君を探そう。
火の中でも水の中でも、目がつぶれても君を探そう。
きっと視力が無くとも見える。君ならば見える。君ならば見える。



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長いこと迷子を探している。気が遠くなりそうだ。
俺の今までなんて何もわからない小僧のもがいた数年だろう。でもそのうちの多くを、迷子を探して過ごしてきた。

迷子は俺の恩人だ。


晴矢は学生寮の小さな部屋で、青いノートに向かっていた。書くことがたくさんある。書き漏らしが無いようにしなくては。大事なことだから。
日付を書いて、少し形の悪い文字が列を成していく。
もうすぐ今日は終わる。
頭上で壁掛けの時計がカタカタと音をたてている。今日も見つけられなかった。

記録は実に、3年に渡る。

子供にとっては大層な時間だ。たった3年、されど3年。
30ページのノートを全部で16冊。500ページを書きつくし、現在17冊目。もうすぐ今使っているノートも終わる。この記録は14の時からつけている、迷子を探す戦記だ。

見つけられない。手を尽くしているつもりだ。
毎日今日が終わる時、ノートを開いてつくづく思う。お前今どこにいるんだ。
迎えに行くのに。探してるのに。それがきっとわからないんだ。きっと。
自分で帰ろうと道を探しているのかもしれない。ちょろちょろ動かないで欲しい。見つけにくい。
せめて声が届く場所にいるならいい。こちらの声が聞こえるなら知りたいが、それはきっと、叶わないだろう。

キャスターのついた椅子をがらがらと引きずってベッドの前まで移動する。
学生寮の個室は面積こそ小さいが左右の壁に埋め込まれたようなベッドのお陰で窮屈には感じない。簡素な部屋だ。
晴矢の拠点は扉から入り向かって右。正面の壁の中央には小さなベランダに出るための窓があり、その左右に付属の机が置いてある。
右側のものが、晴矢の机で晴矢のベッド。
「風介」
「………」
「またか…」
晴矢のベッドにルームメイトが寝息を立てている。
実は晴矢が右側のベッドに寝ていたのは入居から1週間ほど。それからはこうしてルームメイトの風介がほとんど毎日占領している。
「風介。自分の所で寝ろよ」
体を乗り出して指で額を弾いた。風介は起きない。一度眠ってしまえば余程の事でもなければ目を覚まさないのはわかっている。言ってみただけだ。


迷子とは、この風介。

記録をつけ始めた14の頃から、ひょっとするとそのもっとずっと前から、こいつは迷子だ。探している。
もう、10年来の仲になる。仲といっても懇意にしているとか親しいとかいう訳じゃない。晴矢も風介も孤児だ。正しくは捨て子というだろうか。
来年には院を出る。
今だって高校の寮に入っていて院からは離れているが、風介とは縁付いていたのか今日までも一緒である。

…焦る。
風介がまだ見つかっていない。期限が迫っている。あと何日、何時間、何分、何秒……
いやそれよりも多分、一刻も早く連れ戻さなければ。猶予なら刹那も無い。
「……風介」
「………」
かつてはこいつを殺してやろうと思った。憎かったわけじゃない。恨みも怒りもなかった。殺してやろう。いや、殺したい。殺したい。
何度呼んだって俺の声なんかには応えないかもしれない。探したって逃げるのかもしれない。
まだ風介に触るのはこわい。
最後に会った時、必ず探し出すと伝えた。絶対に見つけると。
風介は首を振って、いいえ、と示して、あとは消えた。あれから一度も会ってない。

お前は意固地になっているんだと言われる。迷子の風介を誰も憶えていない。探そうとしない。意固地でもなんでもいい。風介を連れ戻したい。
俺が忘れたら、諦めたら、風介が消える。
晴矢はそう考えていた。
頭がいかれたのかもしれないと噂されているのも知っていた。かまわない。

18になったら、離ればなれ。

それは自分しか知らない、自分の中にしか残っていない小さな男の子が、本当に、本当に消えるということだ。

タイムリミットが迫っている。




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