※ 二番目だよ
※ 年齢操作・一人称・ばか注意
※ うる☆やつら(ルーミック)パロディ



一緒に出掛けたら噂になる。
メールが来てうんざりする。先日2人で水族館に行った時の写真が知らないアドレスから携帯電話に送られてきた。頭の悪そうな文句も添えてある。はじめての事ではないから動じない。
嫌々ながら宇宙人に付き合って買い物などに出ようものなら、ほとんど毎回といっていいほどこの手の嫌がらせを受ける。実害は無いようなものだが、隠し撮りは気分が悪い。おそらくは彼女の、馬鹿らしいが、熱狂的なファン、というものからだろう。
犯人は、直接的には関わらず、教室や寮の隅からこちらを伺ってくるような連中か、もしかしたら普段からよくつるんでいて、冗談めかしたヤジなどを飛ばしてくる友人たちの中にいるかもしれない。
彼女を知る全ての人間が疑わしいがきりが無いので放っておく。

「ふどうこれは?」
「……アシカ」
「これは?」
「……アザラシ?」
「これ」
「…オットセイ?」
「わぁ…さっき訊いた時とぜんぜんちがう」
「知るか」
よっぽど水族館を気に入ったのか最近は買ってやったパンフレットや学校の図書館から借りてきてやった海洋生物の図鑑を夢中になって読んでいる。
「じゃあこれは?ふどう」
「ペンギン」
「え?こっちもペンギンだってふどう言ったぞ…」
「どっちもペンギンなの」
「へえー…ふどうは何でも知ってるなあ…」

可愛いよな、こいつ。

ほだされそうになって踏みとどまるのにももう飽きてきた。疲れた。宇宙人でもいいような気がしてきて、本当に最近はそんな気がしてきて、……
惚れてしまったんだろうか。
その気が無いなら紹介しろとかいらないならくれとか。言われることにも腹が立つようになってきたのだからもう疑いようがない気もする。認めるのは癪だけど。

遊ぶには苦労しない。宇宙人が居ようが不動は外泊することがあった。実は彼女がやって来た日にも危ない女だと思いつつ、可愛いからと流されかけて結婚という単語に思い留まった。
既成事実など作ってたまるか。この歳で結婚という言葉に怯える経験をするとは。とにかく不動は指一本だって触れていない。
しかし今まで女に対しだらしないばかりでけじめをつけたこともない。一晩遊べる相手だけを、その日その時に好きになる。
真面目な交際。歯が浮く。
そもそも惚れるというのがよく考えれば今まで一度もなかった気がする。未知のものには素直になれない。しかもこんな、頭の飛んだ女に真面目に向かうなんて面倒が目に見えている。

結局踏み切れないまま時間ばかりが過ぎて行き、煮え切らない自分も頭にくるがそもそも彼女が、見るからに人間なのに、結婚とか宇宙人とか変なことばかりを
「言うから!」
「………落ち着け、不動」
「……くそ…」
いかれた女に完全にいかれてる。初めての恋というものがどうにも歯がゆくて憤る毎日。自分の言っていることも考えていることも、支離滅裂で恥ずかしい、馬鹿のようだとさらに苛立つ。遊び人の不動がとうとう、しかもあの宇宙人に入れ込んだとあっては周囲も黙ってはない。
からかってみたり妬んでみたりどついてみたり言いふらしたり。
もはやどうにでもなれ、と思い始めた不動だったが、そう思うのに吹っ切れない。毎日毎日飽きもせずにからかいに来る輩を見れば、彼女の話題性に呆れるような誇らしいような。
「……やっぱモテてるんだよな?この現象」
「珍しいな。悩むなんて」
「うっせ」
鬼道はひやかす連中とは違い冷静に事を見ていた。その分愚痴も言えるのだが、ひどい人見知りの宇宙人が唯一不動以外の人間でなついているのが鬼道である。そのためこいつには穏やかでない感情も少なからずあるのだが、その気はまるでなさそうなのでまあ許す。
「しかし、成り立つのか。お前たち」
「…どういう意味だよ」
「相手は宇宙人だろう。お前が開き直れば万事解決のつもりでいるようだが」
「…鬼道君までそういうこと言うの…?大丈夫?」
こいつ確か学年トップいや全国トップじゃなかったか。やっぱり成績と頭脳って関係ないのかな…
「あのな、不動。どうやら理解してないようだが」
「あんだよ」
「いわばあの子は地球外生命体。わかっているのか?」
「はぁ?だから大丈夫か鬼道お前頭。病院行け」
と、言いつつ生々しい表現にどきりとする。宇宙人なんて彼女の妄想で、ひょっとしたら髪の色なんかは変わってるし、外人てことはありえても…
「何も知らないんだな」
「………は…?」
いや、嫌な予感はしてた。

「彼女飛ぶぞ」



寮に帰ると宇宙人は穴の空いたジャージをはいて、上はパーカと下着一枚。不動は鍵を閉めずに出てきたことを後悔していた。この癖は直さなくては。
「前しめろ」
「おかえりふどう」
「前、しめろ。ほら」
へその辺りにとどまって揺れていたファスナーをつかんでびっと首元まで上げる。白いブラジャーから溢れそうな肉が不動の理性にひびを入れる。
「これ今日練習したかんじ。書けてるか?」
宇宙人は毎日のように文字の練習をして待っている。時々は夕飯を作っていたり、部屋を綺麗に掃除したりもする。
嫁に……来てもらってもいい。
正直、割と本気で最近は思う。
「へえ…俺の名前か」
「あってるか?ふどうの字はむずかしいから、簡単なのが書けるようになったら練習しようと思ってたんだ」
不動は差し出されたノートを受け取って、くたくたと並んだ“不動明王”の文字を見た。
「…………」
「あれっ?間違ってたか?」
何も言われないことを不安に思ったのか、宇宙人はあわててノートを覗く。
「お前の名前、知らねえな…」
ぼつり、と言って、ノートを机に投げて置く。昼に鬼道から聞いた話がどうしても払拭できない。どんな態度をとればいいのか、わからなくて戸惑う。
「ああ…名前…私の」
「…………」
質問をすれば渋らずに何でも答えると思っていた。しかし宇宙人はなにやら考えて首を傾げるばかりである。
「…なんだよ。
教えられないのか?」
「いや…そういうわけじゃないんだけど…」
日本名じゃなくたって、この際もう驚きはしない。むしろその方が自然かもしれない。ひらがなもまともに書けないのだから。
「私の名前はこの星の音域では、発音できなくて」
「………、…」
またそういう話か…
不動は険しい顔をして、ぎゅうと目をつむった。こんなに好きだ好きだと、強引にまとわりついてくるくせに肝心なところでは絶対的な溝があるように思う。
「……ああ、そう」
呼ばないからいいや。
がきだな、と思いながら、言ってそのままベッドに倒れた。
「…………」
「…………」
沈黙が重い。こいつも、鬼道も、クラスや、もう世界が、よってたかって自分を馬鹿にしているような気がした。
「ふどう」
「……………」
「きょうは?」
「…………」
まだ、一緒に寝たいとかぬかすのか。どこまでが本当なんだ。真剣に考えてるのがばからしくなってくる。
「いい日なんか来ないって言ったろ。消えろバカ女」
宇宙人は、はあいとのんきに返事をして、ドアに向かっていく気配がする。いつもは寝る直前まで部屋に入り浸るくせに、やけにあっさり行くじゃないか。
この重い空気に耐えかねたのだと思った。

「ばいばい」


あれから一度も現れない。





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