2012/02/03 Fri 05:46

★ 単発連載《 箱 》@



※ 意味なし短文。リハビリ用。
※ 軽グロ注意





路肩に置かれた段ボール箱から血が出ていた。箱が血を流す?おかしいな。
見当はつくよ。嫌な感じの穴がたくさんあいてるから。あれは傘だな。傘で刺したんだろう。
なかみは、猫か、犬か。
なんにせよ気分がいいもんじゃない。雨が降ってるから余計に悲惨だ。段ボールがふやけてぶよぶよしてる。覗く気なんかなかったけど、どっちみちあれの真横を通らないといけない。家はその向こうだ。
見たくはない!と思いながら、うええ、とか思いながら、どうせ、見る。ちらっと。一瞬。うええ。鼠か。

箱の横を通りすぎたら、もう気分は走るしかなかった。

「わかるか」

5年も前のある日の事を、鬼道はいかにも昨日起きた事のように話して聞かせた。不動は鬼道を見もしない。
「あの気持ち悪さ」
語るに落ちる鬼道の言葉は全て右から左そしてパッと消える。
「しかも1匹じゃない」
「へー」
「何十匹も入ってるんだ。それに濡れてるんだぞ?」
「きもちわりぃ」
「そうだろ?!」
普段こんな風に興奮して話す奴じゃないのにな。なぜ急にそんな話。5年前?なんの話だ。
眉間に皺を寄せながら、不動はひたすら雑誌を読んだ。
今週は好きな漫画が載ってない。今は読んだことのない漫画を読んでいるが、案の定面白くはなかった。くだらねえ。これで支持されてるもんなのかね。
「聞いてないな」
「聞いてないなァ」
「そうだろ」
「まぁ…」
「なんの話をしてたかぐらいは、わかったか?」
「さー」
ばしっ、と頭が叩かれる。
おい、結構な力だったぞ。

目を上げれば鬼道は立ったままだった。段ボール箱の話を始めた時から立っている。それは唐突だった。
「段ボールに鼠がつまって死んでたってハナシ」
「ぶん殴るぞ」
「もう殴っただろバカ」
「まったくわかってない」
「失せろ」
「わかってない」
鬼道は怒りを込めたような、呆れたような調子で言い捨て去っていった。お前はなにもわかってない。そういう言い方だ。不動の昼休みは鬼道が過去に偶然出会った気色の悪い箱の話でぶっつぶれた。気分の良い話ではないぶん、“ぶっつぶれ”た感が強い。鼠が雨の日に段ボール箱に詰まってて傘で刺されてちみどろに?ウエー気分悪ィ畜生鬼道バカが。

「あれだよ」

放課後には不動は鬼道が昼休みに話した鼠も箱も雨も血も忘れていた。箱は倒れていた?置かれていた?無造作だった?雨の量は?穴の様子は?鼠の種類は?大きさは?血はどんな風に広がってた?臭いは?犯人は?
鬼道は説明はしなかった。
ただ、こういうことがあったという話をしただけでも、不動の頭の中での映像は綺麗に出来上がっていた。わりに幻想的な世界に見える。
「あれ?」
「話したろ。鼠の箱」
「あぁ?」
(『5年前になるが』)
「は?」
「何故かあるんだ。あの日の箱」

不動は立ち止まった。
鬼道は歩いていく。
箱から2Mほど離れた場所でしばし止まり、歩きながら箱を覗いてまた箱から2M先へ進んだ場所で立ち止まり振り返る。

「おんなじだ!」

不動には箱など見えなかった。
鬼道は路肩を指差して、
「また、誰か懲りずにやっているんだ!」
叫ぶように言う。怒って見えた。
「たちのわるいいたずらだ!」
「鬼道、見えねえよ!」
「いいや、ある!
お前は俺が箱を見て、立ち止まり、通りすぎるまで、箱を意識できたはずだ!」
「なんのはなしだ!」
「夢だ!」

途端、鬼道を含む背景が、うにゅる、と歪み、へどろ状になったと思えばサッと跡形もなく霧散する。

今は4時限目が終わったところ。
不動は教室の自分の席で、よだれを垂らして眠っていたのだ。



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