※ 不動と佐久間♀
※ 最低男と馬鹿女
※ 暗い。年齢操作他注意



当然のように財布から紙幣を取り出すと半分に折ってジーンズのポケットに突っ込む。
「………」
まだ頭がぼうっとしている。それを見てもなんとも思わない。
男は小銭さえ全て持って行く。何も言わない。誰も止めない。彼はこのまま食事に行くか、パチンコにでも行くのだろう。たまにパチンコでもらったという板チョコや棒付きの飴をくれる。
いつもそれを持て余す。

去年電車で痴漢に遭っていたのを助けてくれたのが不動だった。恐ろしくて声も出せなかった佐久間は心底感謝して何度も何度もお礼を言った。
しかし実際はこの男の方が痴漢よりも質が悪かった。
そんなきっかけで知り合ってから間もなく、なんとなくたかられるようになった。
貧乏学生…場合によってかさに着れるものなのだな。
カフェやファミレスの支払い位はお礼と思っていたのだが、ある時コンビニに寄りたいと言って付き合うとボックスティッシュと爪切りを持ってきて、はい、と佐久間に渡すのだ。佐久間はコンビニに用事が無かった。当然自分がレジに持って行って会計をする物もない。不動のちょっとした買い物に付き合うだけのつもりでいたために渡されたボックスティッシュと爪切りに一瞬体が硬直した。
この人なに言ってるんだろう
『俺今ホント全然金無いんだ。買ってくれる』
『ぇ…あぁ、…はぁ…わかりました…』
『悪いね』
ティッシュと爪切りの無い生活の不便と不動への恩義が結局支払いを選ばせた。
悪人とは言えないだろうが良心も無いように見える。
微妙な関係が細々と続き、会うと必ず食事や何か生活用品などを買わされた。金を寄越せと言われない事に何故か佐久間は安心していた。今まで不動に使った金の合計は考えないようにしていた。

『彼氏?』
ある日不動からのメールに返事を書いている時クラスメイトの女子に訊かれた。
『……ごめん、なに?』
『それ、メール、相手、彼氏?』
ぶつぶつと切れた単語が佐久間の頭を混乱させた。
『…違うけど』
『あ、そうなの』
彼女はそれで興味を失ったようだった。

(不動さん、何で私たち会っているんでしょう)

それが喉にはりついている。
ファミレスの席で向かい合って、今のこの時間に何の意味があるのかを考えてみた。考えるまでもなく全くの無意味だ。それはわかっていたが考えてみた。
向かい合う男は氷しか入っていないグラスから溶け出した水をストローですすりながら、携帯電話をいじっている。時刻は間もなく9時になる。佐久間は立ち上がり、伝票を持つとレジに向かった。不動は気にも止めなかった。

それからひと月連絡が途絶え、奇妙な待ち合わせと外食が無くなった。連絡がなくなって1週間経つと何かあったのかと思ったが、2週間経つとようやくあのわけのわからない状態と関係が終わったのではないかという希望が芽生えた。そして3週間経つ頃には不動の事は早くも忘れかけていて、ひと月ですっかり元の生活に戻っていた。

『会える?』

電話を取らなければよかった。きちんと相手を確認して、出なければよかった。着信を拒否しておけばよかった。
嫌な予感はしたが逆恨みを買う気がして逆らい難いと思ってしまう。
結局その日、金を貸した。
そのさらにひと月後には男女の関係になっていた。
佐久間は誰にも言わなかった。
そしてこの男との関係が切れたかもしれないと思った時、感じた物は希望だったとしみじみ思う。
貸した金が帰ることは無かった。佐久間は裕福な家庭の親に見放された子供だった。
父の後妻に疎まれて、高校進学と共に家を出た。実家は高校から電車で1時間半かかる。後妻が出産した時もその1時間半を思い切り惜しんだ。あの家に帰る理由がこの先も生じる気はしない。金だけは与えられていた。1人では有り余る分の金が。
不動はいい物をみつけた。
我ながらそう思う。




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