2012/02/04 Sat 04:35

★ 単発連載《 箱 》A



※ 前回との繋がりとかあんまりない
※ 意味なし短文。リハビリ用





学校に来ないクラスメイトが居る。2人居る。
いつも思うけどいない奴を居るっていうのはどうもおかしい気がする。まあそれは今はいい。

さて学校に来ないクラスメイト。1人は不動明王。こいつは不良だし、前からひどいサボリ癖を存分に披露していたから今さら来なくたって大した問題には思わない。教師はむしろ喜んで見えた。しかしもう1人はかなり真面目でどちらかといえば大人しい人種だ。理由なく故意に続けて欠席なんてのは、端から見たらしでかしそうもない。
(…案外、って事もあるか)
別に親しいわけではなかった。
怖ろしく美しい姿と名前、振る舞い、態度、その他目で見てわかる情報以外、鬼道が彼女について知っている事はなかった。
しかし全てにおいて「怖ろしく美しい」という形容詞が付く。ただ「美しい」ではだめだ。間違っている。「恐ろしく」でも違う。それでは誤解を与えてしまう。

彼女には「恐怖」を覚える!

鬼道は誰も座らない、教室で静かに佇み主を待つ無機質な机と椅子のセットをじっと見つめた。
あのまわりには、なにか清い気配がある。
彼女の存在があのただの机と椅子さえも、浄化された聖域に変えたように見せるのだ。

補足。
鬼道有人は“来ないクラスメイト”に恋愛感情を持ってはいない。

好きではあるが、恋ではない。ちなみに話したことも数回程度。どれも業務的な連絡に過ぎず、会話とは言えない内容だった。
鬼道が彼女を“好き”とするのは、彼女が「怖ろしく美しい」という事だけが理由ではない。むしろそれがあるからこそ恋には昇華しないように思う。
無論美しい事に越したことはない。綺麗だ。華麗だ。美しい。でも鬼道は。
鬼道は彼女の声と所作、そして謎めいたその未知の魅力を愛していた。
それも秘めていた。誰にも話した事は無く、また誰かに話すつもりも無かった。独特の思慕。
ただの“美しいクラスメイト”を、ただ美しい、素晴らしいと見ているだけ。この先に恋があるならなにがあったって進みたくはなかった。
“恐怖”を覚える彼女の容姿について客観的に考えると、まずはその“美”に気付く者は圧倒的に少数であるだろう。彼女は地味だ。オスもメスも近頃とにかく派手な方が好まれたりする。それは鬼道には理解し難い現象であったが好都合でもあった。彼女の美しさが持て囃されてはその芸術性が損なわれる気がした。完璧なのだ。
(これはコレクション願望があるのかもしれない)
己の思考に待ったをかける。ちょっとばかり、ぐらり。彼女を何もない部屋に閉じ込めたらどうなるかな。
(なんて)
机と椅子を眺めながら、彼女へ抱く様々を洗いざらい全く確認すると、鬼道は少々愉快になった。いつもこうだ。彼女の事を考えると、気分が良い。
針のような美。
ひるがえる髪。長い脚。華奢な肩。細い腕。さらに細い手首。に巻かれた上品な時計。折れそうな首。透き通る目。輝く爪。輝く唇。輝く睫毛。輝く、輝く、輝く…

「存在しないけどな」
「お前、またか」
仰向けに寝転んだまま、鬼道が笑った。
「会いたいなぁ……
来ないんだもの」
「そうさな…」
じるる、と紙のパックから耳騒がしい音が鳴る。不動はいつもミックスジュース。80円のミックスジュース。あれ、まずいらしいよな。
「名前はあんのか」
「は?」
「カノジョ」
ああ、“彼女”ね。
「それが思い付かないんだ」
鬼道は楽しそうに微笑む。快晴の天下は気分がいいが、鬼道がこんなにごきげんになるのは“彼女”の事を思う時だけ。
「仮名も無い」
「仮名も無いな」
「付ける気もない?」
「いやぁ……綺麗な名がいいなぁ……」
「………」
不動がため息をつく気配がして、鬼道はまたくっくと笑う。
「………」
「………」
「………」
「………っくし!」
「箱に……」
目はつむったままだったが、不動は一瞬びくりと体を強張らせた。それが鬼道にはわかった。
「……何?」
問うたのは鬼道だった。その反応の意味を知りたい。
「別に」
「出たな。“別に”」
「なんも」
「出たなァー?“なんも”」
「うっぜ」
あはは、と笑う鬼道のその笑い方が、不動にはいつも少し狂気染みて見えていた。
「ゴキゲンだな」
「会いたいなぁ……」
「どこにいんのよ」
「秘密」
「キショ」
長いこと返事も声も無い。
鬼道は眠ってしまったようだった。
不動は黙って屋上を去る。
鬼道の心に住む美しい少女。
それは本当に綺麗なんだろう。



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