでも代えのきく女を追いかけるなんて笑い話だ。
こんなくだらない噂も横行するのだと思うと悲しくなる。佐久間は不動を尊敬していた。難のある奴ではあるが、いくらでもある長所のほぼを、理解されていないのはいかにも切なかった。
「あのな…縁はあったけど不動はそんな、…」
「お前のこと好きだと思うぜ」
辺見の言葉に佐久間はうんざりと顔を歪めた。目眩さえも起こす気分だ。目元を押さえて項垂れる。
「…辺見…何を根拠に。あいつが相手にすると思うのか」
「少なくとも、頼ってる」
「頼れるものか。心もとないことこの上ない」
佐久間のこの悪癖は、いつも仲間を傷付けた。
自らを害虫かの如く扱う彼女に砕かれる思いは無惨なものだ。
「惚れてる。絶対だ」
「ふふ…急に親切を言う」
人垣を抜けると不動がずかずかやって来て、佐久間の手を取り去っていく。
“そうならば嬉しいけど”とはにかんだ彼女を、痛い目に遭わせたくは無い。不動の好きにさせるのは不安なのに、彼よりもずっと古い付き合いなのに、あの間には隙間もない。
誰も踏み込めず傍観していた。


不動が高い熱を出して寝込んだのはそれから4日後の休日のことだった。
同じ寮に居る部員の誰もを呼ばすして、実家から通う佐久間を呼んだことで噂はさらに真実味を増した。当人たちは気にもしないが、噂の裏で仮説も立った。
「不動は付き合ってるつもりなんじゃないか」「お互い気付いてないんじゃないか」「2人とも片思いのつもりなんじゃないか」
不動は積極的に部に馴染もうと働くよりは、睨まれようと佐久間と居た。
それでも不思議と浮いたり孤立したりはしないのだが、公式試合に出れなくても、立場としてはマネージャーでも、佐久間は部の中心にいる。誰しも彼女と話したいし一緒に居たい。練習したい。
つまりそれなのに独り占めするのだ。

「何度あるの、熱」
「体温計無いから知らね」
「顔色は悪くないけどなあ…薬は飲んだのか?」
「いいからこっちこい」
不動は熱など出していなかった。休日に佐久間に会うための嘘なら今まで何度もついてきた。仮病ももう何度目かのことだが、佐久間はころりと騙される。
「風邪なの?」
「はやく」
「もう、なんだよ」
不動は佐久間が手の届く場所まで来ると腕を掴んで引き寄せた。体勢を崩した体を抱き止めて抱き締める。
「あぶな…!急にひっぱるなよ。転ぶ…」
「大丈夫大丈夫」
腕の中からの苦情に笑う。柔らかくて綺麗な体。不動は佐久間が好きだった。大好きだった。他には何もいらないくらいに、切実に大切に思っていた。
「落ち着く…」
「…、……」
抱擁なんて今まで数えきれないほどしてきた。2人で居ればほとんどこうしているのだから。それでも毎回真っ赤になって、恥ずかしそうにもじもじしている佐久間が可愛くて仕方がない。
「、ふどう、寝て、寝てないと、悪化する…」
「嘘だよ」
「…?…」
「熱なんか無えって。いいからこのまま抱かれてろ」
「…え…!ま、また…」
騙された…と脱力する。不動は佐久間を堪能しようと、髪をかいだり肌を撫でたり両手に輪郭を刻み付ける。

ずっとこうしていたい。
そうしてこのまま死んでもいい。

佐久間に触れるときはいつも、不動は格別な幸せの中、狂気がこうべをもたげそうな、きちがい染みた歓喜に頭を支配されそうな危機感を持っていた。

仮病は、嫉妬。

佐久間が誰と話していてもふつふつとわき上がる支配欲や独占欲。どうにも我慢が利かなくなると、不動はこうして体調を崩す。心配してやって来る佐久間を抱き締め安心する。嘘を許す彼女に触れて、まぶたや首にキスをする。
異常かもしれない。
恥ずかしそうにくすぐったがる、小さな子供のような佐久間を、狂いそうな思慕を持って腕の中に包み込む。
…こうでもしないと生きていけない。
それが異常の答えだった。




「は?仮病?」
「だから全然平気だったんだよ」
帰り際、寮のロビーでくつろいでいた咲山に会う。佐久間は不動の熱が全くの嘘であり、自分はまんまと騙されたと告げた。
「…仮病…今までにもあった?」
「何回目か知れないよ。毎回騙される」
「……ふうん…」
笑い話に終わるはずが、咲山は妙に深刻な顔だ。
「なんだよ」
「…別に…ただ、なんでお前をわざわざ呼んだのかな、と」
「………」
佐久間はぱっと頬を染めた。
目を伏せて口をむすび、ゆるいまばたきに恥じらいが見える。
それを見て咲山は、ああとうとう、奴のものになったのか、なってしまったかと思ったが、佐久間は恥じて呟いた。
「…頼られていると…」
「…?」
「…思っても、…いいのかな…」

(お前がいないと死ぬかもな)

思い上がりを恐れる佐久間に、それはとても言えなかった。
このままどうしていくのだろう。この2人はどうなるのだろう。
想いだけは一人前で、子供染みた好き方が不安だ。不動はこれからも嘘をつくだろう。告げればいいのにそれはできなくて手放すことは更にできない。

「もう少し」
それが口癖だって、
つもりつもれば永久になる。





2011.04.17







***

鈴奈様からのリクエスト
佐久間に依存しまくってる不動とそれを「頼られてる」としか見てない佐久間
でした。

リクエスト内容に沿えているか大変心配ですが、精一杯やらせていただきました。仮病使っちゃうくらい佐久間に対してはかまってちゃんあっきーな…という…つもり…
不佐久になってない気がす!



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -