※ 源田と佐久間(幼馴染み)
※ 一人称・氏名捏造他注意
※ ピュアいかがわしい。ばか。




実際、これはまったく現実的ではないよ。あり得ない、と言ってもいい。
なんだってこうなったのか。俺が悪いのか、何が悪いのか。

次子が風呂に入ってきた。


平凡パンチ
【 Heibon Punch 】





5歳や6歳の子供では無いのだから、いい加減こんなのは異常だ。
言ってやるべきなのだけど、言ってもわからないだろう。なにせ。
どうにもこの子には性別の意識というものが備わっていないように思う。欠損しているのだ。一大事だと思う。でも本人は気付いていない気にしていない気に止めようとも思わない。
「次子」
「ハイ」
「いい加減、一緒に入るなんておかしいんだぞ」
「なにに?」
「風呂にだよ」
「何故?」
「何故って……
もう俺たち小さな子供では無いんだから、ともかく、だめだ」
「なんだ。理由無いのか」
木造の古い風呂に、次子は泡を飛ばしている。なんて幼稚な。シャボン玉などどこで買ってきたのだろう。
「これか?作った。
成分分析して、風呂で使えるように改良したんだ。安全だよ」
呆れた目で見ていたら、こちらの疑問を察して答える。しかし肝心なところに届いていない返答だ。のんきに特製のシャボン液の入ったプラスチックのコップをストローでつついている。
この頭脳があって如何にしてこうなのか。まさか男女の違いがわからないということはあるまい。
いっそからかっているのかとも考えてみたが、そんな性格ではないしなあ。
「なんだ、お前も遊びたいの?だったら作ってきたのに」
「ちがう」
「じゃあ何さ。にらんでるの?」
はぁ、と下にため息をつくと、白い泡が宙に舞う。桧の風呂に泡風呂。この家の人間は家風にそぐわず茶目っ気が大層である。子供といえど中学生が頂く風呂を石鹸泡だらけにして、歓声でも上げると期待したのだろうか。
したのだろう。そうなのだろう。
次子がこうなのだから、同い年の幸次郎とて嬉々として湯船につかると思ってのことだろう。
なんといってもこの子が育った家なのだから、こののびのびとした質を育んだ家なのだから、やれやれ。次子が幸次郎と風呂に入る、と言ったところで止めなかったのだろう。
「なぁおい。歳を考えれば次子。一緒に風呂に入るなんて、おかしいんだ俺たちは」
「子供の時から一緒に入ってきたじゃないか」
「だから、今では事情が変わったのだ!」
「ふうん」
ぷくぷくとシャボン玉を飛ばしている。どんな言葉も響かないようだ。しかし、無駄だからと折れるわけには断じていかない。俺は頭が固いのだろうか。真面目が過ぎるのだろうか。ちがう、ちがう。屈してはいけない。認めてはいけない。
「次子!」
「う?」
大きなシャボン玉の膜の向こうで大きな目がしばたいている。折れそうになるのをぐ、とこらえ、何度も繰り返してきた言葉をまた繰り返す。
「俺は金輪際お前と風呂には入らない」
「えっ」
ストローから唇を離した瞬間シャボン玉が割れてしぶきが跳ねた。目に入ったのかこすりながら、なんで?と非難の声をあげる。
「何度も言ってきたな?」
「…ハイ」
「何度も、言ってきたが、」
「………」
「お前はこうして入ってくる!」
つい声を荒らげると次子は大きな目をさらに大きくする。割れたシャボン玉の飛沫がしみたのか、ぼたぼたと涙がこぼれた。
いくつなんだこの子は。自分の前だけでは特別に幼いような気もするが、この子は間違いもなく同じ年に生まれた女の子。努々忘れてはならない。

「…そんなに嫌なら、ちゃんとわかるように、そう言えばよかったのに」

説教の反響が消えると、口を尖らしてぼつりと言う。まるでこちらに非があるような言い方にさすがにかちりとくる。
「……ちがう」
不機嫌な声だ。
「何が」
むこうも負けず劣らず不機嫌だ。
「嫌なんじゃない」
「ならいいだろ?!」
「ちがう、だめだ!」
「なんでだよ!」
「次子!」
言い合いになりそうになって、幸次郎は背を打った。次子が湯を泡を切ってすばやく目前に詰め寄ったので、背後に逃げて壁に当たったのだ。
「…、つぎ、」
「だめだ、だめだ、だめだ!」
「…?」
「それだけで納得できるか。理由を言え。嫌というのでは無いなら何がだめだ?
普通とか、常識とか、私はどうでもいい。さぁ言え。理由を」

……こういうとき、当主の血筋というものを感じる。

きれいに膨れた次子の乳房が泡を隔てて胸の間近に迫っている。嫌なものか。ただ、ただこれでは理性が、浅ましい自分が露呈するのがたまらないのに。どう言えばいい。勘弁してくれ。
「……離れてくれ」
「いやだ。言うまで動かない」
「………頼む。触るぞ」
「かまわない」
「…次、子!」
ようやく肩をつかんで引き離すと湯が波打って泡を落とした。なんと盗み見てきた女になっていく体が、諸肌をむいて現れようとは。
「痛い、離せ」
「前を隠せ!」
「おや、なんだお前」
目を覆って怒鳴るが、意外にむこうの反応は落ち着いたものだ。余裕があるなら裸を隠したろうかと指を開くと堂々と腰に両手を当てている。なんと、勇ましい…

「ははん。お前が恥ずかしがっていただけの話か。バカらしい」

まとめあげられた髪から滴が落ちている。女というだけで、体は武器だ。
こんなに色気のない子でも。
「…それだけじゃない。おいそれと、軽くさらしていい肌じゃないだろう」
「なぜ?」
「……いいさ。古いと笑うだろうがな、次子。お前は嫁入り前なのだから、恥じらってくれ少しは」
背を向けて湯船に座る。
確実に、この子に顔向け出来ないようなことになる。体がそういう反応をする。そう思っていた。
しかしあまりにも堂々とした、いっそ観音像や彫刻といった美術品のような姿にあくを抜かれたのか情けない結果にはなっていない。今のところは。
「お前はこの家の大事なお嬢様。いい加減にわかってくれ。嫌でもなんでも」
「またその話」
うんざり、こりごり。声にありありと浮かんでいる。
「バカみたい。触りたいなら触ればいいのに照れちゃって」
誘惑にしては艶がない。そもそもこんなに潔くては誘惑とは言わないか。
「次子、俺たちはまだ中学生」
流行らぬ心掛けだろうと無いよりいいと思っていた。学生のうちは、なんて健全を説こうと口を開いたのに次子が背中にひしと着き、ひぃと息を飲むすきに気っ風のいい号が飛ぶ。

「いいか女の乳なんてのはな、女のためにはついてない。男と子供のためにあるんだ。触りたければ触ればいい。何の遠慮があるんだお前」

強い…次子は間の抜けた女に見えて、こうである。我では無くて芯が強い。
「だいたい中学生になったんだからだめで、じゃあ高校生になったらいいのか。くそくらえ」
「お嬢!下品が過ぎる」
お嬢と呼ばれるのはすこぶる気に食わない彼女だ。つい思い切り振り返ってしまうと我が肩に片肘をかけた女がぎろりと間近で睨んでいた。
「……俺は正しい…」
「ふん、いいじゃないか。いずれお前のものなんだから」
怒って、何を言っているのか。ぬるんだお湯だというのにのぼせてきた。
「次子、何を」
「私ならお前のものだろう。何をと言うならこちらのセリフだ」
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らして、湯船に浮いたコップを拾う。優雅な曲線に貌とられた上体が泡の海をわたっていく。

「何度忘れてくれるのかな。お前ときたらさ……」

やれやれ、
そこで泣くんだからずるい。





2011.04.08.









***

夜行の…からの14歳。かな…?
ぶちぬいた長編書いたら設定も定まるだろうに、源佐久♀は基本主従+幼なじみのつもりでいるけどあらゆる萌えが捨てがたい。

平凡パンチは60年くらい前の、平たく言えばエロ本です。




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